軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

(第22話)王子の後悔(のようなもの)~フレディ殿下目線~

「私は国王陛下からの宣言をすべて受け入れます」

信じられないことにルーラは父上の前で、学園を卒業したら僕と結婚して病める者達のために国中を旅して巡ることを受け入れた。

僕が事前に断るように懇願していたにも関わらずだ。

デイジーとの婚約を解消してから何もかもが思い通りにいかなくなった。

……デイジーとの婚約さえ解消しなければ……。

それは今まで何もかも自分の思い通りになっていた僕の人生で、初めて感じた後悔のようなものだった。

目を覚ましたデイジーと話をしたいとずっと思っているのに、聖女と旅に出るために王国中の領地に関する知識の習得が必要だという名目で、日々教育と課題を与えられ学園に行く暇さえもなくなった。

このままだと本当に手遅れになってしまう。学園を卒業したらすぐに僕は旅に出発させられてしまうし、デイジーはライアンと結婚してしまう。

卒業までになんとかしなくては。他の貴族達が見ている前でデイジーに『フレディ殿下と結婚したい』と言わせれば、そうすればデイジーとライアンの婚約は、サマセット公爵家から破棄されるだろう。そして傷物になったデイジーを、ルーラとの婚約を解消した僕が拾ってあげればいい。そうすれば最悪でも僕は、アスター侯爵家を継ぐことは出来るだろう。

病人のために国中を巡る旅に出ることさえ回避出来るのなら、もはや王太子になれなくてもいいとさえ思っていた。

★☆★

卒業直前のタイミングで僕はやっと王宮を抜け出すことに成功した。

学園で少しでも人目が多いところと考えて中庭でデイジーを待っていた。数か月ぶりに学園を訪れた僕に、生徒達は驚いた顔をして注目していたけれど、それは僕にとって都合が良かった。少しでも多くの人間が見ている前で、デイジーから告白させなければ。

「デイジー! 王命でライアンと婚約を結ばされただなんて、可哀想に! デイジーは、僕と結婚することを望んでいるだろう? だから迎えに来たんだ!」

待ちわびた僕は、デイジーを見つけた瞬間に声を掛けた。

この僕がわざわざ迎えに来たんだ。きっとデイジーは泣いて喜ぶだろう。そう期待して僕はデイジーを見た。だけどデイジーは、僕を見てただ困惑した顔をしていた。

いや、きっと驚きすぎて固まっているんだ。諦めていた幸せな未来が突然やって来たから。やっぱりデイジーは僕を心から慕っているんだ。

今までも、これからも、デイジーは僕のためだけに尽くしてそのすべてを僕に捧げるためだけに生きているんだ。

そう思って優越感に浸っていた僕に、想像もしていなかった言葉がデイジーから投げかけられた。

「フレディ殿下。私なんかのために社交辞令と、楽しいご冗談をありがとうございます」

「冗談、だと?」

「はい。だって私がフレディ殿下との結婚を望むことなどないことは、何よりもフレディ殿下がご存知のはずですから」

「どういうことだ?」

「以前生徒会室でフレディ殿下が宣言された言葉を、私は今でも一言一句違わずに言うことが出来ます」

僕が以前に言ったこと? なんだ? 僕は何を言った?

「恐れながら復唱させていただきます」

そう言ってデイジーは、透き通るような声で、感情を込めずにただ淡々と言葉を紡いだ。

「僕はデイジーではなくルーラを選んだんだ。何の力もないデイジーではなく、聖女の力で僕の命を救ってくれたルーラを。それが僕の選択だ。僕の選択に間違いなんかあるはずがないし、後悔なんて馬鹿なことを僕がするはずがない」

その内容は、確かにいつかルーラを守るために僕自身が言った言葉だった。

「そして私はこう答えました。『聖女であるルーラ様を選ばれたフレディ殿下の判断を信じます』」

そうだ。あの時確かに激高する僕に向かって、デイジーはそう回答した。

「だがっ! あの時とは状況が違う!」

「第一王子であるフレディ殿下が、ルーラ様を選び、後悔なんて馬鹿なことをするはずがないと私だけでなく生徒会のメンバーの前で宣言されました。それがすべてです」

「だがっ! 僕はっ!」

焦る僕に向かって、デイジーは今まで見せたこともないような満面の笑みを浮かべた。

「フレディ殿下。私との婚約を解消してくださいましてありがとうございました。やはり第一王子であるフレディ殿下のご判断に間違いなどございませんでした」

「……何……」

「フレディ殿下に婚約を解消していただけたおかげで、私は今、生まれて初めて幸せに包まれています」

「初めて……?」

「はい。ライアン様と婚約をして、生きてきて初めて幸せを感じています。フレディ殿下はそんな私の気持ちも理解してくださっていたのですよね? だからこそ何の力もない私ではなく、聖女の力で命を救ってくださったルーラ様を選ばれたのですよね?」

「……違う、僕は……」

違う、僕はそんなつもりで言ったわけではなくて、ただあの時はルーラを守らなくてはと激高していただけなんだ。それなのに、怒りに任せて口から出ただけの言葉を、まさかデイジーが一言一句違わず覚えていたなんて。まさかそれを第一王子の宣言として観衆の前で披露するだなんて……。

集まった生徒達は皆、刺すような視線で僕を見ていた。

それはデイジーとの婚約を解消してから何度も向けられた冷たい視線だった。

デイジーの言葉は、僕の婚約者だった時に幸せを感じたことなんか一度もなかったと暗に告げていた。

嘘だ。デイジーが僕と婚約していた時に幸せでなかったなんて嘘だ。デイジーは僕を慕っていたはずなんだ。それなのに幸せではなかったなんてそんなことがあるはずがないんだ。

「第一王子であるフレディ殿下が、自ら宣言されたそのお言葉を撤回などなさるはずがございません。ましてやフレディ殿下のその判断を信じている私が、フレディ殿下との結婚を望むはずがございません」

きっぱりと告げたデイジーは、五年間もずっと僕の婚約者だったはずの目の前の女は、今はまるで知らない人間のように思えた。

外見はどこも変わっていないのに、その心はなんだか別人になってしまったかのように感じられた。

目の前にいるデイジーを見て、まったく熱の籠らない目を平然と僕に向けるデイジーを見て、それでもデイジーが僕を慕っているとはさすがに思えなかった。

「すべてはフレディ殿下の選択の結果です。第一王子であるフレディ殿下の選択に間違いなどあるはずがございませんので、あなたの選んだ聖女様とどうぞお幸せになってくださいませ」

僕はついに何も言えなくなった。

どんなに反論したくても、デイジーの言ったことはすべて過去に僕自身が言った言葉だったから。

『後悔なんて馬鹿なことを僕がするはずがない』

僕は、過去の自分自身がよく考えもせずに言い放った言葉によって、後悔をすることさえも許されなくなっていた。

感じていた『後悔のようなもの』は、行き場を失って、ただ僕の心を暗く染めていくだけだった。