軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

熱気の工房

モンタナはもともと両親と仲が悪かったわけではない。

両親と顔を合わせて近況の報告をするというのも今回の目的の一つではあったが、それが主たるものではない。

工房が立ち並ぶあたりへやってきたとき、ハルカはわざと少しずれたことを尋ねる。モンタナがもし緊張しているのなら、それをほぐせればいいと思ってのことだった。

「……ご両親とはどんな話を?」

「母さんがずっと喋ってたです」

「あー……」

元気な人だったからそんなこともあるだろうとハルカは納得したが、アルベルトとコリンは、寡黙なモンタナからそんな想像があまりつかない。

「モン君ってお父さんに似てるのかな?」

「父さんよりは喋るです」

「お前より喋らないって、寡黙すぎるだろ」

「いつも怖い顔してるですけど、怒ってるわけじゃないです」

「怖い顔なぁ」

血がつながっていないとわかっていても、アルベルトの中では髭を生やしたモンタナが眉間に皺を寄せている姿が想像されている。まったく怖いとは思えない。

「ここです、マルトー工房。棟がいくつかあるのは、建物によって作ってるものが違うからです。武器、防具、それに日用品を作るとこもあるですよ」

「……もしかして、お前んちって金持ちなのか?」

「知らないです」

店先が広く、冒険者がたむろしている。

どう考えても商売繁盛しているのだが、おそらくモンタナは本当にそのあたりに関して無頓着なのだろう。普段の行動がかなり野性的なので、皆気づいていなかったけれど、コリンに続いて二人目の御曹司の可能性がある。

モンタナはまっすぐ、ひときわ大きな棟へ向かい、開かれている扉の手前で足を留めた。中では声が飛び交い、鉄を打つ音や、あわただしく動き回る足音がしている。

「……開けるですけど、どんな反応があっても気にしないでいいですから」

その意味を考えているうちにモンタナは再び歩き出してしまったので、三人は仕方なく後に続いた。

外から想像がついた通り、工房内ではドワーフや人が混じってあわただしく作業をしている。思わず立ち止まって見学してしまいたい気持ちに駆られたハルカだったが、今はそんな場合ではない。

モンタナの背中に視線を戻そうとすると、走り回っていた少年が、手に持った壺をおいてこちらに向かってくるのが見えた。

モンタナの前へ来る前に少年は口を開く。

「ちょっとすんません! ここ工房ですから勝手に入ってきちゃあだめですよ! ほら、外で待っててください。注文がまだならそっちにご案内しますから!!」

鉄を打つ音に負けないくらいに声を張り上げ立ちふさがった少年は、まるで困ったものを見るかのような目で四人を見た。それと同時に工房内の幾人かが、モンタナの存在に気が付いて手を止める。

水を打ったように静かになったことに気づいた少年が、周囲を見渡し慌てる。

「あ、あの! 俺がこの人たち追い出しますので、先輩方はどうぞ仕事を……」

「いい、ちょっとどいてくれ」

後ろからやってきた男が少年の肩に手を置いて、袖で額に着いた大量の汗をぬぐった。皮膚全体が赤黒いのは、常に火のそばにいるせいで焼けてしまっているからだろう。火に強いドワーフたちはそうでもなかったが、工房にいる人間はみな一様に似たような肌の色をしている。

「モンタナ、三年ぶりだな」

「……約束通り帰ってきたです」

お互いにそのあとの言葉が続かない。

工房内も変わらず静かなままで、気まずそうに目を逸らすものもたくさんいた。

「その、なんだ。冒険者としては、うまくやっているのか」

「やってるです。仲間もできて、一緒に 宿(クラン) も作ったです」

「 宿(クラン) を、作った? 所属したのではなくてか?」

「作ったですよ」

「……そうか、本当にうまくやってるんだな。先に親方たちに顔を出すだろ? 後で話を聞かせてくれ」

宿(クラン) を作ったのと所属したのでは意味が大きく違うことを男は知っていた。武器を作る工房で働く者として、常に冒険者と関わっているものだから、勝手に詳しくなるのだ。

宿(クラン) に所属することは才能を認められたり、申請が通れば誰だってできる。

ただ作るとなると、チーム全員が一級冒険者以上であるか、チーム内に特級冒険者がいる必要がある。

武器職人からすれば、一級冒険者に武器を打った、といえば箔が付くくらいの相手だ。たった三年離れただけでそこまで上り詰めたモンタナの話を聞いて、あれだけの反応で済んだ男は大したものだった。

あるいは、その可能性も想像していたのかもしれない。

「あの、ブランコさん……、この人たちは?」

「親方の息子のモンタナと……その冒険者仲間だ、通してやれ。……作業戻るぞ!」

少年に軽く説明をしてハルカたちに会釈した男は、最後に工房全体に声をかけた。男はそれでも数人の手が止まったままなのを見て顔をしかめると、手をパンと叩いて「鉄が冷めるぞ!」と再び声を張って自らも作業に戻っていった。

邪魔をする者がいなくなったので、モンタナは再び奥へと歩みを進める。

朝一番で両親に会っていたから、てっきり何か話が通されているものだとハルカは思っていたのだが、まったくそんなことはなかったらしい。

工房の先に向かうと、広い食堂のような場所につながっていて、そこから食べ物の良い香りが漂ってくる。

そこでは、椅子に腰を掛けてじっと天井を見ているオーヴァンと、あわただしく大量の料理を作っているディタの姿を見つけることができた。