軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

070 断章 魔王城跡地【エルナ視点】

――――魔大陸。

そこは人族を始めとした女神に寵愛された種族が生活する本大陸に対し、魔族はもちろん、強力な魔物が数多く生息している大陸である。

荒れ果てた大地、氷の 大山(たいざん) 、燃え盛る地下道などが多くを占め、生命力に長けた存在でなければ生き抜くことができないほど過酷な環境となっている。

かつて、この地に君臨した一人の存在がいた。

それこそが魔王。仲間意識や結束力といったものに欠けている魔族を束ね、本大陸に侵攻を仕掛けてきた最悪の存在。

最終的には勇者と神竜によって討伐されたものの、魔王が本大陸に残した傷跡は決して小さくなかった。

そして魔王が消えて以降も、魔王軍に所属していた一部の魔族たちが魔王の復活を待ち望み、魔大陸で力を溜め続けているというのは有名な話。

その動きは近年活発化し、本大陸の様々な場所で、魔王軍の生き残りと思わしき魔族による被害が多く見られていた。

その事態を収拾するため、現在、魔大陸を調査する冒険者たちの姿があった。

数は五人で、驚くべきはその全員がS級冒険者であるということ。

そんな彼らはちょうど現在、魔大陸に生息する強力な魔物たちと戦闘中だった。

「ふんっ! この程度で、俺たちの敵になると思ってもらっちゃ困るぞ!」

1人目、トール・ウルヘンテが魔物を斬り倒しながら豪快に叫ぶ。

職業は戦士、二つ名は『千軍粉砕者』。

両手で持ち上げるのも苦労しそうな程の大剣と大盾をそれぞれ右手と左手に装備した、茶髪のツンツン頭と顔中の傷跡が特徴的な40歳近い見た目の男性。

「そうだな。とはいえ、やはり本大陸の魔物に比べたらいくらか強力だ。油断はできまい」

2人目、ジュード・アズヴェルトが冷静に分析しながら、複数の魔法を巧みに操り攻撃を加えていく。

職業は魔法使い、二つ名は『叡智の万華鏡』

紫の髪は肩まで伸び、黒縁の眼鏡と長い杖、青色のローブが目立つ30代中頃の男性。

「皆さんが凄いので、私がサポートする暇がなかなかないですね。あはは……」

3人目、フィーネ・ブルームが少しだけ気まずそうな笑みを浮かべる。

職業は治癒師、二つ名は『生命の聖泉』。

亜麻色の長い髪を後ろで編み込み、白と緑を基調とした軽装のローブを身に纏う、優し気な表情が特徴的な20代後半の女性。

「……文句はない。体力は温存しておくに限るからな」

4人目、レイヴンは静かに呟きつつ、他の冒険者に意識が向いている魔物の命を次々と刈り取っていく。

職業は斥候、二つ名は『静寂の影法師』。

常に口元を覆う黒い布と、全身を覆う暗色の軽装が特徴的な20代後半の男性。

ここにいる誰もが、Sランク冒険者という称号を得た最強の存在。

場合によっては、たった一人で騎士団の大隊以上の実力を誇る。

――もっとも、そんな中にいてなお、ただ一人群を抜いた存在がいた。

先頭に立つのは、月光のように輝く白銀の長髪を靡かせる女性。

名をエルナ・ブライゼル。職業は剣士。

「――――はぁッ!」

彼女が一振りするだけで、Bランク以上の力を持つ魔物たちが、いとも呆気なく両断されていく。

討伐速度は他の四人とはとても比べ物にならない。

高速の動きで戦場を駆け回り剣を振るい続けたエルナは、結果的に100体以上いた群れの半分近くをたった一人で討伐していた。

「……相変わらず、とんでもない気迫っぷりだな」

「さすがはエルナさんです!」

「「………………」」

その光景を見たトールとフィーネが感心の言葉を漏らし、残る二人は無言で賛同の意を示す。

そしてそうこうしているうちに、とうとう決着がつこうとしていた。

エルナの振るう刃が、最後の一体の首をはねてみせたのだ。

「ふぅ、これで終了だな」

エルナはゆっくりと息を吐きながら、そう呟くのだった。

魔物の群れとの戦いを終え、エルナたちは小休憩を挟むことに。

そこでエルナは改めて、今日に至る経緯を思い出していた。

とはいえ基本的には、以前レストに軽く事情を話した通り。

大陸のあちこちで魔族による被害が増えていることを重く見た陛下から直々に依頼を受け、その対応をすることになったのだ。

とはいえ、初めからここまでの規模だったわけではない。

エルナは元々単独で、フィナーレ王国の国境沿いなどに出現した魔族の討伐に務めていた。

しかしごく最近、新しい情報が入った。

魔族が暮らす魔大陸の一部で、魔物が異常発生しているとのこと。

通常であれば魔大陸で起きた異変など優先順位は低いが、今回に限っては あ(・) る(・) 大(・) き(・) な(・) 問(・) 題(・) が存在していた。

その事態を重く見た各国は一時的に協力し、それぞれの国が誇るSランク冒険者を招集。少数精鋭で討伐と調査をするように命じた。

(――とまあ、まとめるとすればこんなところか)

