軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ただちに施療師が呼ばれ、ポーションをサリエルに与えた。

レカンは、その様子を眺めながら、試合の余韻を味わっていた。

いい戦いだった。

サリエルは、王家の血筋を持つ高位貴族の御曹司だ。にもかかわらず、まるで家族を守る狼のような果敢な闘いぶりをみせた。

素晴らしいわざだった。そして最後にはそのわざを捨て去って、気迫のみでレカンに一撃を浴びせようとした。それはまるで自分の命を相手にたたき付けるような闘い方だ。

(この勝負はオレの負けだ)

(その捨て身の気迫でヘレスに思いを打ち明けるんだな)

(たぶん神々はお前の味方だ)

エダがひらりと闘技場に降り立ち、施療師から赤ポーションを受け取り、レカンのもとに歩いてきた。

「レカン、血が出てる。ほら、赤ポーション」

エダは慌てていない。大迷宮をともに踏破したエダは、この程度の傷では動揺しない。

「いや。いい」

「え?」

「血は拭き取るが、傷はこのままでいい」

「そ、そうなの?」

「ああ。王宮を出るまではな」

レカンの眉間の傷は、サリエルの勝利の証しだ。だから今はこのままでよい。あの若者には、そうされるだけの資格がある。

レカンは観客席に座る王に、深々と一礼した。その横でエダも礼容を示す。

サリエルはまだ薬師たちの診察を受けている。レカンに会釈を送ってきたので、小さくうなずいて礼を返した。

いつの間にか拍手が起きている。

「エダ。マンフリーたちと一緒に行け。オレは控室で着替えて合流する」

「うん。わかった」

レカンはくるりと振り返り、練武場を去った。係員の先導を受けて控室に向かう。

控室に入るとき、なかに人間が一人いるのはわかっていた。だが、あまり集中して〈立体知覚〉を働かせていなかったので、来がけに案内してくれた侍従がいるのだろうと思っていた。

部屋に入ると、そこには一人の少女がいた。黒い服に白いフリルのついた使用人の服を着ている。だが幼い。十歳前後だろう。このとき〈生命感知〉がまともに働いていたら、この少女の異様さに気づいたはずだ。だがあいにくと王宮の敷地のなかでは、〈生命感知〉は阻害されている。

(侍女というよりメイドか?)

(王宮にメイドがいるものなのか?)

(こんなに丈の短いスカートをはいた)

(こんなに幼いメイドが)

少女が、ぺこりとおじぎをして口を開いた。

「レカン様。主人の伝言をお伝えします」

「主人?」

「レカン兄ちゃん。王都に来たらあたしを訪ねるって魔女に約束したよね。約束は守らないといけないんだよ。魔女との約束はただの口約束じゃないの。呪いのかかった魔法の言葉なの。約束を破れば、あなたか魔女によくないことが起きる。とてつもなく悪いことがね。起きなきゃあたしが起こしてやる」

「ヤックルベンド? お前の主人とは、ヤックルベンド・トマトか!」

「あら、ちゃんと名前を覚えてくれてたのね。愛を感じるわ」

「ちょっと待て。それほんとに伝言か?」

「あたしは、いまいましい誓約のせいで、王都から出られないの。でも王都のなかはあたしの庭。その庭には、あなたが大切にしたい人も今いるみたいね。ああっ、指がすべる。危険な魔道具が作動してしまうぅ」

「お前か。お前がヤックルベンドなんだな」

「そうだと思うなら、殺してみる? このメイドを」

レカンは〈立体知覚〉に意識を集中して眼前の少女を調べた。

「機械? まさか。機械仕掛けの人形なのか?」

「へえ、レカン兄ちゃん。この人形のなかがのぞけるんだ。そういう技能を持っているんだね。すごいや」

「この人形を通してオレと話してるんだな」

「ええええっ? すごい、すごい。ちょっと信じられない理解力。レカン兄ちゃん、ほんとにこの世界の人? あ、ちがった」

「くそ。会ってしまったものはしかたがない。用件を言え」

「まずはレカン兄ちゃんをあたしの目でみたいな。屋敷に来てもらえるかなあ」

「いやだ」

「ああ! 不幸を呼ぶ魔道具が作動してしまうぅ」

「お前、遊んでるだろう」

「そうよ。生きてるってことは遊んでるってことなの」

「いったい何百年遊んでるんだ?」

「忘れちゃったあ。というわけで、わが家に招待するね」

「断る」

「そっかー。断るのかあ。困っちゃったなあ。どうしようかなあ。うーん。よし。押しちゃえ。ぽちっ」

爆発音が響いた。近くだ。

部屋の壁に何かが激突する音が響いた。

隣の部屋のさらに向こう側で爆発が起きたようだ。いろいろな物が吹き飛ばされ、ぶつかり合う音がしばらく響いて、やがて静かになった。

「レカン兄ちゃん。あたしの熱い気持ちをわかってもらえた?」

「ここは王宮だぞ」

「知ってるよ」

「こんなことをして、ただですむと思っているのか」

「あはは。ちょっとしたいたずらだよ。宰相ちゃんには、ちゃんと断りを入れておくから、だいじょーぶ。ところで、ノーマちゃんとエダちゃん、今どこにいると思う?」

人のざわめきが聞こえる。爆発があったため、何事かと集まってきたのだ。

次に出たレカンの声は冷たかった。

「お前の用事というのは何だ」

「レカン兄ちゃんを一目みたいの。そして一つだけお願いをしたいの」

「願いとは何だ」

「それは会ってからじゃないと、言いにくいかな」

「時間はかかるのか」

「すぐに終わるよ」

約束を守らないと悪い事が起きるというのは、たぶんこけおどしだ。だが本当に約束により呪いが成立している可能性もないとはいえない。それに、ノーマとエダを安全な場所に避難させる時間をかせぐ必要がある。

約束をしてしまったのは確かだ。一度ヤックルベンドに会わないかぎり、相手は約束を守れと言い続けるだろう。それこそ何十年でも百年でも。冗談ではない。

(くそっ)

(あんな約束するんじゃなかった)

レカンは、係員の男に話しかけた。

「おい」

「は、はい」

「マシャジャイン侯爵マンフリー・ワズロフに伝言を頼みたい。頼めるか?」

「は、はい」

「オレは用事ができたので別行動をする。先に屋敷に帰ってほしい。オレの帰りが遅れても、エダとノーマは今日のうちに王都を出してマシャジャインに向かわせてほしい。以上だ」

「わかりました。レカン様」

係員はお辞儀をして退出した。

時刻はもう夕方だ。御前試合があったために、予定より大幅に遅れてしまった。もともとは今日のうちに王都を出る計画だったのだが、これでは閉門に間に合わないかもしれない。とにかくレカンがヤックルベンドの注意を引いているあいだに、安全な場所に移動してもらわなくてはならない。