作品タイトル不明
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「驚いたな。君は地竜トロンを倒していたのか」
「ああ」
「しかも一人で」
「ああ」
「建国王陛下があれを討伐なされたとき、わが家は騎士団を出した。被害甚大だったと伝わっている」
「そうだろうな」
「それを一人で。信じられん。だが事実なのだろうな。どうやって倒したのか、詳しい話を聞かせてもらうことはできるだろうか」
「いや。すまんが手の内をさらす気はない」
「そうか。もっともなことだ。しかたがないな。とにかくトロンを倒したことは、表に出すわけにいかん。槍と剣の素材がトロンのとげだということは、すでにチェイニー商店もザイドモール家も知っているから、いずれは漏れるかもしれんが、トロンが倒されたことを知っている者は、ほとんどおらん。すまんがこれは秘密にしておいてくれ」
「わかった」
「ところで、君が王都に行きたくない事情については聞かせてもらっていたのに、今回、王家から呼び出しがかかった。君が承諾してくれたので、わが家も王家とのあいだによけいな軋轢を生じさせずにすんだ。礼を言う」
「むしろ面倒事を持ち込んだのはこちらだ。すまん」
レカンの反応が予想とちがっていたのか、マンフリーは目をしばたたかせた。
「そう言ってもらえると助かる。今回の拝謁には、私が同道し同席しよう」
「なに。侯爵家の当主たるあんたがか」
「毎年諸侯は新年には挨拶に参内するのだ。それを少し遅らせただけのことだ。さっそくだが、明日王都に向かうということでいいかな」
「ああ。世話になる」
翌日、一行はマシャジャインを出発し、三日目に王都に着いた。
王都はすさまじい規模の都市だった。
だがレカンを驚かせたのは建物や人の多さではない。
(強者だ!)
(とてつもない強さや魔力を持ったやつらがごろごろしている!)
(これが王都か)
街路を馬車で走っていると、鐘の音が鳴り響いた。
「お、これが時の鐘か。四連ということは、ええっと、 水牛(シュートラン) の一刻か」
マンフリーはそう言って、懐中から何かの道具を出した。
「ふむ。正確だな」
「鐘の回数で時刻を知らせているのか」
「ああ。今年から始まると通達があった。宰相も、たまにはなかなか気の利いたことを思いつくものだ。今聞こえているのはエレクス神殿の鐘だろうな。少し遠くに聞こえるのはライコレス神殿の鐘かな」
やがて馬車はワズロフ家の屋敷についた。広大な敷地に分厚い壁が張り巡らされ、木々に囲まれて館が立っている。
門を通って正面の建物に馬車は進む。建物の前には大勢の使用人が立ち並んで当主を迎えている。
石段を登って巨大な入り口から建物のなかに入ると、ロビーの中央に一人の女性が立っている。
赤い髪を美しく結い上げた淑女だ。内からあふれる若々しさで光り輝いている。
優雅な作法で腰を折り、挨拶をしてきた。
「マンフリー様。そして皆さま。無事のご到着、祝着に存じ上げます」
「やあ、エダ殿。お出迎え恐れ入る」
(エダだと?)
そこにエダがいるということは、〈生命感知〉によって承知していた。にもかかわらずマンフリーが名を呼ぶまで、そこに立つ貴婦人がエダだとは、レカンは気づかなかった。
エダが顔を上げた。その目はまっすぐにレカンに向かい、再会できた喜びにあふれている。磨き上げられ、化粧の施された顔は、息をのむほど美しい。両耳から下がる耳飾りがきらきらと揺れているのが、エダの胸の高鳴りを表しているかのようだ。それにしても、この気品はなんとしたことだろう。
(こいつひょっとしたら)
(貴族の血を引いているんじゃないか?)
「エダ」
「レカン。ようこそ王都に」
「ああ。お前が無事で安心した」
「フジスルさんやみんなに、すごくよくしてもらった。ごめんね。あたいのために嫌いな王都に来ることになっちゃって」
「そのことはもういい。めかし込んだ格好でその口調だと、どうも違和感があるな」
「ふふ。お部屋に案内いたします。どうぞこちらに」
「ああ」
エダに案内されて部屋に落ち着くと、しばらくして夕食の案内があった。レカンは用意されていた服に着替えたが、サイズがぴったりなのに驚かされた。
晩餐の席ではレカンは正客の位置に座り、レカンの右がノーマで、左がエダだった。もちろんホスト側の席にはマンフリーが座っている。
「さて、レカン。君が到着するおよその日程については王宮に伝えてあったが、マシャジャインに着いた時点で使者を出して拝謁の日を調整した。うまいことに、明日時間を取っていただくことができた。 針魚(チーチー) の三刻だ。早めに昼食を取って針魚の一刻に出かけようと思う」
「わかった」
「拝謁の服はこちらで用意させてもらった。王宮のなかには〈箱〉は持ち込めん。入り口で検査されて、〈箱〉を所持していると探知される。だから〈箱〉は、この屋敷に置いていってくれ」
「ああ」
自前の〈収納〉は探知されるのだろうか。といっても取り外すことはできない。行ってみるしかない。
「それと、略式の拝謁ではあるが、一応作法を覚えておいてもらえるかな。あとで詳しい者を差し向ける」
「ああ、よろしく頼む」
翌日、早めに昼食を済ませたレカンは、用意された服を着た。
白を基調としたすっきりとした服で、腰には儀礼用の細剣を吊った。
ノーマは薄紫色のドレスを、エダは淡い桃色のドレスを着ていた。
リーガンをはじめとする六人の騎士に守られ、マンフリー、レカン、ノーマ、エダ、フジスル、フィンディンの六人は、馬車に乗り込み、王宮に向かった。本来ならジンガーも同行したはずだ。ところがジンガーは、腰を痛めてしまった。エダの〈浄化〉をかけても丸一日たつと痛みがぶり返す。今回はみずから留守番をすると言い出した。心なしかノーマが不安げにみえる。レカンはノーマに寄り添った。