軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11

11

まるで何かにたたき落とされたような感覚をレカンは味わった。

転移が終わってみれば、すぐ目の前にいるはずの敵総指揮官は、まだずいぶん遠くにいる。

そしてわずか数歩後ろに、今飛び越してきた馬獣人がいる。

十歩程度しか跳べていない。

〈彗星斬り〉をみると、魔法刃が消えている。

〈白魔の足環〉による転移が中断され、〈彗星斬り〉の恩寵も働かない。

異常な事態だ。

だがレカンは慌てなかった。

このような経験ははじめてではなかったからだ。

恩寵無効。

ツボルト迷宮の最下層で味わったのと同じ事態だ。

護衛であるはずの獣人たちが、敵総指揮官から距離を取った理由がわかった。

総指揮官から三十歩以内にいると、恩寵が働かないからだ。ということは、親衛隊の獣人たちはみな恩寵品を持っているのだ。

馬獣人もそのほかの獣人も、消えたレカンが後ろ側にいることに、すぐに気がついた。そして攻撃をしかけてきた。

馬獣人は巨大な矛を振り上げて迫る。

その右側では、銀色の虎のような顔をした獣人が大きく口を開いていている。

レカンは〈彗星斬り〉をしまい、〈ラスクの剣〉を取り出し、馬獣人の矛をはじくと、三つの呪文を続けざまに唱えた。

「〈火矢〉! 〈炎槍〉! 〈風よ〉!」

馬獣人の目の前に五本の〈火矢〉が出現し、目の周りに着弾した。

口の中に魔力を収束させていた銀虎獣人のその口に〈炎槍〉が着弾して爆発した。

恩寵は封じられたが魔法は使える。ならば何の問題もない。

レカンは後ろに跳躍しつつ〈突風〉を受け、馬獣人が振り下ろす矛から逃れ、くるりと反転して、敵総指揮官に向かって突進しようとした。

そのとき、敵総指揮官が大きく手を広げて、大声を発した。

「マルド・モルク・ザンディエ!」

ぴたり、と獣人たちの動きが止まった。

レカンも一瞬遅れて立ち止まった。

今や敵総指揮官とレカンとのあいだは、二十歩程度しかない。

そして二人のあいだには何もさえぎるものがない。

レカンは、このときはじめて、じっくりと敵の総指揮官をみた。

頭に奇妙な兜をかぶっている。すっぽり頭にかぶるタイプの兜で、顔の部分は笑った鬼神のような造形だ。

だが、妙だ。

はっきりみえているのに、何かぼやけている感じがする。

体つきは、ボウドと似ている。

今聞いた声も、ボウドに似ている。

しかし〈魔力感知〉によれば、まったく魔力がない。

だからレカンの知っているボウドではない。

〈立体知覚〉に意識を集中して、どうも人間のような形状をしているとはわかったが、やはり像がぼやけてみえる。

『うわははははっ。レカン。懐かしいのう』

よく響く声で話しかけながら、敵総指揮官が歩み寄ってきた。懐かしいふるさとの言葉である。

『ボウド? お前はボウドなのか?』

『何を言うておる。わしがわからんのか。あ、この兜のせいか。しかし、さっきからひどく懐かしい感じがしておった。おぬしは感じなんだのか?』

『いや。オレも感じていた。だがこの感覚を感じさせてくれたやつには、前に会ったことがあってな。お前かどうか判断しかねていた』

『ほう? そいつは同郷の者だったのか?』

『ああ。凄腕の冒険者だった』

『それはそれは。お前はずいぶん装いが変わったのう。しかも魔法攻撃を連発するし、よく似た別人かとも思ったぞ。左目がみえるようになったんだのう。なかなか男前ではないか。ところでお前は、わしの敵に雇われとるのか?』

『この国の貴族に依頼を受けた。獣人軍の総指揮官を殺すか、何らかの方法で獣人の軍を引き上げさせろというのが依頼の中身だ』

『うわっはっはっはっはっ。またも敵同士に逆戻りか。お前にいつか会えるかと、そればかりを楽しみにしておったんだがのう』

『それについては相談したいことがある』

ボウドはレカンの手前三歩ほどのところで止まった。

レカンの後ろにいた馬の獣人がレカンに向かって動こうとした。

ボウドは激しい言葉を馬獣人にぶつけた。馬獣人は凍りついたように動きを止めた。

周りをぐるりとみわたしながら、ボウドは何ごとかを獣人たちに告げた。そしてレカンに視線を戻した。

『相談じゃと?』

『お前たちは、ここから北にある大きな森のなかの神殿にあった宝物を求めているんだな』

『そうじゃ。大きな森のなかにあるゴルザザ神殿から〈毛皮をはぎ取られた者たち〉、つまり人間が奪い去った〈安寧の宝珠〉を取り返してこい、というのが皇帝陛下の命じゃ』

『その神殿を襲って宝物を奪った人間に心当たりがある』

『おお。そうか』

『ただし本当にその人物がやったことかどうかは確認してみないとわからない。その人物のしわざだとしても、今も手元に持っているかどうかはわからない。すまんが確認と交渉のため、そこまで一緒に行ってもらえないか』

『近いのか?』

『距離でいえば、ダイナからここまでより少し近いぐらいかな。ただ、山のなかを進むことになるはずだ。オレも道がよくわからんのだが』

『ふうむ。今さらそんなあやふやな話では、部下たちは納得せんじゃろうの。わしも納得できん。もう戦いは始まっとるんだからの』

『では、どうすれば納得できるんだ』

『わしとお前で決闘するしかないだろうの』