軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10

10

思わず取り出したのは、〈万竜斬り〉だった。

いくら竜の姿をしていても、相手は人間なのだ。この剣の恩寵は意味がない。それでも、〈アゴストの剣〉ほどの長さや重さがないので、この素早い敵に対応できるだろうし、〈ラスクの剣〉よりは長く重いので、少しはダメージを与えられるだろう。

レカンは両手で握った〈万竜斬り〉を右肩の後ろに大きく引き、渾身の力をこめて敵の盾に叩きつけた。竜獣人も盾を持つ手に力を込めて、これを受け止めた。

ただし、わざと大きな振りをつけて強い力で斬撃を繰り出したとみせかけてはいたが、レカンの剣は速度もなく、力も込められていなかった。それどころか、盾に剣が当たるか当たらないかのところで剣を引いた。

思わず竜獣人が体勢を崩す。

レカンは左に飛び込んで身を翻し、〈万竜斬り〉で竜獣人の背中に斬り付けた。

剣は深々と食い込んだ。

(なんだと?)

竜獣人は大きく背中をそらせつつ、苦悶の声を上げた。

レカンはその背中にもう一度〈万竜斬り〉を一閃させた。

先ほどより深く食い込んだ。

竜獣人が恐ろしい勢いで体を右回転させ、盾を突き出してきた。

その勢いは恐ろしいものだったが、動きが荒い。

レカンはやすやすと盾を右にかわすと同時に剣を振り上げ、盾を握る左手に両手で握った〈万竜斬り〉を振り下ろした。

剣は竜獣人の左手を切り裂いた。

竜獣人の体を包んでいた金色の光が失われた。

盾を回してレカンの攻撃を防ごうとするが、その動きはあまりに遅い。

レカンはさらに右に回り込み、右から左上に向かって素早く斬撃を繰り出した。

剣は竜獣人の首を深々と斬り裂いた。

レカンは後ろに一歩引き、油断なく相手をみさだめた。

竜獣人の目がぎろりと動いて下方にあるレカンの顔をにらみつけた。

そして巨体はゆっくり倒れ、地響きを立てて草むらに横たわった。

〈生命感知〉に映る竜獣人の赤い光が消えた。

あれほど硬かった竜獣人の盾にひびが入り、割れた。

勝利を手にしたものの、レカンの心は疑問でいっぱいだった。

どうして〈万竜斬り〉が効いたのか。

あきらかに恩寵が働いていた。そうとしか思えない切れ味だった。

(〈生命感知〉に赤く表示されるんだから人間のはずだ)

(人間のはずなのにどうして〈万竜斬り〉が通じるんだ?)

〈万竜斬り〉は竜種一般にしか効果を発揮しないはずだ。つまり竜種の魔獣にしか効き目がないはずだ。

(ということはこいつは獣人という人間であると同時に)

(竜種の魔獣の血を引いているのか?)

謎だ。

だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

ジンガー率いる騎士団は、すでに十人ほどしか残っていない。だが、敵も二人しか残っていない。

エダのほうはといえば、驚いたことに倒れた黒犀の獣人のうえに騎士ヨーグがのしかかり、喉元に剣を突き入れるところだった。

今のレカンの位置は、最初の位置とほぼ同じだ。ジグザグに逃げながら戦ううちに、結局もとの場所に戻ってきたわけだ。

東側をみれば、五十歩ほど先に、総指揮官を守る九人の獣人たちが、立ち並んでいる。

金獅子、金狼など、金色をした者が多い。

彼らはみなレカンをみている。

表情は読み取りにくいのだが、驚いているような気がする。

たぶん、竜獣人が負けるとは思っていなかったのだ。だからレカンをしげしげとみつめているのだ。

今がそのときだ、とレカンは思った。

目の前に白豹獣人の死体が横たわっている。

〈万竜斬り〉をしまい、白豹獣人が右手に握っている曲刀を素早く拾い上げて〈収納〉に収めた。そして〈彗星斬り〉を取り出した。

右手を革鎧の上から〈巫女の守護石〉に当てて、魔力をそそいだ。〈彗星斬り〉の攻撃で決着がつくならそれでいいし、〈彗星斬り〉だけでは片が付かず、物理攻撃も行うようなら、そのときは〈巫女の守護石〉が持つ物理攻撃力増大の恩寵が働くことになる。

大魔石を二つ取り出し、魔力を吸って、捨てた。

「〈浄化〉〈浄化〉」

エダが〈浄化〉を二度かけてくれた。

疲労が癒やされ、身体は新鮮な活力に満ちる。

横を向いてエダに微笑みを送った。

エダは笑みを浮かべてうなずいた。

レカンは正面を向いた。

最後の決戦に向けて、体のすみずみまでが目を覚ましざわざわとざわめいている。

いつもは昏く沈んだ灰色の二つの目は、鋭い銀色の光を放っている。

青色の革鎧も、白銀の外套も、レカンの心の高ぶりを受け止めて、まるで生きた獣の毛皮のように息づいている。

〈彗星斬り〉の魔法刃を発現させる。薄曇りの天候のなか、魔法刃の神秘的な光が輝きを増す。

五十歩前に立ち並んでいる九人の獣人たちが、一斉に武器を抜いた。

レカンは大きく深く息を吸った。

そして前方に向かって走り始めた。

速すぎてはいけない。

〈白魔の足環〉は静止状態で発動させると二十歩前方に転移する。

走りながら発動させると距離が延びる。

そして転移した直後は、転移する直前の速度を保つ。

狙った距離に跳ぶための練習は積んでいる。

敵の総指揮官の五歩前に跳ぶのが最上だ。そしてそのときには、加速中であるのが望ましい。

レカンの正面にいるのは、馬のような顔をした大柄な獣人だ。

速度を調整しながら走る。

馬獣人まで、あと十歩。

今だ。

一気に加速し、呪文を唱える。

「〈風よ〉!」

爆発的な加速が生じる。

「〈ゾルアス・クルト・ヴェンダ〉!」

〈白魔の足環〉の恩寵が発動し、レカンは守備陣形の内側に転移した。