作品タイトル不明
思うようにいかない
イーストンによればどうやら貴人らしい少女を、地面の上に直接寝かして目が覚めるのを待つ。ナギがのぞき込んできたので事情を説明してやると、納得したのか一緒にじっと少女のことを見守っている。
「……ナギがそんな近くで見てたらそいつビビるんじゃねぇの?」
「そんなこと言ったらナギがかわいそうでしょ」
「いや、俺は別にいいけど」
アルベルトの当たり前の意見は、本音半分、ちょっとビビらせるくらいいいだろうという気持ち半分のコリンによって退けられた。アルベルトだって別に少女に何か思い入れがあるわけではないのであっさり退散だ。
「ナギは優しいですね」とか「えらい」とか言ってナギの鼻先を撫でているハルカとユーリのことをだれも止めようとしない。
少女が身動ぎ。
「ん……。…………ほぎゃああああああ」
そしてどこか艶っぽいうめき声の後、ゆっくりと瞼が持ち上がり、直後赤ん坊が生まれたときのような叫び声が響き渡った。
ごろりと転がりうつぶせになり、そのまま手足をついて数歩進み、クラウチングスタートのような状態から走り出そうとして素振りをしているアルベルトに激突。
「りゅ、竜が! ど、どけ、我はまだ死にたくない、うぉおお放すのだ!」
どけと言いながら避けて走っていこうとする少女の襟首をアルベルトが捕まえる。さっきのイーストンと同じような状況だ。
「ナギはお前のことなんか食わねぇよ」
「なんだと!? なんかとはなんだ! 我高貴なる巫女ぞ!」
足をばたつかせながらばらしては良くなさそうなことを口走る少女に、イーストンはあきれ顔で告げる。
「自分で言ってたら世話ないよね」
「あ、さっきのいい男! 我思い出したのだ! お主、【夜光】の王子だろ、なんでこんな所に……」
「人の情報まで勝手にばらすと、痛い目に遭わせるよ」
「ひっ……、ぼ、貿易相手の国の貴人に暴力を振るうのか……?」
「そうやってまた余計な情報をぽろぽろと……。口をふさがれるのと自主的に静かにするのどっちがいい?」
「いい男に口をふさがれるってなんかよい響き……」
表情をとろりととろけさせた少女を見て、イーストンは剣の柄に手をかけた。
「口を開けないようにした方がいい?」
「冗談だ、冗談。流石にこんな所で男漁りはせん。大丈夫なんだな、あの竜は」
「大丈夫だから、落ち着いて」
少女がちらっと大型飛竜であるナギの方を見る。
俯いたナギをハルカとユーリが両側から撫でて何かを話している。耳を澄ませてみれば「落ち込まないでください」とか「ナギかわいい、いい子」などと慰めの声が聞こえてきた。
少女はその光景が面白くてへらっと笑った。
「放すからな」
「ゆっくり下ろすといい、ふふ、豆腐を扱うように、な。ああ!」
パチッとウィンクしてみせたけれど、そんなものはアルベルトの目には入らないし、いきなりどけとか言ってきた少女を丁重に扱う気もない。
放すと声をかけたのは少女に対してではなく、イーストンにだ。当然のように着地に失敗した少女は地面に崩れて座り込んだ。
「我の扱い雑じゃない……?」
「そんなことないですよー? ところで、私達に依頼があるとか?」
しゃがみこんで営業スマイルを浮かべてみたのはコリンだ。
それが優しそうに見えたのか、少女も少し元気よく話し始める。
「そうなのだ。これは国の一大事、崇高な使命として――」
「依頼」
「す、崇高な使命を、下々の者に……」
「依頼」
いかにも金を持っていなさそうな少女に、コリンが笑顔で対応しているのは、イーストンによる身分が高いという言葉を信じているからだ。使命とかいう言葉でやりがい搾取されることは絶対に許さない。
「この国の冒険者は怖いのだ……。我がありがたい言葉を与えているのに、目が笑っておらぬのだ……」
「あと、話しても依頼を受けるか受けないかはこっちが決めるから。ちゃんと報酬を提示してくれないと困るんですよねー」
「……我、こ、これしか持ってない……」
そっと差し出してきたのは先ほどハルカが支払った銅貨。
少女から寂し気に鳴り響く空腹の音。
「あの……、とりあえず食事をしてからにしましょうか。これ、ここに来る途中に買ってきたんです。昼食にと思って」
いつも通り屋台で買い込みをしながら街から出てきたハルカは、少女に食べ物を差し出した。
「良いのか……? 我、銅貨しか持っておらんぞ……?」
追い込まれて卑屈になってしまったらしい。
「お腹を減らしている子を見るのは忍びないので」
「ほ、施しは……」
「じゃあ食うな」
アルベルトが差し出された食事を横からかっさらうと、少女は目を剥いて今日一番の険しい表情で叫んだ。
「泥棒!!」
「うるせぇよ、施しは受けないとか言おうとしたんだろ。じゃあ食うなよめんどくせえ、腹鳴らしてろ」
「施しはありがたくいただきますと言おうとしたのだ!」
「噓です。打算まみれです」
「噓じゃないもん! 打算とかなんだし! 知らないし!」
モンタナのぼそっとした否定に、少女はその場で天に向かって叫んだ。
見た目以下の幼児のようになってしまった。
しかしこれで分かったことが一つだけある。
多分この少女が本当に腹を空かせていて、食事を得るためだけにユーリとハルカに目を付けたのだろうと。
それからもう一つ。
ハルカの仲間たちはハルカをただ利用しようとするものに、案外厳しい。