軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

朝早い人たち

窓からの朝日に気が付きハルカは目を覚ます。

体を起こして窓の外を見て天気を確認。

昨晩の空の様子からおおかた予想はついていたが、どうやら今日もよく晴れている。

続いて逆方向を見ると、モンタナが横向きに丸くなって寝ている。部屋が寒くなかったからか、掛け布団は剥がれており、尻尾を股の間に挟み込んでいるのを確認できた。

ハルカがベッドから足を下ろすと、モンタナも身じろぎしてうっすらと目を開ける。ピピっと耳を動かしてからうつ伏せになったモンタナ。だいたいいつも寝起きはこんなものだ。

立ち上がったハルカは、そのまま部屋の扉まで歩いて行き声をかける。

「朝食を二人分もらってきます」

返事を期待してのものではなかったが、尻尾が一度だけ横に振れたのを見て、ハルカは笑いをこらえながら部屋の外へ出た。横着な返答である。

昨晩と代わり映えのしない朝食を、一人のんびりと半分ほど食べたところで、モンタナが対面の椅子に腰掛けた。

髪も尻尾の毛も少し跳ねているけれど気にした様子はない。

ほぼ目を閉じたままパンをちぎったモンタナは、それをスープに浸して動きを止めた。

ハルカが二口食べる間にようやく一口。ゆっくりのさらに半分だから、ノロノロと、とでも言うような食べ進みだった。

どうせギルドが開いて、昨晩酒を飲んでいる支部長が出てこなければ用事は済ませられない。ハルカは最近新調した手帳を開いて、昨日あったこと書き込んでいく。

日記と備忘録の間みたいなもので、アルベルトとコリンの結婚騒動の頃から書き始めたものだ。つい最近のことである。今のハルカの記憶力はかなりいいのだが、その時感じたことは忘れてしまったりもする。

今までも忘れたくないことや、大事なことはメモをとってきているが、それとは少し趣が違う。

たくさん書き溜めていつか読み返そうというのが、これの目的であった。日々や仲間の変化にハルカなりに思うところがあってのことである。

書くときのルールがないので話題があちこちに飛んでしまうけれど、それはそれと考えてハルカは楽しくこれを書いていた。

自主的にやり始めたことを思えば、これもまた成長なのかもしれない。

時々筆を休めながらきりのいいところまで書いたところで、モンタナも食事を終えたようで、空の木皿を重ねて立ち上がる。

「おいてくるです」

「私も行きます」

「持ってきてもらったから大丈夫です」

さっさと行ってしまったモンタナに、ハルカは浮かしかけた腰を落とした。背もたれに寄りかかって目を閉じると、遠くから小さく何かの音が聞こえてくる。耳を澄ませてみると、その正体になんとなく見当がついた。

おそらく鍛冶師が鉄をたたく音だ。

確かに朝というには少々日が昇っているが、それにしたってずいぶんと早くから仕事をするものである。寝起きの悪いモンタナには大変な仕事だったんじゃないかなんて想像をして、ハルカはふっとほほ笑んだ。

しばらくそうして鉄の音を楽しんでいたハルカだったが、やがてモンタナの帰りが遅いことに気が付いて目を開ける。何かあったかなと思いながらも、モンタナに限ってトラブルから抜け出せないということも考えられない。

知り合いにでも呼び止められてるのだとしたら、邪魔をするのも野暮というものだと思い待つことさらに十数分。

さすがに変だなと立ち上がり、しばし部屋の中をうろついてから外へ出る。

階段を下りてロビーへ行くと、そこですぐにモンタナの姿を見つけることができた。

栗色の髪をした少女に抱きしめられて、諦めたような顔をしているモンタナと目が合ったのだ。

熱烈な抱擁を見て固まっているハルカを、すぐ横にいたドワーフがじろりと睨む。

口をへの字に曲げたその男は、昨日見たドワーフたちよりも全体的に丸いフォルムをしている。ただそれは、腕や足の太さから感じるものであり、決して太っているわけではなさそうだ。

長い顎ひげを編み込んで服の中に仕舞い込んでいるそのドワーフは、モンタナを抱きしめている少女の肩をポンとたたいた。

「どうしたの、お父さん」

少女が振り返ると、ドワーフは顎をしゃくって固まっているハルカを示す。

「あら、どなた?」

「ハルカです。冒険者の仲間です」

「あら、あらあらあらあら。モンタナがお世話になってます」

ぱっと離れた少女が、大きな仕草で頭を下げると、続けて横にいた頑固そうなドワーフも首だけわずかにこくりと動かした。どうやらそれで頭を下げているつもりらしい。

ハルカは急いで階段を下りて、同じ高さの場所まで行ってから頭を下げる。

「こちらこそ、いつもモンタナには世話になってばかりで……」

誰だか知らないけれど、モンタナが黙って抱きしめられているような相手なんだから、まず間違いなく近しい間柄の人物だ。

「モンタナの母のディタです。こっちは旦那のオーヴァン。こんな美人な人と旅をしてるなんて、この子ったら……」

「ハルカ=ヤマギシと申します。ええと、あの、どうしてこちらに……?」

「セパルトさんがね、昨日うちに来て宴会してないのか、っていうのよ。なんでかって聞いたら、モンタナが帰ってきてるっていうじゃない。だからてっきり昨日のうちに戻ってくるとばかり思ってたのに、一晩明けても来ないから探してきたの」

「ご心配をかけてしまってすみません。そのような事情があったなら、昨晩のうちに訪ねるべきでした」

「いいのよ、勝手に来ちゃっただけなんだから」

「用事済ませたら工房行くですから、待っててほしいです」

「そうね。ごめんなさいね、いきなりきたりして」

ようやく喋るタイミングを見つけたモンタナが言うと、ディタも頷いて了承する。

そうしてモンタナといくつかやり取りをして、モンタナの両親はすたすたと宿から去っていった。

表情のよく変わる、かわいらしい少女のような母親といい、結局一言も発しなかった父親といい、なかなか変わった両親だ。

圧倒されたハルカが去っていくのを見送っていると、モンタナが隣へやってきて言う。

「とりあえずギルド行くですよ」

「……そうですね、そうしましょうか」

平然としているところを見るとわかるのだが、どうやらモンタナにとってあの両親の態度はいつもの通りのようだった。