作品タイトル不明
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「おおっ。これはすごいな。なるほど難攻不落といわれるわけだ」
切り立った巨大な断崖に切れ目があり、そこに霊泉関があった。関所というより城といっていい規模の建築物だ。この後ろに谷があり、そこを通らなくてはユフには行けない。
門は閉まっていて、張り出し窓から顔を出した番兵が、レカンたちを追い返そうとした。レカンは、ディラン銀鋼のメダルを出し、ワズロフ家の者だと名乗って開門を求めた。
やがて横の通用門が開かれ、身分のありそうな騎士が出てきた。
「なるほど。これは確かにワズロフ家の紋章です。あなたはマシャジャイン侯爵様のご使者なのですか」
「いや。オレは冒険者だ。各地の迷宮を探索している。ユフ迷宮を一目みたいと思ってやって来た」
「今ユフではよくない病がはやっています。ワズロフ家のかたを危険な場所にお通しするわけにはいきません」
「ここにいるエダは、〈浄化〉持ちだ。エダ」
「うん。〈浄化〉」
エダは指先に〈浄化〉の光を灯し、騎士にその光を浴びせた。
「これは! なるほど、これは確かに〈浄化〉です」
「というわけだから、オレたちに病気の心配はいらん。各種ポーションをふんだんに用意しているしな」
「し、しかし、ユフ迷宮は、一人や二人では探索できません。せめて百人はいないと。三人では死ににいくようなものです。絶対におやめください」
「オレは、ツボルト迷宮とパルシモ迷宮を踏破した」
「えっ!」
「このエダも、パルシモ迷宮踏破者だ」
「な、なんと」
「それにオレたちは、ユフ迷宮を踏破したいわけじゃない。どんな迷宮なのか、少しばかりのぞいてみたいだけだ」
「し、しかし」
騎士は渋ったあげく、結論を出した。
「わかりました。お通しします。今、通行証を作りますので、少しだけお待ちください」
しばらくして通行証とやらを渡され、ユーフォニアの関所で番兵に渡すように言われた。
レカンとエダとぽっちゃりは、霊泉関を出て、谷の道を進んでいった。
「いいんですかい、旦那。早馬をほっておいても」
「もう追いつけん。それに、殺したり気絶させたりしたら、あとが面倒だろう」
「ですかね」
通行証を書くと言ってレカンたちを引き留めているあいだに、一騎の早馬が霊泉関を飛び出した。何の用事だったのかはおおむね見当がつく。
「まあ、ばたばたしてもしかたがない。ゆっくり行こう」
歩きながら、不意にエダが意外なことを言った。
「レカン、さっきは、すごい風格だったね」
「風格?」
「うん。前からレカンがじっとにらむと、とっても強い威圧感があったけど、さっきの関所での騎士さんとのやり取りは、なんていうか大貴族みたいな貫禄があった。だから騎士の人も通してくれたんじゃないかな」
「それはオレがワズロフ家のメダルを持っているからだろう」
「そうだけど、それだけじゃないよ。ああいうところを任される騎士さんはね、人をみる目があるもんなんだよ」
「ふうん」
南西に道を下ったあと、今度は北西に道を上り、霊泉関を出て三日目、一行の前に二つ目の関所が現れた。関所の向こう側に、ユフ城と背後のロン山がみえる。そしてこの位置まで上ると、左に雄大なユフ山の全貌が現れる。
「ふむ。ここまでくると、だいぶ涼しいな」
「みてみて、レカン。あれ、雪でしょ。雪に覆われた山って、みるのはじめて」
関所は左右には小さく高さも低いが、奥行きがあり、堅牢な造りをしている。この関所を抜ければ、そこはもう城郭都市ユーフォニアだ。ユフ神聖王国時代の都である。
ユーフォニアは切り立った台地いっぱいに広がっている。そこに通じる道は、細く狭く、堅牢な関所に守られている。
ロン山の向こうには三つの広大な盆地があり、マカナ地区、ホルト地区、ガリラ地区がある。もとはれっきとした都市だ。外部から直接三つの地区に入り込むのは不可能といってよい。要するに今レカンたちが通っている道が、外界から唯一ユフに入る道なのだ。
レカンたち三人は、関所に入った。
「ワズロフ家のレカン殿。私は騎士フーツラ・ヴント。貴殿たちが滞在中、ご案内させていただきます」
「そうか。取りあえず旅の疲れを取りたい。宿に案内してもらえるか」
「はい。部屋は取ってあります」
レカンたちを宿に案内すると、明日朝お迎えに参ります、と言い残して騎士フーツラは去った。
小さいが、なかなか上等な宿だ。食事は部屋に運んでもらえるかと聞いたらできるということだったので、一風呂浴びたあと、レカンの部屋に三人分の食事を運ぶよう頼んだ。
部屋に落ち着いてから、レカンはぽっちゃりに聞いた。
「監視は残してあるだろうな」
「はい、旦那。ご丁寧に三人も密偵をつけてくれたようでして」
「ふうん。さてと、ぽっちゃり。ユフ侯爵家に、ザイドモール家の娘ルビアナフェル姫が嫁いだ。ルビアナフェル姫は、ユフに来てから〈浄化〉に目覚め、〈癒やしの巫女〉と呼ばれてるらしい。このルビアナフェル姫に、オレは世話になった。だからユフで何か妙なことが起きてると聞いて気になってな。無事を確認できればそれでいい。今この町で何が起きているのか調べてくれ」
「わかりました。でも、何か悪いことが起きているという感じじゃないですけどね」
「そうだな」
関所を通ってからまっすぐこの宿に連れてこられたのだが、ここに来る途中の町の様子はいたって平穏だ。いや、平穏どころか、町は活気と笑いに満ちている。どこか祭りの前のような浮き浮きとした気分さえ感じる。
「悪い病気がはやっているようにはみえんがな」
「ですね。なのに外の者を閉め出そうとしている」
「去年来た勅使は侯爵に会えなかったそうだ。答礼の使者もない。王家への今年の新年のあいさつもない。ルビアナフェルに父親が出した手紙に返事がないとも聞いた」
「へえ? じゃ、やっぱり何かありますね。とにかく調べてみます」
「ちょっと待て。これをみておけ」
レカンは、〈収納〉から二枚の地図を出した。
一枚は、ユフ山系と、ソプデモア、ユーフォニア、ロン山、ユフ山、マカナ地区、ホルト地区、ガリラ地区の位置関係がわかる概略図だ。
もう一枚は、ユーフォニアの市街図で、北側にはユフ城、すなわち十二の塔と四つの宮殿が書き込まれ、さらにユーフォニアの北側にそびえるロン山が書き込まれている。ロン山の麓にはグエン湖があり、その北側の東に神殿が、西にシャドレスト家の霊廟がある。
ぽっちゃりは、一枚目の地図をちらとみたあと、二枚目の地図をしばらくじっとみつめた。
「覚えました。ありがとうございました」
地図をレカンに返し、ぽっちゃりはどこかに消えた。
レカンとエダはゆっくり湯につかり、食事と酒を楽しんだ。