作品タイトル不明
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マシャジャインを出て十日でパルシモに着いた。
馬車で来ることを思えば驚くべき短期間で到着しているのだが、レカンの基準からすれば、かなりゆったりした行程だ。
なぜそうなっているかといえば、宿を選びながら移動したからである。
ザカ王国の南半分は全体として北半分よりずっと豊かだ。それぞれの町に特色があり、うまいものの食える店も多いという。特にマシャジャインからパルシモに移動する道中はよい宿を持つ町が並んでいる。
マンフリー・ワズロフは部下に命じてうまいものの食える宿と道中の名物料理の一覧表を作ってくれた。
そこで十日のうち八日は宿に泊まって移動することになった。
なかには夜遅くに着いた宿もあった。事前の予約がなければ宿泊させてもらえない店もあった。だが、マンフリーが用意してくれた紹介状の効き目は絶大で、各地でうまいものを堪能しながら、レカンとユリウスは移動したのだ。付け加えていえば、どの宿にも入浴施設があったことも、レカンの機嫌をよくした。
だが、パルシモに着いて迷宮の受付所を訪ねたとき、レカンのよい気分は一瞬で吹き飛んだ。
「なに? ここの迷宮は二人では入れんのか?」
「はい。そんなことも知らずにここに来たんですか。パルシモ迷宮は多穴迷宮で、最低五人はいないと探索できません」
「多穴迷宮? 何だ、それは」
「各階層には五つの入り口があり、一度入ると後ろには戻れません。魔獣を全部倒すとその穴の出口が開きます。そして、五つの穴の魔獣を全部倒さないと、次の階層に移動できないんです。それぞれの穴に入る人数には上限がないようですが、あまり大勢で入っても動きにくいので、数人程度に抑えるのが普通です」
それぞれの穴に三人ずつ入ったとしても全部で十五人だ。それは迷宮探索のパーティーとしてはかなりの人数である。レカンがもといた世界の迷宮にも、そういう場所はあった。
「ああ、なるほど。そういうやつか。この迷宮では、全部の階層がそういう仕組みなのか?」
「八十階層まではそうです。八十一階層からは、それぞれの穴の敵を倒したあと、パーティー全員で強い敵と戦うようになります」
「ほう」
「斡旋所は隣の建物です。希望探索階層と人数と能力構成を申し込んでいただくと、一日に一回パーティーを斡旋してくれます。断ると、その日はもう斡旋は受けられません。今日はもう斡旋待ちの探索者はいないと思いますし、それに」
「それに?」
「正直に申し上げますと、この町の探索者は、外から来た冒険者とパーティーを組むのを好みません。ですから、外から来る冒険者は、あらかじめ五人以上のパーティーを組んでいることが多いのです」
「この町の探索者というのは、冒険者じゃないのか」
「この町で迷宮を探索する人のほとんどは、何か職についていて、時々迷宮探索をしています」
なんとここの迷宮では迷宮探索者のほとんどは町の住人なのだ。魔法に関わる職に就いている者が多く、素材を得たり、能力を上げたり、資金を得たりするために迷宮に潜る。一回の探索では一回しか戦わないことが多い。魔力が万全な状態で戦うのが効率がいいし、魔力が回復するのを待つよりほかの仕事をしたほうがいいからだ。
だからここの迷宮の周りには宿が少ない。
外から来る冒険者も一定数いるが、魔力持ちだけで構成されたパーティーを組んでここまで来なくてはならないのだから、その数は少ない。
とりあえず宿をとって明日の朝出直そうかと考えたとき、忘れていたことを思い出した。
「そうだ。パルシモに着いたら、迷宮の責任者にこれを渡すように言われていたんだ」
レカンは受付の係員に、マンフリーからことづかった封書を渡した。上質の木材紙で、上品なリボンで結わえてある。
「迷宮の責任者ですか?」
不審そうな目でそう言いながら封書を受け取った係員は、リボンをずらしてその下にある封蠟に目を近づけ、首をひねった。そのあと、紙にすかしが入っていることに気がついた。
すかしは、雷を持つ獅子の意匠である。
「こっ、これは、まさかっ」
係員はひどく驚いた様子でレカンの顔と封書をみくらべた。
「た、ただちに責任者に取り次ぎます。しばらくお待ちを!」
その係員は走って建物の奥に入り、そこから出てどこかに走っていった。
しばらく待っていると、先ほどの係員が馬車を連れて帰ってきた。レカンとユリウスはその馬車に乗り、領主の館に連れていかれた。
「あなたがレカン殿か」
「ああ」
「私はパルシモ領主エルモ・シエーレ様の甥で、迷宮管理をまかされている、トール・シエーレという。ワズロフ侯爵様の縁者をお迎えできて欣快に存ずる」
「会えてうれしい。よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いする。さて、貴殿は単刀直入なやり方をお好みであるとのこと。早速だが、ここには迷宮探索に来られたのだな」
「そうだ」
「ここの迷宮ははじめてとのこと。係員によれば、五人以上でなければ探索できないこともご存じなかったという。どの程度の日数で、どれほどの階層を目指しておられるだろうか」
「それはとりあえず入ってみてのことだな。難易度が高かったり、探索して面白みがなかったりすれば、早々に引き上げるかもしれん」
「ふむ。ということは、難易度が高くなく、面白みがあれば、長期間の探索になるかもしれないのだな」
「そういうことだ」
「その少年も一緒に連れていくおつもりか」
「ああ」
「ふむ。お二人とも魔力はお持ちなのだな?」
「ああ」
「わかった。斡旋を申し込まれてもよいが、斡旋を受けてくれる相手をみつけるには苦労なさるだろう。私から提案がある」
「聞かせてもらおう」
「足りない人数を私のほうで用意しよう。とりあえず三日間だ。三日探索してみて、なお探索する意志があれば、斡旋を受けて仲間を探せばよい。私の部下があなたの戦いぶりをみとどける。あなたがこの迷宮の探索に能力を発揮できるようなら私の部下が推薦を出せる。それがあれば斡旋を受けやすくなるはずだ」
「ほう。それはありがたいな。その申し出を受けさせてもらう。あ、それとこのユリウスはオレと同じ穴に潜る」
「ああ、なるほど。指導なさるのだな。では、みとどけ役のほかに四人のメンバーを用意する。今夜はこの館にお泊まりいただきたい。食事と酒と風呂を用意してある」
「世話になる」
食事も酒もうまく、風呂は広々して気持ちよかった。部屋のテーブルには、パルシモ迷宮の概要を記した説明書きが置いてあった。ユリウスも同じ部屋で寝泊まりし食事した。食事を運ぶのと風呂の案内以外、使用人が顔を出すことはなかった。レカンは以前にはこうした格式張った造りの屋敷に泊まること自体をわずらわしく感じていたが、慣れたのか、それともこの屋敷の対応がよかったのか、快適な眠りを楽しむことができた。