軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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爆裂弾は、この世界に落ちる前にレカンがいた世界で作られた非魔法の爆弾だ。きわめて高価だが、破壊力はすさまじい。巨大な城壁を吹き飛ばしてしまうほどの威力を持つ。レカンはこれを五発持っている。虎の子の切り札だ。そのうちの一つを使った。

爆発に吹き飛ばされたレカンの体は部屋の壁を突き破り、屋敷の外壁をも突き破って高く空を舞い、森のなかに墜落した。爆風が木々をなぎ倒してゆく。レカンはごろごろと転がり、大木に打ち付けられた。痛みは感じない。〈不死王の指輪〉は、一定時間あらゆるダメージを遮断するのだ。

先ほど注入された毒の効果が残っていて、頭がくらくらする。緑ポーションを取りだして飲んだが効果がない。

レカンは〈収納〉から〈白魔の足環〉を取り出して両脚に装着した。装着する途中で〈不死王の指輪〉の効果が切れた。再び強烈な眠気が襲ってくる。視界が揺れる。

ふとみると、足元にラスクの剣が落ちていたので拾った。

早く脱出しなければならない。うまくすればヤックルベンドは倒せたかもしれないが、わからない。いずれにしてもこんな場所で意識を失ったら命取りだ。あのメイド人形のようなものは、おそらくあれ一つではない。ここは危険だ。

ふらふらする体を必死で制御しながら前方に駆け出した。

「〈ゾルアス・クルト・ヴェンダ〉」

うまいことに、鉄の門の直前に転移できた。

「〈ゾルアス・クルト・ヴェンダ〉」

門の外側に転移できた。

もう一度転移したいところだが、我慢した。最後の転移は取っておかなくてはならない。

懸命に走った。そこここで転倒し、壁や街灯に衝突したが、なりふり構わず走った。

道行く人を捕まえて、ワズロフ家の屋敷の位置を聞こうとしたが、まともに言葉を発することができず、相手は怖がって逃げた。

なおも走った。転がりながら走った。

やがてすべての感覚が麻痺して、気がつけば倒れていた。

冬の地面の冷たさに、わずかに意識が覚醒する。

這って逃げようとしたが、手が地面をつかんでいるのか虚空に泳いでいるのかもわからなくなった。

(ここまで……か)

「おい、君。大丈夫か?」

誰かが話しかけてきたような気がしたが、思考は混乱し、意識は混濁し、もはや言葉の意味を理解する力も、返事をする力もなかった。

「レカン? レカンか? いったいこんなところで何をしてるんだ?」

名を呼ばれたような気がした。そしてレカンは意識を手放した。

さて、それからいくばくかの時間が過ぎ、王宮のなかにある宰相府では、宰相が内務書記次官から報告を受けていた。

「おお、イェテリア。帰ってきたか」

「ただいま戻りました。残念ながら、何度呼びかけても答えはなく、門のなかには入れませんでした」

「爆発が起きたのは、間違いなくヤックルベンド・トマト卿の屋敷のなかなのだな?」

「それは間違いありません。敷地のなかの屋敷があったあたりからは今も黒煙が立ちのぼっています」

「被害はどうだった?」

「幸い、落下物により直接死者や怪我人が出たということはないようです。塀や建物の一部に傷がついたり、燃えたりしたという報告は、いくつか入っております。落下物は非常に広い範囲にわたっております。おそらく貴族街全域にわたるのではないかと。火の粉が降った範囲はさらに広いようです」

「そんなにか」

「はい。詳しいことは、まだ調べ切れておりませんが。それから、爆発が起きたとき、ドルトン子爵家の馬車が近くを通っていたそうで、爆発音に驚いて馬が暴走し、馬車に乗っていた令嬢が怪我をなさったようです。ほかにも似たようなことは起きているかもしれません」

「塀のなかの被害はわからんのか」

「なかに入れないので、調べようもありません。ただ、工場で働く者たちは休養日だと言われて追い出されたようです。また、執事のモトゥーも、珍しいことに外泊するように言われ、屋敷を出ておりました。モトゥーの言うには、屋敷の使用人すべてと労働者たちのすべてが不在だったはずだということです」

「ふむ。イェテリア。明日の朝、貴族街のすべての屋敷に通達を出してくれぬか。ヤックルベンド・トマト卿の屋敷で爆発が起きた。被害を受けた家は宰相府に届け出てもらいたいとな。宰相府で被害申し立てを取りまとめ、トマト卿に損害賠償を要請する」

「承知いたしました。しかし申し出る家は少ないと思われますが」

「そうじゃろうなあ。じゃがとにかく、今夜の騒ぎがトマト卿のしわざだとわかってもらえればよい」

「なるほど。承知いたしました。従卒のファジルはいかがいたしましょうか」

「うん? ああ、トマト家の使用人とレカン殿の対話を聞いたという男じゃな。ふむ」

宰相はいったん考え込み、少し時間を置いて口を開いた。

「何もせん。異動も昇進も口止めもなしじゃ。いや、職務上の義務として、見聞きしたことを上司以外に話してはならぬことを、やんわりと伝えてくれるか」

「承知しました。しかし、ファジルは、トマト卿が王宮のなかで爆発を起こしたことを知ってしまいましたが」

「ああ、そなたには伝わっておらなんだか。あれは練武棟の倉庫にあった〈ヤックルベンドの破裂矢〉が暴発したのじゃ。そのように通達させた。練武棟で破裂矢が破裂するのに何の不思議もない。ただ、練武場ではなく倉庫で破裂したというだけのことじゃ」

「なるほど」

「自分が聞いた対話に何か大きな意味があると思わせてはならぬ。幸いトマト卿の周辺では奇怪な噂に事欠かぬ」

「は」

「調書も残す必要はない。私は忘れる。そなたも忘れよ」

「トマト家の使用人が口にした、魔女、とは誰のことでありましょうか」

「わからぬ。わかったからといってろくなことにならぬ」

「その魔女は、レカン殿と関わりがあり、おそらく王都から離れた場所に住んでいると思われます」

「ふん? まあ、そうなるか。何か心当たりがあるのか」

「……いえ。ふと思っただけであります。騎士団の者たちはいかがいたしましょうか」

「騎士団?」

「王都騎士団の一隊はトマト卿を守るためと申しますか、トマト卿から王都を守るために、トマト家の屋敷の周りで警戒にあたっております。一隊は周辺を巡回して、被害を調べ、不審な物を探しております」

「こんな夜にか。ご苦労なことだな。解散させよ」

「承知しました。明日ワズロフ家に使いは出しますか?」

「ワズロフ家に? 何のためにじゃ」

「レカン殿が帰宅したかどうかを尋ねるためであります」

宰相は、しばらくあごひげをなぶって考え込んだ。

「いや。不要じゃ。あちらから何か言ってこぬかぎり、こちらから動く必要はない。トマト卿には明日再び事情を問いただす使者を送れ」

「承知いたしました」

内務書記次官イェテリア・ワーズボーンは、一礼して退出した。