軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

親子の食卓

モンタナと目が合ったオーヴァンが重々しく頷く。自分からディタに声をかけることはしないらしい。同じようにモンタナも頷いて、口を開けて少しためらってから言葉を発する。

「……ただいま、です」

モンタナの言葉が聞こえたのか、ディタはフライパンを火の上から降ろして振り返り相好を崩した。

「おかえり、モンタナ。お父さんも、気づいたなら教えてください」

ディタにやんわりと注意をされると、オーヴァンは小さく唸るような声を発して頷いた。表情は険しいが、先ほどから一切変化していないし、これも怒っているわけではないのだろう。

「もうお父さんったら、怒ってませんってば。皆さん座って待っててくださいね、これを作り終わったら一度手を休めますから」

「はーい、ありがとうございまーす」

明るく返事をしたのはコリンだ。人の家でも物おじせずにいつも通りいられるのはさすがである。モンタナが椅子を引きながら歩いて奥まで進んでいき、振り返ってハルカたちに言う。

「座るですよ」

こんな時モンタナが積極的に動くことはあまりないのだけれど、どうやら今日は違うらしい。

促されるままに腰を下ろしたハルカたちだったが、だからといってオーヴァンが話し始めるでもない。腕を組んだまま頑なに口を結んでじっとしている。アルベルトはその腕の太さをじっと見てから、自分の腕を見てむむっと難しい顔をしているようなので、退屈はしてないのだろう。

「皆さんモンタナと一緒に冒険者をしてるんでしょう?」

「そうなんですー。いつも助けてもらってます」

「あらあら、モンタナこそお世話になってるんじゃないかしら? この子口数が少ないから、いろいろわからないこともあるでしょう?」

コリンはちらっとハルカとアルベルトを見て笑う。

確かに当初は口数が少なかったけれど、今となってはモンタナがどんな人かなんて大体わかっている。

喜ぶことも、怒ることも、嫌なことも。

実はちゃんと男の子っぽくて、負けず嫌いで、仲間の異変に気づけばすぐに心配して駆けつけてくれる。

「別に、わかんないことねぇ、です」

「あら、そうなの。……仲良くしてくれてるのね」

しみじみと噛み締めるような言い方だった。ハルカたちからはディタの背中しか見えていなかったけれど、なんだかその肩の力が抜けたようにも見えた。

「冒険者になってすぐから、ずっと一緒ですから」

「そうなのねぇ……、いいお友達が見つかって本当に良かったわ……」

ふるっていたフライパンをおいたディタは、前掛けで手を拭きながらオーヴァンの隣までやってきて椅子を引いて座る。

「私がモンタナの母親のディタです、こっちが旦那のオーヴァン。モンタナと仲良くしてくれてありがとうございます」

二十にも差し掛かろうという男性なら普通嫌がりそうなものだけれど、モンタナは目を逸らしているだけで邪魔をしようとはしない。

「コリン=ハンです!」

「アルベルト」

ハルカが丁寧に頭を下げているうちに、残りの二人が返答をする。

「あ、先ほども名乗りましたが改めまして、ハルカ=ヤマギシと申します」

そこから若干の沈黙に、コリンがつんとハルカの肩をつつき耳打ちする。

「今どうしてるとか、説明して」

「え、私がですか?」

「だって 宿主(クランマスター) ハルカでしょ」

「あ、あぁー……」

こういう時にお鉢が回ってきてしまうのかと、やっぱり他の人にお願いしておけばよかったなぁの嘆息である。

「……色々と申し遅れましたが、モンタナは今【 竜の庭(ドラゴニックガーデン) 】という 宿(クラン) に所属しています。私たちで立ち上げた 宿(クラン) です。オランズの郊外にある〈黄昏の森〉を越えた場所に拠点を構えています」

「あら! すごいわねぇ、拠点なんて持ってるのね!」

今一つピンときていないようなディタと、手を動かしてじょりじょりと髭をこすったオーヴァン。おそらくオーヴァンの方は今の状態を察したのだろう。とはいえ、言葉を発するわけではないから、どうやら説明が必要そうだ。

どこまで話していいか悩むハルカがモンタナに視線を送る。

すると目の合ったモンタナがテーブルの上に手をのせて口を開いた。

「一級冒険者になったですよ。だから顔出しにきたです。これからも、皆と冒険者続けるですよ」

「あら、あらあら……」

ディタはようやくモンタナの出世を理解したのか、驚きの声だけを何度も続けて、それから一度視線を落としてから笑顔を作った。

「よく頑張ったのね、モンタナ」

ディタからすれば、これはモンタナの自立宣言だ。丸三年帰ってこなかったとはいえ、まだ冒険者はやっぱりやめて工房に帰ってくるという可能性もあった。モンタナが一人前になったことは嬉しいけれど、複雑な胸中もある。

「……オランズからは、ナギっていう竜に乗せてもらえば三日くらいで来られるですよ。ちゃんと一人前になったですから、これからはもっと顔出すです」

「……竜だなんて、本当にすごいわねぇ」

さらに穏やかに微笑むディタに、モンタナはほっと息を吐いた。

「……よくやっているな」

低く、ハルカたちが初めて聞く声がした。ディタの方ばかり見ていたハルカたちが、一斉にオーヴァンの方を見たが、当人の口はすでにへの字に閉じられている。

「……ありがとです」

少しだけ返事に期待したハルカ達だったが、オーヴァンは再び深く頷くだけで口は閉じられたままだった。

「お父さんったら、嬉しかったのね。そうだ! お食事はまだだったかしら? これから昼食をとりながら色々お話を聞かせてもらえたら、って思ってたんですけど……」

ディタからの誘い、ハルカたちは目配せをすることもなく承知した。

テーブルに料理が並べられていく間に、モンタナには自分で話をするようにこっそりと伝え、すまし顔で準備を待つ。

途中手伝いを申し入れたハルカだったが「いいのいいの」とディタに押し切られて、そわそわしながら待機中だ。友人の母親の手料理をふるまわれる経験がないから、どうにも落ち着かない。

やがて料理が出そろって食事が始まる。

モンタナが少しずつ、ハルカたちと出会ってからのことを話し始めた。

今回の食事だけではすべて話しきることなんかできないペースだったが、ハルカたちはその邪魔をすることはしない。

親子のゆっくりとした食事の時間を、時折話に交じりながら見守っていた。