軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ボウドの体はわずかにのけぞった。

頭がわずかに沈み込んだ。

だが、それだけだ。

両断されるはずのボウドの頭と体は、そこにそのままある。

それどころか、兜を断ち斬ることさえできていない。

あり得ない光景がそこにあった。

レカンが加速をつけ最大の力で打ち込んだのである。

どんな相手も真っ二つに切り裂かれるはずだ。

だが、ボウドはびくともしていない。

レカンの目の前には兜がある。不気味な魔神の顔を模した造形なのだが、目玉は丸く大きく、奇妙な愛嬌がある。

その作り物の目玉の奥で、ボウドの肉眼がレカンをみているような気がする。

外側に湾曲した巨大な牙の奥で、ボウドの口元がにやりと笑ったような気がした。

「〈 力よ(ガスパー) 〉!」

しまった、と思う間もなくボウドの巨大なバトルハンマーが旋回してレカンを襲う。

「か、〈風よ〉!」

〈突風〉を発動してボウドの攻撃から逃れようとしたが、わずかに遅い。

バトルハンマーの先端がレカンの腹に食い込む。

レカンは、ぐるぐる回転しながら吹き飛ばされ、地に叩きつけられた。

受けた衝撃で視界が曇るが、レカンは必死に起き上がり、左手を腹に当てた。

「ごふっ。〈回復〉! 〈回復〉!」

口から血を吹き出しつつ、腹に回復魔法を連発する。

ボウドがバトルハンマーを右肩にかついで、のしり、のしりと近づいてくる。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

片膝を突いたまま、左手を前方に向け、〈炎槍〉を五連射した。

かなりの魔力を込めた。

五発の〈炎槍〉は、ボウドの顔、右肩、左胸、腹、腰に着弾して大きく爆発した。

だがボウドは小揺るぎもせず、平然と耐え、また歩き出した。

(くそっ!)

(〈硬質化〉だ!)

(間違いない)

五発の〈炎槍〉が着弾するとき、ボウドは動きを止めていた。〈硬質化〉を強く発動するときには、ボウドは動きを止めるのだ。

その前のレカン渾身の一撃も、ボウドは〈硬質化〉で防御しきったのだ。

〈硬質化〉は発動に呪文が必要ない任意発動型のスキルなのだが、習熟すると長時間連続して発動できる。ボウドは戦闘のとき、弱く常時発動させておいて、ここぞというときには動きを止めて最大限の発動をさせていた。

だが、〈硬質化〉を強く発動させるときには大量の魔力を消費するはずだ。魔力のない今のボウドが、なぜ〈硬質化〉を発動させられるのか。

うなりを上げてボウドのバトルハンマーが右上から左下に向かって振り下ろされる。

レカンはボウドの攻撃動作が始まってから、素早く立ち上がりつつ左に跳んだ。

風圧で白炎狼の外套が引きちぎられそうになる。

すれちがいざまに〈レカンの剣〉で、ボウドの右手の二の腕に斬り付けた。

硬い手応えだが、弾力もある。

空振りしたボウドが態勢を立て直す隙に、後ろから袈裟懸けに斬り付けた。

まともに当たったのだが、あまり斬れたという感触はなかった。

ふつう〈硬質化〉は身体と共に服や鎧にもかかるが、〈硬質化〉の効果が高い鎧と低い鎧がある。金属鎧は効果が低い。魔獣素材は概して高い。

ボウドの鎧は魔獣素材のようだ。非常に上質な品のようで、しかも強い〈硬質化〉がかかっている。これを斬るのは容易ではない。だが、斬って斬れないことはないような気がする。

ボウドが大きく右に回転して振り返り、力をためてバトルハンマーを振り回してきた。

「〈力よ〉!」

「〈風よ〉!」

後ろに跳びすさりつつ、〈突風〉の力を借りて大きく跳んだ。

力よ、というのは〈剛力〉というスキルの発動呪文だ。そして先ほどの打撃には、間違いなく〈衝撃貫通〉が込められていた。

レカンは口にたまった血を吐き出した。

〈回復〉をかければ傷は修復されるが、腹のなかに流れ出てしまった血がなくなりはしないし、内臓のダメージや痛みが完全になくなってしまうわけではない。レカンは内臓がねじれる痛みと気持ち悪さを抱えたままだ。

ボウドは、〈衝撃貫通〉〈剛力〉〈硬質化〉の三つのスキルを間違いなく使える。レカンの〈突風〉は、もとの世界では魔法には分類されなかったが、この世界では魔法扱いだ。〈生命感知〉や〈魔力感知〉は、この世界のルールに適応して作り替えられた。ボウドの場合、〈衝撃貫通〉〈剛力〉〈硬質化〉は、この世界では魔法ではないとみなされたのだろう。だから魔力ではなく、ほかの何かを消費して発動している。この世界のルールにしたがって、そう作り替えられたのだ。そうとでも思うしかない。

それにしても、レカンの渾身の一撃が頭部に直撃したのに平気だったのは異常だ。この世界に来て〈硬質化〉が異常な進化を遂げたのか。あるいは〈硬質化〉の効果を高めるような装備を身に着けているのか。

そして大炎竜の鎧ごしにレカンの腹部に多大なダメージを与えた、あの攻撃。

〈衝撃貫通〉も恐るべき進化を遂げている。

ボウドがバトルハンマーを大上段に振り上げて、悠然と歩み寄ってくる。

レカンは身をかがめ、ぎりぎりまで待ってから、右に身をかわし、ボウドの後ろ側にまわり、すれちがいざまに左足の踵の上のあたりに斬り付けた。

まっすぐ振り下ろされたバトルハンマーは、途中で軌道を変え、左側の大地をうがった。

もしもレカンが左側に身をかわしていたら、あの打撃を身に受けていただろう。

(敵は一撃でこちらを戦闘不能に追い込めるが)

(こちらの攻撃はほとんど通じないわけか)

(さて)

(どう戦うか)

「〈風よ〉! 〈風よ〉!」

レカンは後ろに大きく跳んで、敵と距離を取ると、〈レカンの剣〉を〈収納〉にしまい、聖硬銀の剣を取り出した。