軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

(第21話)私が彼と生きていきたいと願った理由

「デイジー様。……僕はデイジー様に伝えたいことがあるんだ」

珍しくベッキー様がいらしていない二人きりの生徒会室で、ライアン様は真剣な顔をして私に話しかけた。

私の目が覚めて学園に戻ってきてから、一か月程が経っていた。

私が学園に戻ってくる少し前からフレディ殿下は一度も学園に登校されていないようで、生徒会長の権限どころか生徒会長の座がライアン様に委譲された。

……フレディ殿下が登校されないのはもしかしてジェイク殿下が私のために何か……と密かに思ったりもしたけれど、根拠のない推測に過ぎないのでそれは私の胸に秘めていた。

「私に伝えたいこと、ですか……?」

「ああ。……ジェイク殿下はデイジー様が望むなら、アスター侯爵やフレディ殿下が手出し出来ないように王命でデイジー様の新たな婚約を結ぶように手配すると言ってくれているんだ」

「王命で……?」

「そもそもフレディ殿下に関しては、デイジー様に手出しをする権利はすでにないはずだけどね」

「ジェイク殿下はどうしてそこまで……」

「デイジー様に幸せになってほしいと言っていたよ。今まで必死で国のために尽くしてくれた分、幸せになってほしい、と」

「……ジェイク殿下……」

「だからこそ王命は、デイジー様の望んだ相手とでないと出さないと言っているんだ」

「……私の望んだ相手……」

「僕は、デイジー様のその相手が僕であってほしいと、そう願っているんだ」

気のせいでなければいつもよりも顔を赤くして、まっすぐに私を見て、ライアン様は言った。

「デイジー様から好きな物の話を聞いた時から、僕はデイジー様に惹かれていたから」

「それはどういう……」

「デイジー様は、『フリージアの花は母親が好きだったから』好きだと言った。『ローストチキンは父親が美味しそうに食べるから』好きだと言った。それを聞いて、自分のことよりも家族の好きな物を大切に出来る人だと思った」

「……ローストチキンは……今は食べたくありません……」

「だったらこれからデイジー様が美味しいと思うものを一緒に探させてほしい」

一緒に? 私が美味しいと思うものを探す? 想像もしていなかった提案に、私は胸を弾ませた。

「曇り空は、『青空には悲しい思い出があるけれど雨だとガーデンパーティーや外出を楽しみにしている方達が困るかもしれないから』好きだと言った」

「……そんなことまで覚えていてくださったんですね……」

「青空の悲しい思い出は、フレディ殿下とデイジー様の婚約パーティーでイライザが熱中症になったこと、だよね?」

あまりに的確に私の心を言い当てるライアン様に驚いた。

十歳の時に、フレディ殿下と私の婚約パーティーが王宮の庭園で行われた。

本来なら涼しい気候のはずだったのに、その日はとても良く晴れて、とても暑かった。王宮側は急遽日差し除けのパラソルを増やしたし、冷たい紅茶やジュースも十分に準備されていたけれど、幼い子ども達は青空の下で自分でも気付かないうちに体力を消耗していた。

イライザ様は最初は転んで怪我をしたと王宮医の許に連れて来られたけれど、そのぐったりした様子に、熱中症の診断がくだされた。

「自分のために、いえ正確にはフレディ殿下のためのパーティーですが、それでも私をお祝いしてくださった方が、そのせいで体調を崩して苦しんでいるのがとても悲しかったんです」

それから私は、青空が苦手になった。

「……でもきっとそれだけでなく、どんなに空が晴れていても、私は王宮やお屋敷で課題や業務をしないといけなくて、どんなに空が晴れていても、その日差しを浴びることは出来なかったから。ただ、建物の中からその青空を見つめることしか出来なかったから。だから、青空を見ると悲しくなるのかもしれません」

「それでも雨は望まない?」

「はい。外でのイベントを楽しみにしている方達は雨だときっと悲しむので。……ただ、農作物や水不足のこととかは一旦考えないようにして言っています」

私が最後に付け加えた言葉に、ライアン様はほんの少し笑った後で、優しく言ってくれた。

「それを聞いて、自分のことよりも他人のことを尊重して思いやれる人だと思った。……王妃になるのに相応しい、国民一人一人を大切に出来る人だと」

「私はそんな……」

「僕はデイジー様をずっと見守っていたいと思っていた。だけど今は、これからの人生を一緒に歩いていきたいと願っている。デイジー様が今まで努力してきたことをサマセット公爵領の民のために活かしてほしいと、僕と一緒に支え合って生きてほしいと願っているんだ」

支え合って生きる? 私がすべてを捧げて尽くすのではなく?

「……実の親からも愛されなかった、第一王子から婚約を解消された、こんな私と……?」

「僕は、デイジー様が望んでくれるのなら、貴女と一緒に生きていきたいんだ」

「……私は、私の方こそ、ライアン様と一緒に生きていきたいと、そう、願っています」

私の言葉にライアン様はその顔を真っ赤にした。私も自分の頬がとてつもなく熱くなるのを感じた。

★☆★

それから一か月程で本当に王命でライアン様と私の婚約が結ばれて、私は卒業と同時にライアン様と結婚をすることが決まった。

ベッキー様やアスター侯爵家の使用人達は、この婚約をとても喜んでくれた。大切な人達にたくさんの笑顔を向けられて、本当に嬉しかった。

とても穏やかな気持ちで毎日を過ごしている中で、卒業までもう少しという頃、授業が終わって生徒会室に向かう途中の中庭に、フレディ殿下がいらっしゃって驚いた。

久しぶりに学園にいらしたフレディ殿下は、ただでさえ人の多い中庭で注目を浴びていたようだったけれど、私に話しかけたことで周囲は騒めいて、皆がこちらに視線を向けた。

「デイジー! 王命でライアンと婚約を結ばされただなんて、可哀想に! デイジーは、僕と結婚することを望んでいるんだろう?」