作品タイトル不明
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『決闘は三人で終わったんじゃないのか』
『うわっはっは。グィド帝国千竜将軍であるわしに挑戦するだけの資格があることを、先ほどまでの戦いで、お前は示したではないか』
『なるほど。オレが決闘で勝ったら、戦闘は中止し、獣人軍の代表がオレについてくる。オレは宝物とやらを取り戻すために交渉を行う。それでいいか』
『それはそれでいいが、わしが勝ったら何がもらえる?』
レカンはしばらく考え込んだ。そして〈収納〉から〈神薬〉を五つ取り出した。マンフリーから預かったものだ。
『これでどうだ』
『ほう! 〈霊果〉か。それも五つも。よかろう』
『オレが勝ったとき、お前が死んでいたら、どうする?』
『わはははは。そういうこともあるだろうな。バル・パヴィ!』
耳慣れない言葉でボウドが怒鳴ると、馬獣人が近づいてきた。
ボウドは馬獣人に、何ごとかを話して聞かせた。馬獣人は、ぎろりとレカンをにらんだあと、右胸に左こぶしを当てて敬礼のような動作をした。
『これを渡しておこう』
レカンが五つの〈神薬〉を手のひらに乗せて差し出すと、ボウドが馬獣人に何ごとかを命じた。馬獣人は、レカンから五つの〈神薬〉を受け取った。
ボウドはまたもぐるりと周囲をみまわし、大声で何かを言った。
周りの獣人たちが、ボウドとレカンから離れていった。
ボウドの側にいた金兎獣人が、ボウドをみあげて何かを言った。
ボウドは短い言葉でそれに答えた。
兎獣人はきつい目でレカンをにらみつけると、くるりと背を向け、ぴょんぴょん飛び跳ねて去っていった。
『そういえばボウド』
『うん? なんじゃ?』
『〈イシャスの陣〉の運用は見事だった』
『うわっはっはっはっはっ。そうか、そうか。そう思うか』
『オレには軍の指揮のことなんかよくわからんが、聞いたところでは、部隊の進め方や敵との駆け引き、休息の取り方も、ひどく達者な感じがした』
『お前にそんなことを言ってもらえるとはのう』
『軍の指揮のしかたなんて、どこで学んだんだ』
『わしの父はスパルカントの将軍だった』
『なにっ』
レカンやボウドがもといた世界に、かつてスパルカントという国があった。平和で美しい国だったと伝わっているが、レカンが生まれる前に滅びてしまった。
『わしは陣の組み立て方や戦術、将としての心得などを、小さいころから教わった』
『そうだったのか。あ、それでボウドという名前なのか』
『うわっはっはっはっはっ。まあ、そういうわけじゃ』
ボウドというのは〈絶壁〉のことだが、難攻不落の城のことを〈ボウド〉と表現することがある。できすぎた名前なので、自分で勝手に名乗っているのかと思ったが、本名だったのだ。
『祖父から受け継いだ武具や武術で冒険者としてのしあがったがのう。まさか習い覚えた戦術を実際に使うことがあるとは思いもせなんだわ。わはは』
『獣人は指揮しにくくなかったのか』
『指揮しにくくはなかった。じゃが張り合いはなかったのう』
『ほう? なぜだ』
『強い兵はどうやっても強い。弱い兵の集団を戦術で勝たせるのが将としての醍醐味よ』
『なるほどな』
話しているうちに、獣人たちは、ボウドとレカンを取り巻いて、直径百二十歩ほどの円を描いて立ち並んだ。
『準備は調ったようだな』
『そうだの』
風が出てきた。
空では灰色の雲が、渦を巻くように東から西に流れている。
レカンは後ろに歩を運んだ。そしてボウドから十歩ほどの距離で停止し、〈収納〉から〈レカンの剣〉を出した。もとの世界で使っていた愛剣だ。
ボウドも〈収納〉から自分の武器を引き出した。みおぼえがある。愛用のバトルハンマーだ。柄の部分はまっすぐで、ボウドの体格からすれば細目にみえる。打撃部分は先を削った丸太のような武骨な形をしているが、頑丈なことこの上なく、ボウドが振れば無敵の破壊武器となる。
身に着けた赤黒い鎧は、遠目には金属製のように思えたが、近くで観察すると、虫系の魔獣の甲殻素材のようにみえる。
兜の穴がみえない。どこから外をみているのだろう。もしかすると、内側からは透けてみえるようになっているのかもしれない。
ボウドは、〈衝撃貫通〉〈剛力〉〈硬質化〉の三つのスキルを持っている。だがそれはいずれもレカンの〈突風〉〈生命感知〉〈立体知覚〉〈魔力感知〉などと同じく、魔力を消費して発動するスキルだ。しかも常時発動型のスキルである〈生命感知〉は、ごくわずかな魔力しか消費しないが、〈衝撃貫通〉〈剛力〉〈硬質化〉はある程度以上の魔力を込めないと発動しないし、魔力を込めれば込めるほど効果が高い。魔力を失ってしまった今のボウドには、発動できないか、発動できてもごく弱い効果しか出せないはずだ。
ただし、こちらの世界に来てから、ボウドがどんな技能を習得したかわからない。強敵たちと戦ってきたはずだ。いくつもの迷宮を踏破してきたはずだ。
今目の前に立つ戦士ボウドは、恐ろしいほどの闘気をみなぎらせ、〈人食い熊〉の異名にふさわしい強者の気配を放っている。
(オレも強くなったはずだ)
(だが同じだけやつも強くなったと思うべきだ)
レカンは大きく息を吸いつつ、身体の緊張を解き、それから力をためた。
全身のすみずみにまで精気が満ち渡り、激しい戦いへの渇望が、体の底から湧き上がってくる。
レカンの灰色の両目が、かっ、と大きく見開かれ、銀の光を放つ。
「〈風よ〉!」
〈突風〉の力を借りて前方に飛び出す。
「〈風よ〉! 〈風よ〉!」
爆発的な脚力の解放と、繰り返して発動した〈突風〉がもたらす加速により、一瞬のうちにレカンはボウドの眼前に迫った。
〈レカンの剣〉を両手で持ち、ボウドの脳天に振り下ろす。あまりの速さに、ボウドはバトルハンマーを右に引いた態勢のまま、かわすことも、防御することもできない。
渾身の力を込めたレカンの愛剣が、ボウドの兜を直撃した。