作品タイトル不明
赤鬼戦
僕が握りこんだアクセルに反応して、魔導バイクが加速する。
一度急制動をかけて停車した位置からゼロ発進でグングンと加速し、赤鬼との距離が無くなっていく。
対する赤鬼のほうも、僕に向かって走りながら手に持つ丸太を振りかぶる。
双方から走り寄ることで、数十メートルあった距離は一瞬で潰れた。
攻撃は赤鬼のほうが速かった。
僕が乗る魔導バイクごと吹き飛ばそうというのか、大きな丸太を横なぎに振る。
丸太がこちらに向かってくる瞬間、「死ぬ」と本気で思った。
この攻撃を食らうわけにはいかない。
アクセルを握る右手はそのままに、僕はバイクを走らせながらスコップを振った。
成人男性の二倍近くはある巨体。
しかも筋骨隆々の赤鬼が振るうぶっとい丸太を、僕はスコップで迎え撃った。
丸太による攻撃を、スコップを下からすくい上げるように振り抜き、弾いた。
ドンッ。
そんな大きな音がして、バイクの軌道が逸れた。
バイクは無事だ。
スコップを振り上げて丸太を上へと弾いたことで、直撃は避けられた。
衝撃で体勢が大きく崩れる。
ハンドルも暴れたが、僕は右手と体幹だけで無理やり立て直し、転倒を防ぐ。
だが、ダメージがなかったというわけではない。
左腕が千切れたかと思うほどの衝撃が走った。
圧倒的な膂力を持つであろう鬼のモンスターによる攻撃を回避するのではなく跳ね返したのだ。
その力を僕は腕一本で受けたことになる。
単純に物が肉体に直撃したのであれば、スーちゃんのスライムスーツにより衝撃を緩和できたのかもしれない。
が、丸太とスコップを打ち合うという衝撃は和らげることができなかったようだ。
しかし、それはこちらだけの話ではない。
ぶつかり合った結果、衝撃があったのであれば、当然相手にも同じだけの衝撃があることになるからだ。
僕は非力な中学生男子だけれど、今のスコップの一撃は僕の肉体だけで生み出したものではない。
まだ加速途中であったとはいえ、魔導バイクを加速させて生み出していた力を乗せた一撃であることは間違いなく、それを赤鬼は受けたことになる。
僕のスコップによる上部へと弾き飛ばす攻撃は見事に成功していた。
丸太を持つ腕だけではなく、赤鬼の巨体そのものが大きくのけぞる。
完全に隙ができていた。
「お願い、スーちゃん」
その隙を、僕もスーちゃんも見逃さなかった。
僕の肉体やバイクを覆い、守りを固めてくれていたスーちゃんの体が変化する。
スーちゃんは普通のボール程度の大きさしかないスライムと違い、その体の大きさを変化させることができる。
そして、今回はその一部を切り離して飛ばした。
スーちゃんの体の一部がのけぞった状態の赤鬼の体へと向かう。
そして、命中。
その結果、赤鬼は顔全体をスライムに張り付かれることとなってしまった。
モンスターと言えども生物であるのは同じようだ。
そして、サイズ感は違うものの人のような肉体を持つ赤鬼も、どうやらその顔についている口や鼻から呼吸をしているみたいだ。
口と鼻を塞がれ、赤鬼が慌てた。
とっさに手に持っていた丸太を落として、顔に張り付いたスライムを取り除こうと手でつかみ取ろうとする。
その結果、上体がのけぞった時以上に大きな隙を晒すことになった。
顔に手をやり、スライムを取り除こうとする赤鬼に向かって、バイクを無理やりターンさせた僕は再び突っ込み、今度はスコップを喉元へと突き立てる。
ドスッ――。
鈍い感触とともに、スコップが赤鬼の喉元へと深々と突き刺さった。
さしもの巨躯を誇る赤鬼もこれには耐えられなかったようだ。
ドサリという大きな音をたてながら、顔に手を伸ばし、首から多量の出血をしつつ動かなくなった赤鬼の死体が道路に横たわることとなった。