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作品タイトル不明

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「オルタロス殿」

居並ぶ貴族のなかで声を発する者がいた。聞き覚えのある声だ。

「ワズロフ家がレカン殿を異世界の貴族と認めたのだ。他家が口を挟む必要はあるまい」

レカンは、顔を心持ち伏せたまま視線を移動させ、声の主をみた。

ツボルト侯爵ギルエント・ノーツだった。

「ギルエント殿。普通ならそうだ。だがこれはみのがせぬ。レカンは身の証しを立てねばならん。立てられるものならな。レカン! いかに!」

「オルタロス殿。レカン殿は〈落ち人〉だ。もとの世界での身分など証し立てることはできぬ。またレカン殿の言うことが偽りだと証し立てることもできぬ。それに、確かな貴族の身分がいるというなら、ノーツ家が王宮に奏上してレカン殿を貴族に取り立ててもらえばよかろう。この世界でな。それに充分な功績がレカン殿にはある」

「ギルエント殿。今わしが問題にしておるのは、レカンが嘘をついたということだ。偽りを述べておのれを飾り立て、二人の高貴な 女性(にょしょう) を娶ろうとしたことは、絶対に許せん。それにな。証し立てる方法はある。〈真実の鐘〉を使えばよいのだ」

その魔道具をレカンは知っている。

ロトルの町では、悪徳商人の罪を暴くため、〈真実の鐘〉を利用した。この鐘は各地の神殿に保管され、領主の裁量で使用されるというが、王都には各総神殿にあるほか、王宮には複数個の鐘があると聞いている。まさか自分がその鐘で裁かれることになろうとは思ってもいなかったが。

「王陛下。臣オルタロス・フォートスは、侯爵家に与えられた権利により、今ここで冒険者レカンに対し、その出自身分に関わって〈真実の鐘〉を王家が用いられることを願い上げます」

場に沈黙が降りた。

「マシャジャイン侯爵」

「は、陛下」

「スマーク侯爵の奏上が聞こえたであろう。余はこの奏上を退ける理由がない」

「御意」

マンフリーの声はひどく硬い。

「宰相」

「は」

「そのようにいたせ」

王の前で礼を取り、宰相が退出しかけたとき、声を発した者がいた。

「王陛下」

「パルシモ侯爵か。何か」

「もはや〈真実の鐘〉の儀については何も申しませぬ。ただ、スマーク侯爵のなさりようには、うなずけぬものがあるということは申し上げておきます」

「陛下」

「トランシェ侯爵も何か言うことがあるのか」

「私もエルモ・シエーレ殿と同じように感じております。このうえは、ことの成り行きをしかとみさだめさせていただきたい」

「スマーク侯爵よ。ラインザッツ家、シエーレ家、ノーツ家の三侯爵が、かように申しておる。奏上を取り消すつもりはないか」

「恐れながら陛下。臣はすでに奏上を終え、陛下はそれをお取り上げくださいました。ただし」

「ただし、何じゃ」

「王家がラインザッツ家、ワズロフ家のみにお与えになられたご慈愛を、当家にもお垂れくださいますならば、臣は必ずやご報恩つかまつる所存にございます」

(ご慈愛?)

(わけがわからんが、何かの利権かな)

王は宰相をみた。宰相は首をわずかに横に振った。

「宰相。〈真実の鐘〉をこれへ」

「は」

宰相は部屋を出た。

しばらくして戻ってきたとき、後ろに二人の男が従っていた。

一人は足の長い書見台のようなものを持っている。

もう一人は神官のようで、その手に捧げ持っているのが〈真実の鐘〉だろう。

書見台がレカンの前に置かれ、その上に〈真実の鐘〉が置かれた。

「レカン殿」

宰相が声をかけたので、レカンは顔を上げてまっすぐ宰相をみた。

「貴殿の出自身分につき、〈真実の鐘〉を用いた判定が行われることになった。貴殿は異世界の貴族であるとワズロフ家は奏上したが、スマーク侯爵オルタロス・フォートス殿は、貴殿は孤児であり貴族などではないと申し立てておる。このことにつき真実を述べよ。鐘が貴殿の言を証し立てる。出自身分に関すること以外は決して口にしてはならぬ。嘘や間違いを言えば鐘が鳴る。心せよ」

神官がぶつぶつと口のなかで何かをつぶやきながら、鐘の上部にさわると、かちりと音がして鐘が魔力に包まれた。

(今鐘は起動状態にあるわけだな)

宰相をみると、うなずいた。しゃべれ、ということだ。

「オレはレカン。異世界から来た冒険者だ。オレは孤児として生まれたが、冒険者として力をつけ、地位や身分の高い人間とも対等に話ができるようになった。あるとき、ナルーム国王の養子となり、王子として王宮で二か月ばかり過ごした。これは王族でなければ入れない場所で王の護衛を務めるためだった。王宮を去るときに養子を解消するのかと思ったが、王はそのままにしておくと言った。その後も養子が解消されたとは聞いていない。だからオレの知る限り、オレは今でもナルーム国の王子だ」

居並ぶ貴人たちは、じっと鐘をみつめている。

鐘は鳴らなかった。

やがて神官が鐘を操作して機能を停止させ、口を開いた。

「鐘は正常に作動しておりました。このかたのお言葉は、まさに真実です」

おおっ、という小さな声がそこここで上がった。

侍従と神官は、書見台のようなものと〈真実の鐘〉を携えて退出した。

「スマーク侯爵」

「……は」

「なんじのワズロフ家に対する告発は誤りであったと証明された」

「……は」

「このことについての沙汰は、追って下す。冒険者レカンよ」

「は」

レカンは再び腰を折り、ナルーム式の礼をした。

(しまった)

(直接答えてはいけなかったんだった)

王国の高位貴族ではないレカンは、王と直接言葉を交わせない。それぞれが宰相か伝奏官と語る形でしか、本当は対話できないのだ。そう注意されていたのだが、うっかり直答してしまった。

「貴族どころか、異世界の王族であったのだな。特別に直答を許す」

「は」

「顔を上げてくれぬか。そなたの顔をみたい」

「は」

レカンは顔を上げ、背筋を伸ばした。ただし視線は王の胸元より上には送らなかった。