軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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16

翌日、ワズロフ家一行とラインザッツ家一行は一緒にツボルトを出発した。

レカンはすぐにパルシモ迷宮に行きたいと言ったが、ノーマが許してくれなかった。

「頼むからマシャジャインまでは一緒に帰ってくれないか。マンフリー様に報告して今後のことを取り決めなくてはならない。あなたは当事者の一人なのだから、同席してくれなくては困る」

そうまで言われてはしかたがないので、とにかくマシャジャインまでは同行することにした。

エダはヘレスに呼ばれてラインザッツ家の馬車で移動している。

夕食のときは、ヘレス、ノーマ、レカン、エダ、ユリウスの五人が一緒だ。

とても楽しい晩餐になった。

その夜、レカンの寝ている部屋に近づく者があった。

「旦那、旦那」

「何の用だ、ぽっちゃり」

「インドール家とフォートス家の刺客が旦那を狙ってます」

「ほう」

「全然驚いていませんね」

「いや、驚いた。オレを討てると思ってるんだな」

「その自信がいつか旦那のあだになりやすよ」

「気をつけよう」

「いつどこで襲ってくるか、お知りになりたいですか」

「いや、べつに」

「そこは、教えてくれグィスラン、とおっしゃるところですよ」

「教えてくれ、ぽっちゃり」

「はあー。えっとですね。このまま進んでいくと、五日目か六日目にラインザッツ家の一行と別れますね。襲撃はそのあとです」

「ああ。なるほどな。うん? オレは殺すつもりだろうが、ノーマをどうするつもりだ?」

「誘拐して妃にするんですと」

「もう求婚はしないんじゃなかったのか?」

「だから申し込まないんです。無理やり結婚するんですよ」

「その理屈はわからんな。しかしワズロフ家に喧嘩を売るのか」

「いえいえ。さらったにしても、ちゃんと正妃として遇すれば、ワズロフ家としても敵対はできません。いい気分じゃないでしょうけどね」

「ふうん」

「どうです、旦那」

「うん?」

「あたしを雇いませんか」

「雇ってどうする」

「どうするって。襲撃場所とか時間とかがわかったらお知らせしますよ」

「じゃあ、雇う」

「へへへへへ。うれしいですね。旦那に雇ってもらえるとは」

「用が済んだら消えろ」

「つれない人ですね。じゃ、また」

六日目の朝、ヘレスとは別れた。別れ際にヘレスはノーマに手紙を渡した。

しばらく進むとグィスランが現れた。

「旦那。山道に入って千歩ほど行ったところに敵が隠れてます。十二名で、暗殺技能の持ち主はいません」

「ほう。敵は密偵を連れていないのか?」

「いますよ。旦那たちの動きをみはってました。気づかなかったんですか?」

「そうかもしれん気配は察知したがな」

「やっぱり、あたしがついてないとだめですね」

「いや、いらん」

「またまた」

山道に差しかかるころ、レカンも敵が特定できた。

レカンは馬車を止めさせた。

「よし。エダ、行くぞ」

「うん」

「ジンガーはノーマのそばを離れるな」

「はい」

エダとレカンは敵に近づいてゆき、レカンが敵の位置をエダに教えた。エダは〈探知〉の魔法で敵の位置を精密に探知し、〈睡眠〉の魔法で眠らせていった。射程がぐんと伸びている。

「レカン。言われた相手はみんな眠らせたよ。何人か、ものすごくかかりにくい人がいたけど」

「ほう。恩寵品かな。そういう相手はどうした?」

「ねじ伏せた」

ツボルト迷宮でエダを強化したのは正解だったようだ。

「ぽっちゃり」

「はいな」

「隠れていたやつは眠らせたが、これで全部か?」

「ええ。もう邪魔者はいません。それにしても、こんな距離から〈睡眠〉ですか。とんでもないですねえ」

「報酬だ」

レカンがぽいと投げたものを、ぽっちゃりは受け取った。

「大金貨じゃないですか!」

「お前の情報には価値があった」

「こんなもの頂いても、お釣りがありませんよ」

「釣りはいらん」

「こりゃ、お釣り分を働いて返さなくちゃいけませんね」

「いらんと言ってるだろう」

「しばらく陰から旦那のお供をさせていただきやす」

「いらん。消えろ。あっ」

「ほんとに消えたね。今の人、何?」

「密偵だ」

「へえ。何て名前?」

「ぽっちゃり」

「それ、名前じゃないよね。ほんとの名前は何ていうの?」

「……さあ?」

17

「レカン」

「どうした、ノーマ」

「ヘレス殿から手紙をもらった」

「ああ、もらってたな」

「レカン殿の婚約者が姉上でうれしい、と書いてあった」

「ほう?」

「同じ顔と同じ心と同じ血を持つあなたがレカン殿のそばにいることを私は喜びとする、というんだ」

「ほう」

「そして、エダ殿も大切にしてほしい、とあった」

「そうか」

「レカン。私は自分が恥ずかしい」

「ふん? あ、そうだ、ノーマ。〈ガスパーリオ・ラーフ〉という言葉の意味がわかるか」

「いや、知らない言葉だ。古代語のような響きだね。あとで調べてみておこう」

18

「レカン。あのね」

「どうした」

「マシャジャインに着いたあと、しばらく王都に行きたいんだ」

「オレは行かん」

「あたいだけでだよ。ヘレスさんに誘われたんだ」

「ほう? 王都で何をする」

「綺麗な服を買ったり、おいしいケーキを食べたり、それに」

「それに」

「内緒」

「何だそれは」

「とにかく王都に行きたい。いいでしょ?」

「どのくらいの期間行くつもりだ?」

「うーん。三か月ぐらいかな」

「では、ワズロフ家を連絡拠点にしよう。オレとユリウスはパルシモに行く。どの程度の期間になるかわからんが、十の月には一度ヴォーカに帰っておかないといけない用事がある。ヴォーカに帰る前にはワズロフ家に寄ることにする」

