作品タイトル不明
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ボウドは魔力をみることができない。
だから自分を襲おうとしている攻撃に、どれほど大量の魔力が注がれているかを知らないまま、立ち止まってその攻撃を受けた。
〈硬質化〉を使っているだろう。
ボウドの〈硬質化〉は、以前はこれほどまでに強力なものではなかった。そして以前はここまで〈硬質化〉に頼った戦い方をしなかった。だから今のボウドになら、この戦法は通じると思った。
もともと魔法耐性が強いボウドが最大限の〈硬質化〉を使えば、魔法攻撃で大きなダメージを与えることはむずかしい。とはいえ、魔法が無効なわけではない。わずかとはいえ、魔法攻撃はボウドにダメージを与える。
〈驟火〉というのは、〈火矢〉を同時に放つ魔法だ。一つ一つの攻撃は〈火矢〉にすぎない。〈火矢〉は〈炎槍〉に比べれば貫通力が低く、一撃の威力でいえば、まるで比較にもならない。
だが、一万本の、あるいはそれ以上の〈火矢〉が断続的に降り注ぐのだ。
一本の〈火矢〉が与えるダメージは、〈炎槍〉が与えるダメージの何十分の一あるいは何百分の一しかないかもしれないが、それでもわずかなダメージを与える。そしてボウドの鎧が持つ自動修復の機能が働く前に、次の矢が降り注ぎ、そのまた次の矢が降り注ぐ。
しかもボウドは動かないのだ。動きながらでは強力な〈硬質化〉は使えない。だからじっと静止して〈驟火〉を受け続けるほかない。
滝のように降り注ぐ魔法攻撃で、ボウドの姿はみえない。
〈驟火〉は草原を掘り返し、轟音を立てつつ土の粉をはね上げる。
土煙は次第に大きくなり、レカンのもとにも達する。レカンはただ〈ハルフォスの杖〉に意識を集中し、荒れ狂う〈驟火〉を制御してボウドの上に落とし続ける。
やがて〈驟火〉の最後の一矢が落ちたあと、戦場には沈黙が訪れた。
土煙が晴れてゆく。
まず、レカンが姿を現した。
すでに〈ハルフォスの杖〉はしまっており、両手で〈アゴストの剣〉を構え、油断なく前方を注視している。
さらに土煙が引いてゆき、ボウドが姿を現した。
草原の一角が丸く掘り返されたようになっており、その中央にボウドが立っている。
〈驟火〉による攻撃が始まったときと同じように、右肩にバトルハンマーを担ぎ、立っている。
その兜も、鎧も、ひどく傷ついている。
特に肩や腕の部分はぼろぼろだ。
彫像のように動かない。
と思ったら、突然笑い声を上げた。
『うわっはっはっはっはっ。恐れ入ったわい。お前はこの世界で大きな力を得たんだのう』
(お前もだろうが!)
(いくら何でもあれを耐えきるとは)
(頑丈にもほどがある)
(だがその鉄壁の防御も今はかなり削られたはずだ)
のしり、のしりと、ボウドが前進を始めた。
レカンは後ろに下がった。下がりつつ、〈収納〉から大魔石を二つ取り出して魔力を吸った。
最後の決戦のため、少しでも魔力を回復させておきたかった。
(ここらでいいだろう)
レカンは立ち止まり、前方に向かって静かに走り始めた。
呼応するようにボウドが左手をバトルハンマーの柄に添えた。
風を引き裂きながら〈アゴストの剣〉がボウドを襲う。
ボウドが繰り出したバトルハンマーの柄頭の部分に〈アゴストの剣〉が叩きつけられ、すさまじい音が戦場に響く。
ぐいぐいとレカンが押す。
負けじとボウドが押し返す。
身長二歩を越す二人の大柄な冒険者は、想像を絶する筋肉の力を今放出している。
ぴたり、と二人は止まった。
今、二人の強者が武器に込めている力はまったく拮抗しているのだ。
全力を絞り出しているがゆえに、ボウドは〈剛力〉の呪文を唱えることができない。
レカンもまた、魔法を撃つことができない。
ボウドの腕も、レカンの腕も、ぶるぶると震え始めた。
まるで呼吸を合わせたように二人は武器を引き、勢いをつけて再び打ち合わせた。
「〈力よ〉!」
レカンの大剣をはじき飛ばしたバトルハンマーが、勢い余ってレカンの右側に流れ、ボウドがわずかに体勢を崩す。
レカンは相手が〈剛力〉を使うと読んで、打ち当てたあと大剣を引いたのだ。左に半歩踏み出してバトルハンマーの軌道から身をかわすと、中空でくるりと剣を回し、ボウドの頭を狙う。
ボウドが首をひねってかわしたので、大剣はボウドの右肩を打ち据えた。
「〈力よ〉!」
ボウドは右から左にバトルハンマーを振り、レカンを襲う。
レカンは〈アゴストの剣〉でバトルハンマーを下からかち上げ、軌道をずらす。
ボウドはバトルハンマーをくるりと回してレカンに叩きつける。
レカンの大剣がこれを真っ向から迎え撃ち、火花が散る。
こうしてしばらく大剣とバトルハンマーの打ち合いが続いた。
大柄な二人の強者が、重量級の武器を打ち合わせてせめぎ合うその戦いは、一撃一撃が魂を削るような激しい音を立て、火花を散らし、みる者の心に畏怖の念をかき立てずにはおかない迫力である。
(いかんな)
(こんな攻防を続けていたら)
(ボウドの鎧が修復されてしまう)
(む?)
バトルハンマーに〈アゴストの剣〉を打ち合わせた感覚に、違和感があった。
(もしかすると)
「〈力よ〉!」
ボウドが〈剛力〉を込めて打ち下ろしてきたバトルハンマーの軌道を、レカンは両の目を凝らしてみきわめ、柄頭のすぐ根元の部分の柄に〈アゴストの剣〉を打ち当てた。
柄が折れ、柄頭が飛んだ。
ボウドが、折れたバトルハンマーの柄を投げ捨て、後ろに下がろうとする。
レカンは素早く前に踏み込み、〈アゴストの剣〉をボウドの頭めがけて振り下ろした。