作品タイトル不明
激突
峠道を越えて少し広い道に出る。
そこをバイクで気持ちよく走っていたのだけれど、そんな気分のいいライドに唐突な終わりが訪れた。
僕が走るライン上に石が飛んできたからだ。
割と大きな石――いや、岩と言っていいものが、ブォンッと風を裂いて飛んできて、僕の進行方向へと叩きこまれた。
それを見た瞬間、僕はとっさにハンドルを切り、ブレーキを握りこむ。
車体を半ば横滑りさせながら、強引に急停車した。
キキィィッと嫌な音を立ててバイクが止まり、その直後、さっきまで僕が走っていた場所に岩が叩きつけられた。
危機一髪だ。
誰だ、こんなことをするのは。
冗談や遊びじゃすまないぞと思いながら、それをした者を見て驚く。
人間じゃなかった。
一目見たイメージは赤鬼。
身長が成人男性の二倍くらいあるんじゃないかと思う大柄で筋肉質な鬼がそこにいた。
「マジかよ。僕の都会にモンスターが出る説とちげーじゃん」
山から下ったまだまだ田舎の道に過ぎないこんな場所でモンスターに出会ってしまった。
都会となっている場所は地脈がめちゃくちゃだからダンジョンができやすくスタンピードが起これば被害が出る。
逆に田舎だとそういうことが少ないと思っていた。
だから、こんな田舎道なら気楽に走れると思っていたのに。
最悪だ。
目だけを左右に動かすが、近くには誰もいない。
助けを求めることもできなさそうだ。
失敗したかもしれないな。
とっさに思ったのはそんなことだった。
カッコよくキキーっとバイクを停めたのだけれど、うまく投石を避けて走り去ったほうがよかったと後になってから思う。
こんなの、どう考えても逃げるのが正解だ。
だけど、一度バイクを停止してしまったからもう逃げられる気がしない。
今からバイクを走りだしたとしても、後ろから石を投げられる気しかしない。
「くっそ。このバイク買ったばっかりなんだぞ。モンスターに壊されたら保険って降りるのかな?」
納車されたばかりだぞ。
まだ一日も経ってないんだぞ。
思わずそんな愚痴が頭によぎりそうになるが、それをなんとか振り払う。
この状況、バイクで走り抜けるのは難しい。
かといって、バイクから降りて鬼と向き合うのも難しい。
ならば僕に選べる選択肢は少ない。
あの赤鬼は倒す。
ここで仕留めておかないといつでも気軽にバイクを走らせることもできないし、いずれ僕の町に来るかもしれないからだ。
じゃあ、どうやって倒すか。
スコップしかないだろう。
僕はモンスター退治なんてほとんどしたことがないけれど、三つ目黒犬はスコップで殴り倒すことができた。
だったら、あの赤鬼も倒せるかもしれない。
バイクにまたがったまま、背中に背負うリュックに手を入れる。
その中にある白龍の革袋からマイスコップを取り出した。
スコップを左手に握り、右手はバイクのハンドルを握る。
一瞬の静寂。
相手もこちらがどう動くかを見ようとしていたのか、石を投げてきた数十メートル先の道路わきで直立して様子を見ている。
お互いが音もたてずに向き合い、そして動き始めた。
エンジン音もしない僕の魔力駆動バイクが急発進する。
右手で握るハンドルを全開で回して、最大スピードで急発進した。
左手にはスコップを握ったままだ。
もし僕が乗っているのが馬で、握るのが大型の馬上槍ならば、きっと僕の姿は中世の騎士のように見えたことだろう。
しかし現実の僕は、バイクにまたがってスコップを握ったまま、モンスターへと突っ込んでいく。
決してかっこいいとは思わない。
が、やれることがこれしかなかった。
それに対抗するかのように、相手の赤鬼も急発進した僕に向かってくるように走り始めた。
手に持っているのはどこかで拾ったのか、丸太のような棒だ。
やばいな。
あんなもんで殴られたら僕は死ぬかもしれない。
だが、もう逃げられない。
僕と赤鬼はお互いが相手との距離を縮めるように接近して、その手に持つ武器をぶつけ合ったのだった。