魔力回復薬の材料の一つであるターゴ草は、九の月から十の月のあいだにしか採取できない。探せばパルシモの近くにも生えているかもしれないが、シーラに教えてもらった場所ほどの群生地は簡単にはみつからないだろう。ならばヴォーカに帰ったほうがいい。

「あ。それなら一緒にヴォーカに帰れるね。そうしよう。レカンがワズロフ家に帰ってきたら、連絡をくれないかな。そしたらあたいもすぐにワズロフ家に来るから」

「わかった」

「レカン」

「うん?」

「どうして〈神薬〉をもらったのに、自分で使わなかったの?」

「自分で得たものではないからだ」

「レカン」

「うん?」

「あたい、頑張るよ」

「ああ。期待している」

「えへへ」

「ああ。それから、これをやる」

「これ、何?」

「ソルスギアがくれた品だ。〈箱〉の一種で〈自在箱〉という。普通の〈箱〉は、その〈箱〉より大きい物は入らないし、大きい物を入れるとふくらんでしまうが、〈自在箱〉はうんと大きな物を入れることができ、しかもふくらまない。鑑定してみたところ、何百倍かそれ以上の容量があるし、おそろしく頑丈にできているようだ」

「これ、くれるの?」

「ああ」

「 ありがとう(ナロウ) 、レカン!」

「盗まれないように注意しろ。それから、いくら頑丈だといっても破れることもある。そのときは中身がこぼれてしまう。だから大事なものは分散して持て」

「うん。わかった」

19

「まずは勝利おめでとう。ずいぶん容赦のないやり方だったと聞いたが」

「そうか?」

「マンフリー様。ご提案があります」

「何かな、ノーマ」

「諸家系統譜の書き換え申請を取り下げられてはいかがでしょう」

「なに?」

「宰相殿は、相当にいやがっています」

「それは王家の嘘を認めることだからな。いやだろう」

「だから申請を取り下げれば恩を売れます」

「む」

「それにラインザッツ家のほうも、ほっとするでしょう」

「なに? ラインザッツ家からは、足並みをそろえるという確約をもらっているが」

「それはそう言うしかないでしょう。でもラインザッツ家のご当主様からすれば、宰相殿は実の弟。王家に尽くすその苦衷も察しておられるはずです。宰相殿に救いの手を差し伸べれば、内心ではお喜びになられるのでは」

「なるほど。それはそうかもしれんな。あちらは諸家系統譜の書き換えをしなくても、継嗣殿とヘレス姫の血筋が高貴であることは動かん。むしろ王家の血が入っていることが明らかになれば、そのほうが厄介だ。だが、あなたはどうなのだ。それであなたは納得できるのか」

「それが私にとっても望ましい道なのです」

マンフリーはノーマをみた。そしてレカンをみた。

ノーマがワズロフ家で最も高貴な姫であるということが公になれば、レカンと結婚できない。できるとすれば、レカンを爵位持ちの貴族にして家を立てさせるしかない。だがそれをすればノーマはゴンクール家の後継者ではいられない。そしてレカンが爵位持ちの貴族などになることを素直に了承するかどうかは疑問だ。

「そうか。なるほど。それがあなたの望みか」

「はい」

「ゴンクール家の後継者として、レカンを婚約者とするのだな」

「はい」

「わかった。わが家からも婚約祝いを贈ろう。レカン、ノーマをよろしく頼む」

「ああ」

マンフリーから大金が婚約祝いとしてノーマに贈られることになった。また、ワズロフ家からノーマに年金が出ることになった。つまりノーマとレカンの婚約は、ワズロフ家によって承認され確定されたのである。

「レカン。ゴンクール家の奥まった場所に、木々に囲まれた池がある。そのほとりに私たちの住む別邸を作るよ。あなたと、私と、エダと、ジンガーと、それにジェリコが住める小さな別邸をね。いつでも帰ってきて羽を休めてほしい。おいしい酒をいつも用意しておく。それから、そうだ。お風呂を作ろう。小さくて使い心地のいいお風呂をね。木々と池が眺められる場所に作るよ。あなたはお風呂が大好きなようだからね」

そんな別邸なら、ヴォーカにいるときには住んでもいいな、とレカンは思った。

「薬草を干したり調合したりできる小屋を作ってくれるか」

「もちろんいいとも。どんな間取りにすればいいか教えてくれたまえ」

大きなかまどさえあれば、あとの機材はシーラの家から運べばいい。レカンは思う存分調薬できる未来を思い描いて笑みを浮かべた。