作品タイトル不明
お地蔵さんへの感謝
「うわ、懐かしいな。まだあるんだ、っていうのもおかしいか。けど、結構汚れてるな」
スーちゃんと一緒のランニング。
ゴミを見つけては拾い上げ、スーちゃんに渡して食べてもらう。
そんなことをしながら走っているときに、僕の視界の端にあるものが見えた。
それはお地蔵さんだ。
石でできた小さな地蔵が道路わきにポツンと立っている。
そういえばすっかり忘れていたけど、ダンジョンに行く途中にあったなと思い出す。
僕としてはついこの前に掃除をしたばかりのように思ったけど、前に僕がお地蔵さんの掃除をしたのは十年も前のことになるはずだ。
その間に誰かが掃除してくれていたのかはわからないけれど、お地蔵さんには苔が付き、周りにもゴミが散らばっていて汚れていた。
せっかくなので、久々に掃除を行うことにした。
周囲に散らばっているゴミを片付け、スーちゃんに処理してもらいながら、素手で苔も取り除いていく。
すると、昔と変わらない姿のお地蔵さんがそこに現れた。
ここに来るまでのランニングで、結構町中が変わっているなと感じていた。
十年という歳月に、僕はまるで実感がないけれど、やっぱり時間が過ぎているんだなというのは目にする景色の変化で感じ取ることとなった。
だが、このお地蔵さんだけは違う。
以前と同じ場所にあり、この地を見守ってくれている。
パンパン、と手を叩いてお礼を言う。
別にこのお地蔵さんが僕に何かをしてくれたというわけではないけれど、無事にダンジョンからここに戻ってこられました、ありがとうございますと心の中でつぶやいて感謝する。
もしかすると無事に戻れたのはこのお地蔵さんのおかげであるかもしれないしね。
ありがとうと言うくらいなら、きっと悪くはないだろう。
「ん? どうしたの、スーちゃん。もしかして、それをお供えでもするの?」
僕が小さなお地蔵さんの前にしゃがみ、手を合わせていたときだ。
僕の体を覆っていたスーちゃんの一部がニューっと伸びて変形する。
触手のように伸ばしたその先には、ひとつの物が掴まれていた。
魔石だ。
ダンジョンで手に入れて白龍の革袋に詰め込んでいた、今ではスーちゃんのおやつ替わりになっている魔石。
それをなぜかスーちゃんが掴んで僕へと渡してきた。
一瞬、その魔石をどうするのかと疑問に思ったが、どうやらスーちゃんは僕からお地蔵さんへと魔石を渡させようとしているっぽい。
スライムにお地蔵さんへお供え物をするという発想があることに、少し驚く。
だが、せっかくのスーちゃんの厚意なので、僕は受け取った魔石を手に取り、お地蔵さんの前へとゆっくりと置いた。
「僕が無事に帰ってこられたことと、この地をずっと守っていてくれてありがとうござます。どうぞ、この魔石を受け取ってください」
どこの世界に地蔵に魔石を捧げるやつがいるというのか。
そう思ったけれど、まあいいやと軽い気持ちでお供えする。
すると、次の瞬間とんでもないことが起こった。
僕がお地蔵さんの前に魔石を置く。
すると、その魔石がパアッと光った。
その光とともに、魔石に内包されていた魔力がゆっくりとお地蔵さんへ流れ込んでいく。
僕はその光景に驚き、口をぽかんと開けたまま、見ていることしかできなかった。