作品タイトル不明
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食事を終えないうちに、ぽっちゃりが帰ってきた。
「早かったな。そこにお前の夕食がある」
「ありがとうございます。成り行きで、少し外で食べてきたんですけどね」
「じゃあ、オレが食う」
「いえ。頂きますとも。これ、すごいごちそうですね」
ぽっちゃりは、ぱくぱくと食事を口に運び、水で薄めた焼き酒をぐびぐび飲んだ。
「うまかったー。この宿、料理は抜群ですね」
「で、ぽっちゃりさん、町はどうだったの?」
「グィスランです、奥さん。それがね、こんなに密偵をやりにくいとこははじめてです。なにせ、どこにいっても、みない顔だね、ですからね」
「それはそうだろうな」
「いえね、外の人間もいないことはないんですよ。でも、どこから来た誰だってのが、町の人たちにゃ知られてますね」
「お前も身元を聞かれたろう。何て答えたんだ?」
「マシャジャイン侯爵家の身内で冒険者をやってる酔狂なご夫妻の従者で、各地でうまいものを探して侯爵家に報告してるんだって言っときました」
「なるほど。それで、何が起きてるのかわかったか?」
「独立です」
「なに?」
「ユフ神聖王国の復活です。町の人たちはみんな、ついにその時が来たってんで、浮かれてるってわけで」
「それは王家からみたら反乱じゃないのか?」
「理屈からいえばそうですね」
「ユフが毎年献上する神薬三個は、王家にとって重要な品だ。大炎竜や八股大魚や五頭大蛇の素材もな。それに、ユフは大きすぎる。独立なんぞしたら影響があちこちに出る。簡単には独立させてもらえないんじゃないか?」
「へえ? 旦那、そういうことに詳しかったんですか。あたしはそういう政治向きのことは、あんまりよく知らないんですが」
「ここに来る前に、ワズロフ家でユフの歴史と地理と制度の概略を教えてもらっただけだ。詳しいことは知らん。まてよ。外部の人間もいると言ったか?」
「はいな。商人ですね。薬や薬草を買い込んでます。ここの薬や薬草は、ちょっとほかじゃお目にかかれないほど質がいいそうで。商人たちは、たっぷり買い物をして、関所を通れるようになるのを待ってるってわけで」
「ああ。なかに入れた者を出さないことで、独立のことが漏れないようにしているわけか」
「そうでしょうね。この町じゃなきゃできない方法ですけどね」
「ということは、オレたちもしばらく引き留められるな」
「でしょうね」
(それにしても)
(独立というようなことは)
(そんなに大っぴらにやるものだろうか)
(どうも妙だな)
「ふむ。それで、ぽっちゃり。王家の勅使が侯爵に会えなかったのはなぜかわかったか? それと、ルビアナフェルが無事かどうかはわかったか?」
「そこらあたりは、まだ何とも。旦那」
「うん?」
「これは勘ですがね。どうもあんまりゆっくり構えてる場合じゃないような気がします」
「そうか。オレもだ」
「金貨百枚、いえ二百枚、お預かりできますか」
「ああ」
レカンは、〈収納〉から金貨の詰まった小さな〈箱〉を一つ取り出した。
「ほら、持ってゆけ」
「ありがとうございます。遠慮なく使わせてもらいます。じゃあ、あたしは出かけます。明日の夜も、この宿に泊まるようにしてもらえますか」
「わかった」
ぽっちゃりは窓から出て夜に溶け込むように消えた。
翌朝、騎士フーツラが迎えに来た。
レカンとエダの二人しかいないことに気づき、質問してきた。
「従者はどうされました」
「昨日から帰って来ないんだ」
「えっ?」
「しようがないやつだ、あいつは。もっとも従者といいながら、オレたちの世話なんかしたことがないがな。あいつは各地でうまいものを探しては食べまくっているんだ。だからぽっちゃりなんだ」
「は、はあ」
「そしてうまいものを記録してワズロフ家に報告する。ワズロフ家には、そういう記録を取りまとめる学者がいてな」
「そう、なのですか。では、従者は迷宮には」
「あいつは迷宮には入らん。入ったらすぐ死んでしまう」
「では、お二人を迷宮にご案内します。馬も用意してあります」
「いや、今日は買い物をする」
「は?」
「迷宮の入り口は、ユフ山の中腹にあるんだろう。ここから二日はかかると聞いている」
「はい」
「それに、迷宮のなかを少しみたらすぐ出てくるつもりだが、場合によってはそれなりに長い時間を迷宮で過ごすことになるかもしれん。食い物を買い込んでおく必要がある」
「ああ、そうですな。奥のほうに進むには騎士団で行く必要がありますが、入り口近くを探索するなら、むしろ少人数のほうが魔獣の注意を引かないかも知れません。ごゆっくりなさるといいでしょう」
(嘘をつけ)
(こいつオレたちが迷宮で死ねばいいと思ってるな)
ユフ迷宮では弱い魔獣は何百匹という群れを作る。しかも戦っているうちにほかの魔獣が寄ってくる。少人数で入るというのは、死にに行くようなものだ。
「それと、せっかくユフに来たんだからな。ポーションや薬も買っておきたい」
「なるほど。では店にご案内しましょう」
こうして、レカンとエダは、騎士フーツラに案内させて、一日中買い物をして回った。