作品タイトル不明
世界的スタンピード
この世界にはダンジョンが存在している。
だが、このダンジョンというのは昔は存在しなかったという。
古代や中世、そして戦国の世や江戸時代には文献上存在が確認されていないダンジョンだが、近世に至って世界中で発生し現代にいたる。
すでに科学技術の発達した現代において、本来であれば想像の埒外にあるはずの異空間と、そこに現れるモンスターの数々。
ダンジョン黎明期には世界中で混乱が起こったと言われている。
だが、それでも世界がある程度平穏でいられたのはダンジョンから魔物であるモンスターたちが出てきたりはしなかったことが理由のひとつだ。
ダンジョン内部には他では得られない物が手に入るし、魔石なども得られる。
モンスターは危険ではあるが見返りも十分にあるということでダンジョン内を探索する 探索者(シーカー) なども登場し、いつしかダンジョンは経済活動の一部へと取り込まれていった。
けれど、それは嵐の前の静けさだったのかもしれない。
ダンジョンからモンスターは出てこない。
世界中の人類が当たり前だと思っていたそれは、我々の幻想に過ぎなかった。
モンスターは出てこられないのではなく、出てこなかっただけだ。
それが百年以上続いた偶然――奇跡だったことを、僕らは思い知ることになった。
ある日、世界中でダンジョンからモンスターが出てくるという出来事が起こった。
スタンピードだ。
物語ではそういう話もありつつも、現実にはあり得ないと思っていたことが実際に起こってしまった。
テレビやインターネットでは町中に解き放たれたモンスターが人を襲い、建物を壊す映像が流れている。
各国はその対応に追われているが、いかんせん後手に回り、対処が追いついていない。
わずか数日で多くの人が亡くなるという未曾有の事態になってしまった。
不幸中の幸いと言っていいのかはわからないが、ダンジョンからあふれ出たモンスター群に対して人類が全くの無力であったというわけではないのが救いだろうか。
よくある「モンスターには銃などの物理攻撃が効かない」といったことはなく、相応の威力がある攻撃を繰り出せば倒すことができる。
また、普段からダンジョン内に入りモンスターと戦う 探索者(シーカー) が多数いる場所では彼らの奮闘で人的被害が比較的抑えられるといったことがあった。
まあ、それも国により全然被害規模が違うみたいだけれど。
スタンピードが発生し、すぐに軍隊を派遣して対応できた国は割とすぐに事態を収束できたところもあるが、そうではないところでは大変なことになっているみたいだ。
ただそれも分かっている範囲で、という注意書きが付く。
情報を公表しない国も当然あるだろうと言われ、ダンジョンのスタンピード情報を全く出していない国はむしろ怪しく、全然対応できていないのではないかとささやかれているようだ。
とまあ、そんなよその国のことはひとまず置いておこう。
今重要なのは僕が住む日本の話だ。
日本でも当然スタンピードは起こった。
だけど、世界的に見て結構早く対応できた国になるんじゃないだろうか。
むしろ、どの国よりも抑え込みに成功しているのではないかと僕は思った。
が、いかんせん日本はほかの国々よりも人口密度が高いという問題がある。
国土のほとんどを山が占めており、ごくわずかな平野部に人口が集中している。
そんな密度の濃い場所で人を襲うモンスターが解き放たれ、抑え込めたとしてもそこからこぼれ出るものもいないわけではない。
すると当然ながら被害は出る。
被害を割合で見れば世界的には少ないかもしれない。
だが、実数で見れば、決して無視できない数の人がスタンピードで亡くなった。
それなのに――
僕の住むこの町は、驚くほど静かだった。