作品タイトル不明
女性の提案
「あ、これは失礼いたしました。ちょっと懐かしい顔が見えたものでして。こいつの名前は……、そういや、坊主の名前を知らなかったな」
近づいてきた女性の問いかけに対して、監視員のおじさんこと金剛寺さんが答えようとして僕に尋ねてくる。
そういえば、僕の名を言っていなかったっけか。
まあ、昔に名乗っていたとしても、向こうにとっては十年前の話だ。
覚えていないだろう。
「桂佑馬です。よろしくお願いします」
「桂様ですか。お初にお目にかかります。わたくしの名は五条六花と申します。以後お見知りおきを」
……なんかあれだな。
すごく上流階級の人っぽい雰囲気を感じる。
ただの挨拶ひとつとっても僕とは違う。
名前を名乗り、軽く頭を下げる。
その仕草だけで、人を惹きつけるオーラを感じる。
五条さんが口を開くたび、周囲のスタッフたちがわずかに背筋を伸ばす。
正直、金剛寺さんと並んで番組に出るには不釣り合いなくらい上品な女性だ。
「桂様は金剛寺様とお知り合いなのですね。今日はどうしてここに来られたのでしょう?」
「えっと、特に理由はないですけど、なんとなく前にダンジョンがあった場所が今どうなっているのかなと思って見に来たんです」
「ダンジョン跡地をご覧になるため、というわけですね。どうでしょうか、金剛寺様。桂様もご一緒に見学をするというのはいかがでしょう」
「坊主も一緒に、ですか? そりゃあ、こちらは問題ないですが、坊主はどうだ? 一応テレビの取材のために今日は来ているから、一緒にダンジョン跡地を見学するってなると、もしかすると映るかもしれん。肖像権とかそういうのは大丈夫か?」
「え、テレビに出られるの? 面白そう。いくいく」
おお、なんか知らんけど面白そう。
五条さんからの提案を即答で受け入れてついて行くことにする。
すぐにテレビカメラを持つクルーに向かってピースサインをしてアピールをしたが、それはやめろと金剛寺さんに止められた。
僕は消滅したダンジョンの地元に住む一般人くらいの立ち位置らしい。
ダンジョン消滅を調査しに来た二人と偶然であい、軽くコメントをする一般人――そんな扱いになるらしい。
なので、あまりでしゃばりすぎずに普通にしててと言われた。
ま、それならそれでいっか。
僕は二人のあとについて歩きだす。
その後ろからはテレビクルーたちも続いてきた。
そして、住宅街の中にある、もともとダンジョンがあった場所へとやってくることになった。