エルナがそう考えている最中だった。

「おいエルナ、聞いてるのか?」

「ん?」

トールから名前を呼ばれ、エルナは顔を上げる。

「すまない、もう一度聞かせてもらえるか?」

「まったく……お前さんが最前線から退いて後進育成を始めたと風の噂で聞いたんだが、それは事実なのか?」

「……ふむ、確かに指導自体はしているが……」

「本当だったのか!? お前さんはまだ10代だろうが! なぜ俺たちを差し置いて既に隠居してやがる!?」

何か勘違いされているようだ。

そう思いながら、エルナは続けて言った。

「いや、普段は変わらず冒険者として活動してはいるぞ。元々はティア……フィナーレ王国の第一王女から、妹に剣を教えてやってほしいと頼まれてな。そこから他にも何人か教えることになったというだけだ」

その発言に反応したのはフィーネだった。

「なるほど、そういう事情だったんですね。それでも少しは驚きですけど……」

「ほう。私が誰かを指導するのが、そこまで不可解だろうか?」

「うーん。と言うよりは、エルナさんは戦い以外興味ないと思ってましたから……」

そんな前置きの後、フィーネはゆっくりと、これまでエルナに抱いていた印象を語り始めた。

エルナが初めて表舞台に姿を現したのは、今からたった三年前のこと。

当時15歳と、スキルを得てから1年程度しか経っていないはずの少女。

後に『戦渦の獅子』とも称されるほど苛烈で圧倒的な実力を見せつけた彼女は、瞬く間にSランク冒険者へと登りつめた。

始めは新米の少女に追い抜かされたと憤慨する冒険者たちも、その戦いぶりを前に誰もが魅了されていったのだ。

そして彼らは思った。

この少女の居場所は戦場にしかない。

一生、目の前に立ちはだかる敵を斬り伏せていくのだろう――と。

それはフィーネであっても同じ。

だからこそ、後進育成に時間を割いているという噂を聞いて驚愕したのだとか。

「当時のエルナさんの姿は、今でもはっきりと思い出せます。今より華奢な体でありながら、力強い剣捌きで次々と魔物を倒していく……あの時から、エルナさんは私の憧れなんです! 当時Aランク下位で停滞していた私がこうしてSランクになるまで努力できたのも、エルナさんにやる気をもらったからなんですから!」

目をキラキラと輝かせながら告げるフィーネ。

彼女がエルナのファンだというのは公然の事実であり、こうなるのもいつものことだった。

そのためトール、ジュード、レイヴンは会話から抜けて休息に集中している。

ここでふと、エルナは以前から気になっていることを尋ねることにした。

「そう言ってくれるのはありがたいが……一つだけいいか?」

「はい、何でしょう!?」

「前々から思っていたが、フィーネから私に対する敬称は必要ないのではないか? 冒険者同士でその辺りを気にする者はいないだろうし、年齢にしたって君の方が一回りは上なのだから」

「ご、ほっ……」

エルナの純粋な言葉に、フィーネは血反吐を吐いた。

かと思えば、小声でぶつぶつと呟き始める。

「ち、違います。私は三十路目前なんかじゃありません。心は……心はいつまでも10代ですから! いいですね、エルナさん!?」

「わ、分かった」

その気迫っぷりにはさしものエルナも圧倒されてしまう程だった。

それからしばらく、少しだけ気まずい空気が流れる中、休息の時間は過ぎ去っていくのだった。

◇◆◇

それから一時間ほどが経ち、小休憩は終了。

英気を養ったエルナたちは、改めて目的地へと向かうことになった。

(さて。改めて少し、振り返るとしようか)

今回、問題視された魔大陸における魔物の大発生。

通常であれば魔大陸で起きた異変の対処は後回しになるのだが、優先的、かつこれだけのメンバーが揃えられた理由は そ(・) の(・) 発(・) 生(・) 源(・) にあった。

――名を、【魔王城跡地】。

魔王とは約千年前、人族に多大な被害をもたらしたのち、勇者の手によって封印された存在である。

そんな最凶最悪の存在が拠点としていた場所に突如として生じた異変。

魔王の復活が近いと予想されている中、見逃すことは決してできなかった。

「――――さて。鬼が出るか、蛇が出るか」

エルナたちは着実に、魔王城へと近づいていく。

到着まで、あと数日のところまでやってきていた。