作品タイトル不明
素直な言葉
「し、しかし基本的には暮らしが保障されているし、扱いは丁重なのだ。我ら巫女はコトホギの一族と呼ばれ、その力を頼りにやってくる平和なる心の持ち主たちに、神龍様の力の一端を与え、崇められる。他の島で暮らし利用され、すり潰されるくらいならば、ご機嫌伺いをしてもらえる巫女でい続ける方が幸せだ」
長いうわまつげが彼女の瞼に影を落とし、憂いを帯びた声が憐れみを誘う。
この年頃の少女を好む男性ならば、ころりと落とされてしまいそうな危うい色気があった。
そんな少女へ、イーストンが白けた顔をして問いかける。
「……随分と達観しているね、君。見た目通りの年齢ではないのかな?」
「なななな、なにを言っておるのだ? 見た目通りの美少女ぞ?」
突然の動揺。
先ほどまでの怪しい雰囲気はどこへやら、視線をさまよわせる少女がそこにいた。
「嘘つくですか?」
モンタナが目を閉じて鼻から息を吐くと、それにアルベルトが続く。
「まともに話す気がねぇならもういいだろ」
アルベルトが立ち上がると、少女が焦ったように両手を広げ、腕を伸ばした。
「ま、待て、見ているだけで何がわかる。我は真面目に話しているし、だ、騙すつもりなどは……」
素早くハルカ達の様子を窺った少女は、言葉を途中で区切ってまた目を伏せた。
今度は単純に気まずさに耐えられなくなったようだ。
「嘘はついてないけれど、どうやって話をちゃんと聞いてもらおうか工夫してるってことじゃないかなー。私はそれ自体が悪いことだとは思わないけど、そんなことしなくても真面目に聞いてくれる相手には失礼だよねー」
そんな中コリンは少女の立ち回りに一定の理解を示す。
「ま、聞いてあげたら? 私達が真面目に聞くかどうかなんて、この人にはわからなかったわけだし。こっからちゃんと話してくれればそれでいいじゃん」
コリンがそう言うならばとアルベルトは腕を組んで止まったし、モンタナも片目だけ開けて続きを待つ。ハルカ達はいつだって、誰かが聞くつもりがあるなら、とりあえず聞いてみるというスタンスだ。
いいことを言った、みたいにすました顔をするコリンと、助け舟に感動する少女。
果たしてうまく感情をコントロールされたのはどちらなのかという話になってくるが、とにかく少女は姿勢を正して話す気になったようだ。
「我は、我の名はコトホギ=エニシ。長らくコトホギを総べ、その在り方を憂う者だった。運命を視る力は、人に道標を授けることができる。時にその在り方を大きく変えることで、潰えるべき定めを書き換えることもできる。巫女の信仰は強まり、いずれは外の世界に出られるほどにもなるだろうと我は確信していた」
「何歳だよお前」
「お主、よくまじめに話してる我にそんなこと聞けるな? これでも神秘的ー、素敵ーって、熱狂的な支持者が多かったんだぞ」
「いいから何歳なんだよ」
「……ん十八歳」
「は? 聞こえねぇよ」
「三十八歳だ、文句あるか!?」
エニシの思い切っての告白に対して、アルベルトの反応は淡白だった。
「ふーん」
「本当です」
わざわざモンタナが保証を付けたことで、エニシはがっくりと肩を落とす。
「いちいち肯定するな……。まったく聞いておいてそれはないだろうに……」
ぶちぶちと文句を言って、エニシはやさぐれた口調で続ける。
「ところが数年前から突然運命が狂った。何をしたわけでもないのに、多くの者の運命が狂ったのだ。いや、違うな。狂ったのではない、変わったのだ。実際に事が起こってから対処を始めたせいで、いつからそうなったのかがわからなかった。当然我は、責任を取らねばならぬ。今まで視たことのあるすべての者を視直すのには時間がかかった。やがてそれが終わらぬうちに、噂に尾ひれがついて、我への信頼は地に落ちた。……コトホギ一族への信頼もな。それまでが順調すぎたせいで、手痛いしっぺ返しを食らった形になる。だから我は神龍島を抜け出した。コトホギの一族が穏やかに暮らすためには、我が邪魔になるからだ。病により倒れ、そのまま命を散らしたことにして、こそりとこの大陸へやってきた。……さすればいずれ、真実を知る日が来ると、我の変化した運命に、そう視えていたからな」
長く言葉を紡いで一息ついたエニシは、目を閉じて思い出しながら話す。
「これは推測だが……、運命が変わったのは今よりおよそ二年から三年の間。それ以前に視た者の運命が、何かに揺り動かされたように変わっていた。理由はわからん。ただ、そこに何かがあったのだと我は見ている」
奇妙な心当たりにハルカはどきりとした。
それくらいならば、ハルカとユーリがこの世界に来た後のことだ。
関係ないとは思いつつも、妙な責任を感じてしまう。
「んで、ハルカに声をかけたのも、その運命ってやつなのか?」
「いや、それはただ、観察してたらそこのダークエルフがちょろそうだったってだけ。まぁ、ある意味? 我の目が良いって話には違いないのだが?」
「ママ」
ユーリがこの話になってから初めて言葉を発する。
「なんです?」
「この人おいて帰ろう」
「…………いや……うーん……」
すぐにはユーリの言葉を否定できないハルカは、はははと得意げに笑うエニシを見て頭を悩ませるのであった。
素直になりすぎるのも問題である。