作品タイトル不明
孫の悲劇
「すごいね。まさに、ザ・ゴミ屋敷って感じの家だね」
家の中だけではなく敷地内全体にゴミが高く積もっている状況に驚きながら言葉を発する。
人は住んでいるんだろうか。
自分であれば絶対にこんなところに住みたくはないが、渚の話を以前聞いた限りではこういう状況であっても住む人はいるのかもしれない。
「ここはもう誰も住んでいないおうちだね。簡単に説明すると、去年ここで一人暮らしをしていたおばあさんが亡くなって、それを若いお孫さんが相続したんだ。けど、こんな状況になっていることを知らなかったみたいで、引き取ったはいいものの、処分に困って相談に来たんだよ」
玄関前で渚と楓ちゃんが車の中から掃除道具を出しながら説明してくれる。
話を聞く限りでは現在はここには誰も住んでいないみたいだ。
この前カフェで聞いたときにも相続問題について軽く聞いてはいた。
昔は亡くなった祖父母の家を相続しても、しばらくそのまま放置していても問題なかったみたいだ。
だが、法律が変わり、相続人が正式に引き継ぎ、税金なども払わなければならなくなった。
その結果、こういう状態の家はいわゆる負動産などと言われ、処分に困るものになっているという。
相続人がここに住みたいわけではないのですぐにでも手放したい。
だが、買い手はつかない。
せめてこのゴミだけでもなんとか処分しないと売りようがないのだそうだ。
そして、この家のようにゴミ屋敷の隣には今も住んでいる人がいる。
そういう隣人からも相続人に対して「早くこのゴミを何とかしてくれないと困る」とせっつかれているそうだ。
そりゃそうだ。
こんな状態で誰かがたばこのポイ捨てでもしたら、あっという間にこの家は燃えるだろう。
愉快犯の放火魔が、いつ目をつけるかもわからない。
隣人からの要望は当然のものだ。
だが、相続人も困る。
なぜなら、お孫さんは今この近くに住んでいるわけではないからだ。
自分たちでどうにかするには遠すぎて、この家を自力で片づけるのはほとんど不可能と言えた。
日増しに強まる隣人からの要望と、税金などの対応。
悩んだ末に、この家はお金を払ってでも片付けて処分するしかない。
そう結論付けたらしい。
渚の勘では、この土地ではゴミの片付けを含めた処分費用などを考えるとそれなりの相続金が無ければ赤字にすらなるレベルだそうだ。
若いお孫さんは子どもが生まれ、自分の家もローンで買ったばかりで懐事情は決して良くない。
相続するんじゃなかったな、と小さくつぶやきながらも格安で片付けてくれる料金設定の渚の会社を見つけて依頼してきたという。
「こういうケースもよくあるの?」
「そうだね。相続しても持て余すケースは多いよ。それに長年住んだ家はゴミ屋敷じゃなくても物が多いから処分するのも大変なんだ。ゴミは捨てるだけでも費用が掛かることを普通の人はあまり認識していないから、最初に会社に相談する人はたいてい値段に驚くんだよね」
「それにしたって、ここに住んでいたおばあさんもゴミ溜めすぎだろ。なんでこんなにイスとかがあるんだよ」
「佑馬君、知らないの? 意外と椅子をたくさん買っちゃう人って多いんだよ。特に高齢者は立っているのがしんどいらしくて各部屋にすぐに座れる椅子を用意する人が多いんだけど、座り心地が違うって言って一部屋に何脚も椅子を置いちゃう人がいるんだ。ここにいたおばあさんもそういうタイプだったんだろうけど、この様子だと、晩年は近くのゴミ捨て場からも持ち帰っていたんじゃないかな?」
へぇ、と渚の話を聞きながらそんな人もいるんだなと驚く。
椅子なんか一つか二つあれば十分だし、ゴミ捨て場から椅子や机やその他少しでも使えそうなものを持ち帰る人っているんだ。
そういう人は周りがやめろと言っても聞かないことが多く、悪化するとこういうふうにゴミ屋敷になっているのに、さらによそからゴミを持って帰ってくることがあるらしい。
ゴミ屋敷って、ただのだらしなさだと思っていた。
でも――違うのかもしれない。
世の中、変わった人がいるんだなと渚の話に聞き入っていた。
そうして、話が一段落したことでいよいよ作業を開始することになった。