軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「以上で主人からの伝言を終了します」

「と言ってるお前がヤックルベンドなんだろう」

「ちがいます。わたくしにはわたくしの人格がございます」

「ふうん? まあいい。出かける前に着替えをする。あっち向いてろ」

「着替えのお手伝いをさせていただきます」

「手を出すな。オレに触れるな。あっち向いてろ」

「はい」

レカンは革鎧を脱いだ。

「おい」

「はい?」

「右手に持っているものは何だ?」

「えっ? あれ? どうしてこんなところに手鏡が」

「お前やっぱりヤックルベンドだろう」

「ちがいます」

「その鏡をしまえ」

「はい」

後ろを向かせたからといって、この人形がレカンをみていないとはかぎらない。だが、まともにみせるよりはいい。ヤックルベンドの能力にも仕掛けにも限界があるはずだし、この人形にもあるはずだ。

レカンは自前の竜革の鎧を身に着けた。胸ポケットには〈ザナの守護石〉が入っている。首には〈インテュアドロの首飾り〉をかけた。銀の指輪もはめ、〈ハルトの短剣〉も隠しに入れた。腰にはラスクの剣を吊った。〈始原の恩寵品〉は身に着けない。ヤックルベンドの目にふれさせたくないからだ。

王宮に入ったときと違う装備なので、出るときに誰何されるかもしれないが、そのときはそのときだ。

「準備ができた」

「それではこちらに」

メイド人形に従って進んだ。出会う人々はメイド人形をみるとぎょっとして道を譲った。このメイド少女人形は、王宮で顔が利くようだ。

正門近くに止まっていた一台の馬車にメイドは案内した。

四人乗りの馬車に、メイドと二人で乗り込む。馬車は出発した。

「これはお前の主人の馬車か?」

「いえ。宰相府の馬車です」

もうすっかり日は落ちたが、街路の脇には光を放つ魔道具が一定間隔で立ち並び、道筋を照らしている。

レカンは、目の前の席に座って足をぶらぶらさせているメイド人形を観察した。

(それにしてもこれが人形とは)

(肌も目も動きも人間そのものだ)

(ヤックルベンドというのは恐ろしいやつだな)

王宮を出てわかったのだが、メイド人形のなかには強い魔力がある。魔石あるいは魔石の力を取り込んだような何かだ。それがメイド人形の力の源なのだろう。魔石だとすれば、その格はロトル迷宮の主である小火竜をしのぐように思える。大ざっぱに言って、大迷宮の百階層クラスの魔石だ。このメイド人形は、油断していい相手ではない。

やがて到着したのは、ワズロフ家の屋敷よりもはるかに広大な敷地を持つ邸宅だ。

周囲の壁の高さは尋常ではない。

巨大な鉄の門の前で馬車は止まり、レカンとメイド人形は降りた。

「ラナです。レカン様をお連れしました」

鉄の門が開いた。

正面に屋敷がある。周りには樹木が生い茂っている。

高い木々に隠れて肉眼ではみえないが、森のなかにはいくつもの建物が建っている。

メイド人形に案内されるまま、レカンは屋敷のなかに入っていった。

次々にドアが開く。

通り過ぎると閉じる。

この屋敷には、王宮と同じような結界が張り巡らされており、レカンの〈魔力感知〉は働かない。〈生命感知〉もぼやけている。

だが、ぼやけた〈生命感知〉でも、はっきりと感じ取れる。

この屋敷には生きた人間はたった一人しかいないということが。

そのたった一人の生きた人間のもとに、メイド人形はまっすぐ向かっている。

もう少しでその生きた人間のもとにたどりつくと思っていると、その手前の部屋に案内された。

壁や天井に、やたらと魔道具が仕込んである部屋だ。

(なんだかこの部屋は気に食わんな)

(気持ちが落ち着かん)

(いやな感じがする)

「やっと会えたね。レカン兄ちゃん」

メイド人形が声を発した。不意に違和感を感じ、振り向いてメイド人形をみた。そして驚きと恐怖を感じた。

〈生命感知〉は、メイド人形を赤い光で表示している。

(さっきまでは人間ではなかった)

(だが今は人間なのか?)

メイド人形が歩み寄ってきて、レカンの右足に抱きついた。

「レカン兄ちゃん。一つだけお願いがあるんだ」

「願いとは何だ」

レカンの足にしがみついたまま、メイド人形は顔を持ち上げて笑った。

「あたしの奴隷になって。くけけけけけけけけけっ」

口は大きくさけ、上顎と下顎が、ばくばくと音をさせて閉じては開く。

目は左右ばらばらにぐるぐると動き回る。

こんなおぞましいものは、かつてみたことがなかった。

笑い続けている。その笑い声は、背筋が凍るほど不気味だ。

引きはがそうとした。だが、引きはがせない。

レカンの腕力よりも、ヤックルベンドがしがみつく力のほうが強いのだ。

足に針のようなものが差し込まれた。そこから何かの液体が流れ込んでくる。

くらっ、と目がくらむのを感じた。

毒か、何かの薬だ。意識が遠ざかりかける。

(いかん!)

(今意識を失ったら終わりだ!)

レカンは右手を〈収納〉に差し込み、〈不死王の指輪〉を取り出して左手の人さし指に着けた。そしてもう一度〈収納〉に右手を入れ、爆裂弾を取り出した。

「あれ? レカン兄ちゃん。まだ意識があるの? おっかしいなあ」

たぶん、左手の薬指にはめた〈ローザンの指輪〉が毒の効果を弱めている。だが長くはもたない。

「〈ティーリ・ワルダ・ロア〉」

〈不死王の指輪〉の恩寵が発動し、レカンの体は白っぽくにごった。

爆裂弾の安全装置を外し、起動スイッチを入れた。

「あれ? 麻酔薬が入らなくなったよ? レカン兄ちゃん、色変わった?」

不快感は残っているが、強烈な眠気はやわらいだ。

(〈不死王の指輪〉でも)

(完全には眠気と不快感が消えないということは)

(単なる毒ではないということか?)

ただし以前の実験とちがい、今回は〈不死王の指輪〉を発動する前に毒を受けている。だからそのためかもしれない。いずれにしても、恩寵の効果が切れた瞬間、毒が牙を剝く。

「レカン兄ちゃん? もう意識をなくしたの? にしては倒れないし、何か変だな。念のため足をつぶして」

まばゆい光がはじけ、すべてを飲み込んだ。