軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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王宮の広大な敷地は、巨大な魔法障壁に包まれていた。

しかも種類のちがういくつかの障壁が張り巡らされている。

とてつもない魔力量だ。これを常時張り巡らせるには、いったいどれほどの魔石が必要になるか、想像もできない。

どういう仕掛けなのかわからないが、レカンの〈生命感知〉も〈魔力感知〉も、その障壁に遮られて、なかを探知することができない。

そして驚いたことに、障壁のなかに入っても、やはり〈魔力感知〉はうまく働かなかった。〈生命感知〉は使えるが、あまり鮮明ではなく、人が密集している部分では人数の判別もできない。幸い、〈立体知覚〉は使える。しかしすこしぼやけている。

(さすが王宮というべきか)

(とんでもなく強力な結界だな)

妙に体が重い。不快感がある。

「これが〈 天界(カイレス) の翼〉」

「うん? エダ。何のことだ?」

「王宮は〈天界の翼〉という魔道具に守られているの。外からの魔法攻撃ははじかれてしまうし、翼の結界のなかでは魔法が使えないの。だから魔法使いははじめてここに入ると、ちょっとした不快感を覚えるそうよ」

「ほう」

ということは、この正体不明の結界のなかでは、〈立体知覚〉が十全な状態では働かないうえ、魔法はまったく使えないのだ。レカンの戦闘力は大きな制限を受けていることになる。

「私は特に不快感を感じないな。普通の魔法使いは気づかないぐらいのわずかな不快感だというからね。レカンもエダ殿も規格外の魔力持ちだから、違和感を覚えるんだろうね。あまり気分が悪いようなら申し出たほうがいいかもしれない」

「いや、ノーマ。オレは大丈夫だ。我慢できないほどの不快感ではない。エダはどうだ」

「私も大丈夫です」

「ふうん。うん? ちょっと待て。だとすると、スカラベルはどこで〈浄化〉をかけたんだ」

「正殿の奥に〈施療の間〉というのがあって、そこでは魔法が使えるのだよ」

「なるほど。そこは考えられてるわけか」

馬車から降りて、ひときわ威厳を放つ建物に向かった。入り口では妙な魔道具を向けられた。魔力が身体を走査していくのがわかる。

(これが〈箱〉を探知するという魔道具か?)

(結界のなかでは魔法は使えないが魔道具は使えるんだな)

侍従に案内され、奥まった部屋に向かった。

ワズロフ家一行の到着が告げられ、なかから入室を促す声が発せられ、扉が開いた。マンフリーを先頭に、レカンたちは入室した。リーガンたち騎士は部屋の外で待つ。

正面の椅子に座っているのが王だろう。その左右には身分の高そうな貴族たちが何人かと、王宮の役人が何人かいる。

扉が閉められ、マンフリーは正面の椅子に座る王の前で腰を折って礼をした。その後ろに立つレカンたちも立ち止まって礼をした。

「マシャジャイン侯爵マンフリー・ワズロフにございます。お召しにより、冒険者レカンと婚約者二人を伴い参上いたしました」

「よく来てくれた、マシャジャイン侯。こたびワズロフ家の姫の婚約が調うたとのこと、まことにめでたい。その相手は異世界の貴族であり、ツボルトとパルシモ二つの大迷宮を踏破した希有の冒険者とのこと。しかもスカラベルを癒した〈浄化〉の持ち主も、同時に娶るという。余から祝いの言葉をかけたいと思い、呼び出したのである」

「光栄にございます」

「宰相」

「は」

「余はレカンと親しく語りたい」

「は。レカン殿。前に進まれよ」

マンフリーが横に動き、レカンは顔を伏せたまま進み出て、もとの世界の作法で王に対する礼をした。

「ほう。みなれぬ礼容であるが、優美にして風格がある。なるほど異世界の貴族なのであるな」

「陛下。申し上げたき儀がございます」

「うん? スマーク侯爵。いかがいたした」

「このワズロフ家の婚姻につき、身分の点で明らかにしておかねばならないことがあると存じます」

「なに?」

「スマーク侯、それは」

「宰相殿、心配なさるな。姫の血筋の件ではない。異世界の貴族と名乗っておる男のことだ」

(スマーク侯、だと?)

レカンはその名に覚えがあった。ノーマに求婚してツボルトでレカンと決闘したうちの一人が、たしかスマーク侯爵の息子だった。いや、実際に闘ったのは代理のヴィスカー・コーエンという男だったが。

その決闘に勝利して、レカンは〈闇鬼の呪符〉という名の始原の恩寵品を得たのだ。

「冒険者レカン殿の身元については、ワズロフ家が保証しておられるのです。いかにスマーク侯爵といえど、王の御前でそのことに疑いを申し立てなさることはかないません」

「疑いではない。わしは知っているのだ」

「ふむ。聞く必要のない言葉ともいえるが、そこまで言うなら聞いておこう。何を知っているというのか」

「は、陛下。そのレカンなる冒険者は、貴族家の生まれなどではないのです。なるほどレカンは異世界からの〈落ち人〉にちがいございませんが、貴族などというのは真っ赤な偽りであり、ふた親の名も知れぬ孤児なのです。したがって、二人の妻を娶ることは許されません」

レカンは少し顔を上げて、しゃべっている男の顔をみた。

服は上品で高級だ。レカンをにらみつける目には憎しみがある。

名は忘れたが、スマーク侯爵家の跡継ぎとかいうあの男と、どこか顔立ちが似ている。そして目つきが似ている。

「マシャジャイン侯はだまされておるのです。どうだ、レカン。言い返せるものなら言い返してみよ」

(オレが孤児だと知っているのか)

(いったい誰に聞いたんだ?)

もとの世界でレカンがどう生きてきたのかを知る人間など、この世界にはいない。いるとすれば、ただ一人。

(ボウド。お前か?)