軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【神龍国朧】という国

「うまい……、うまいのだ……」

涙をジワリとにじませながら、ゆっくりと小鳥がついばむような速度で食事をする少女。今までがあれな態度だったけれど、そこだけ見るとやっぱりちょっと上流階級の子なのかもしれないという印象は受ける。

さっさと食事を終えたハルカ達は、そんな少女の仕草を観察しながら食事を終えるのを待つ。

冒険者は酒盛りするときを除けばのんびり食事することはあまりない。

たっぷりと時間をかけて食べ切った少女は、ようやくハルカ達に見られていることに気づいて、若干気恥ずかしそうに姿勢を正して咳払いをした。

「さて、それでは事情を聞かせてやるとするか」

「あ?」

「……事情を聴いてもらえるだろうか」

「どうぞ」

アルベルトがすごむと、少女は言葉を訂正した。

先ほどの昼食強奪により、アルベルトが自分の身分の高さや見目の麗しさが通じない相手であると認識したようだ。

ハルカが先を促すとほっとしたように続ける。

「我はそこな王子の言う通り【神龍国朧】の巫女の一人なのだ」

「巫女ってなんです?」

「ふむ……、【朧】では、特殊な力を持つ 女子(おなご) が巫女として、数ある島々の中心にある〈神龍島〉に住まい権威を持っている。それ以外の島では侍共が血で血を洗うような戦いで土地を奪い合っているが、〈神龍島〉に限って言えば血を流すことは厳禁とされている」

少女は落ちていた石を拾って、地面に落書きを始める。

「これが〈神龍島〉、そしてこれを囲うようにいくつもの島が集まっている」

どうやら〈神龍島〉を中心に花弁のように寄り添っている八つの島によって【神龍国朧】は構成されているようだ。

「真ん中の島なんて占拠したら戦うのに便利そうだけどねー」

「ここを占拠するためには、全ての島をすべねばならぬという規則もある」

「そんな規則誰が守るんだよ」

「ふふん、守らねばならぬのだよ」

「なんでだ?」

「何でだと思う……?」

イニシアチブをとれたと思ったのか、アルベルトに対する回答をもったいぶる少女。レジーナほどではないけれどアルベルトも相当に手が早めに出るタイプだ。しかも割と老若男女関係なく。

はらはらとハルカが見ていると、イーストンが口を挟んだ。

「規則を破ると神龍様が出てくるんでしょ」

「あぁ! 我が説明したかった部分を! ぐぬぅ、……まぁよい。王子の言う通りだ。規則に従わぬ野蛮なものは神龍様に一族郎党絶やされる。過去に三度それで滅亡した一族がいる」

「何でそうまでして神龍島を占拠したいのでしょうか?」

ハルカの単純な疑問だった。

こうして地面に描くと一つ一つの島は小さいけれど、おそらく【神龍国朧】の国力は結構なものだ。人口も多いだろうし、四方を海に囲まれていれば食料資源も豊富だろうと想像がつく。

島一つ占拠すればその時点で大体の欲は満たされそうなものだ。

「神龍国は、元々一つの島だったのだ。神龍様と月の巫女が平和に治めていた国だったのだが、いつしか侍たちは争い、各地で戦を起こすようになった。寵愛を得ようとしたものもいれば、自分こそが国をすべるにふさわしいと思うものもいたのだろうな。やがてその凶手は月の巫女の下まで及びその命を奪った。月の巫女と平和を愛していた神龍様は怒り、島を九つに割って侍共におっしゃった」

少女の語り口はいつの間にやら巧妙なものになっていき、いつしかハルカ達も真面目に耳を傾けていた。

「『欲深き者達よ、それほどまでにすべてを欲すのであればまずすべての島を我がものとせよ。そうして我へ挑め。我に勝つことができれば全てを与えよう。そのものを天なる王と定め、未来永劫の若さと命、そして我が忠誠をくれてやろう』とな。神龍様は愚か者たちを永劫なる戦いの地獄に叩き落とすためにそうおっしゃったのだと、我々巫女には伝えられている。それを知ってか知らでか、未だ侍たちは戦っている。数百年、いや千年以上の間【神龍国朧】は争いで満ち溢れている。〈神龍島〉はそんな侍たちの貢ぎ物によって成り立っておる。いつか自分がその島を手にすることを夢見て、侍たちは〈神龍島〉を楽園として成り立たせ続けておるのだ。特殊な力を持つ女子が、これも貢物として各島から集められる。それが巫女だ。そして我ら巫女は選ばれし〈神龍島〉の世話人であり、管理者でもある」

話を聞けば【神龍国朧】がなんと業の深い国なのか理解できてしまった。

ここに出てくる巫女とはつまり、オラクル教の言う神子のことだろう。サラなんかも【神龍国朧】に生まれていれば巫女となっていたということになる。

それぞれが情報を整理するために黙り込んでいる間に、語り終えた少女は満足そうに各々を見てからにんまりと笑う。

「どうじゃ? 我が偉いのがよくわかっただろう?」

「偉い、といえば偉いのでしょうけれど……」

「でしょうけど、なんだ?」

ハルカは考えがまとまらないまま口を開く。

少女は比較的穏やかでちょろそうなハルカの次の言葉を不安に思いながら問い返した。

「……その仕組みで言えば、【神龍国朧】の女性の神子は、巫女になることを強制され、そこで一生を終えるということでもありますね」

「………………そうだ」

少女は目を泳がせてから口を開き、そして目を伏せ俯いて、今までにないくらい静かな声色でハルカの言葉を肯定した。