作品タイトル不明
前提条件
「清掃業の仕事は人件費と出てきたゴミの処理費用を事前にどのくらい正確に見極められるかで利益が全然違ってくるんだ。普通はどうしても人手がいるし、一人当たりいくらっていう人件費が発生する。だから、仕事を受けるときには、この現場はどのくらいの人数と日数で仕事を片付けられるか考えてから見積もりを出す必要があるし、その見通しが甘かったら赤字になっちゃうんだよね」
清掃業について、手を動かしながらレクチャーする渚。
それを「ふんふん」と頷きながら聞く。
会社経営で利益を出すのはひとえに仕事を請け負う社長である渚の腕次第ということらしい。
片付けるだけなら、人手や日数をかければ誰でもできる。
だが、それだと利益が出ない。
それに、依頼人にも予定があるので、当初予定していた日取りから大幅に遅れるようなことがあれば信用にも関わる。
値段を安くして請け負うだけで儲けが出るわけではないようだ。
だが、ほかの同業他社と比べて渚の会社が優れているのは、マンパワー以外に頼れる存在がいることだ。
それが、ゴミを食べてくれるスライムの存在だ。
スライムをうまく活用することで人件費も減らせるのが相当大きいようだ。
また、スライムを活用していることは大々的に公表していないため、仕事を請け負う額は他社よりも安いけれど、激安というほどではないために利益幅は大きいとのこと。
うまくやっているんだな、と感心しながら話を聞いていた。
「よし、なんとか通路のゴミは端によせたから、楓はスイちゃんたちを二階の部屋に連れて行ってくれないかな」
一軒家の庭先から玄関までと、玄関の中から二階へと昇る階段までを簡単に片付けてから、渚は楓ちゃんへと指示を出す。
どうやら、二階部分の片付けをスライムたちに任せるみたいだ。
一軒家の場合は二階にも箪笥などの重たい家具や荷物、ゴミがたくさんあり、それらを何度も階段を上り下りして外に出すのはかなりしんどい作業らしい。
なので、スライムたちが二階のゴミを食べてくれるだけでもものすごく助かるとのことで、その間に渚は自分で一階部分の片付けをしていこうと考えているみたいだ。
「……僕のマイベストパートナーのスーちゃんにもゴミを食べてもらおうか?」
「ありがとう、佑馬君。助かるよ。それじゃあ、悪いんだけどスーちゃんには一階のトイレとかお風呂場とかキッチンなんかの汚れがひどい場所を担当してもらえたら助かるかな」
「んー、ちょっといいかな?」
「え、どうしたの? あ、トイレとかは嫌だったかな? それなら向こうの和室でもいいんだけど」
「いや、そうじゃないよ。スーちゃんだったら、この家くらいのゴミや荷物は食べようと思えばすぐに食べられるんだよね。やってもいいなら、一気に全部食べてもらうけど、どうする?」
「は、え、いや……。佑馬君のスライムってそんなにたくさんのゴミをすぐに食べられるの? 僕らのスライムはゆっくり消化するから時間がかかるんだけど」
だろうね。
というか、スーちゃんも最初はそうだった。
たくさんのゴミを一気に食べるなんてことは無理だったと思う。
だけど、それはスーちゃんの体が小さかったからだ。
あの時はせいぜいボール程度の大きさであり、その体でゆっくりと壁や天井、床を動きながら食事をしていた。
しかし、今のスーちゃんは当時とは全然違う。
なぜなら、やろうと思えば巨大化できる。
体を大きくしようと思えば多分三十メートルくらいの大きさにだってなれるはず。
そして、その大きな体ゆえに食欲も旺盛で、食べるスピードも速い。
渚や楓ちゃんのパートナーであるスライムたちの大きさはせいぜい野球のボールやソフトボール大であり、渚はスライムの食事や移動スピードはあまり早くないという前提で考えている。
だが、スーちゃんならばその前提とは違う速度でゴミも食べられる。
まだ実感が追い付いていない様子の渚だったが、僕が許可を求めると、混乱しつつも「いいよ」と頷いてくれた。
そこで僕はスーちゃんにお願いする。
このゴミ屋敷の敷地内にあるゴミを食べて、と頼んだ。
僕のお願いを聞いたスーちゃんの体が、ぶわりと膨れ上がる。
次の瞬間――
近くにあったゴミの山が、音もなく消えていった。
「……え?」
スーちゃんの食事を見て、渚が完全に言葉を失った。
最終的に、わずか一時間もしないうちにこの一軒家は室内どころか小さな庭に至るまですべてのゴミが食べつくされた。
さらにはクロスも天井も外壁も、まるで新品のようにきれいになったのだった。