軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

のんびりと過ごす夜

出禁とされているオクタイがマルトー工房に近づくと、ハンマーやら失敗作の武器やらが飛んでくるらしい。避けることはたやすいけれど、無理を通して直してもらうことはできないと困り果てていた、というようなことを勝手にオクタイが話した。

とりあえず用事が済んだら声をかけることだけ約束して、二人はオクタイと別れる。あちらはあちらで冒険者ギルドに用があってきたようで、そのまま中へと姿を消した。

適当に宿へ入り部屋を取り、そのまま夕食を宿で出してもらう。何か特別な食事ではなく、普通のパンとスープを食べて、ぽつりぽつりと二人は会話をする。気まずいとかではなく、ただいつもと同じペースでしゃべっているだけだ。

「モンタナのご両親はどんな方なんですか?」

スープに浸した硬いパンを口に入れ、咀嚼し飲み込んでからモンタナが応える。

「二人とも優しいです。父さんは寡黙で、いつもこんな顔してるです」

モンタナは指で眉をぐっと内側に押して、眉間に皺を寄せる。そうしてもモンタナの顔は怖くなかったけれど、ドワーフがそんな顔をしているとちょっと威圧感がありそうだとハルカは思う。

職人らしく気難しい姿を想像して若干の不安を覚えるのは、ハルカの元来の性格のせいだろう。

「母さんは……、よく笑ったり泣いたりするです。二人合わせると表に出る感情が丁度二人分くらいです」

「いいですね、なんだか」

「です」

それを聞いただけでもバランスのいい二人なのだろうという想像がつく。モンタナの性格のことを考えても、きっといい両親なのだろうとハルカは納得していた。

それはそれとして職人気質な人とどう接していいかは考えものであったが。

食事を終えて部屋へ戻ると、ハルカもモンタナも荷物を置いてベッドへ寝転がる。

疲れていなくても人が用意してくれた寝床というのは気持ちのいいもので、目を閉じるとうっかり眠ってしまいそうになる。

「……ハルカは、元の世界に帰りたいと思ったことないです?」

「あまりないですね」

唐突な質問だった。

それでも答えに悩む時間はほとんどなかった。

これまでも散々考えてきたことだ。

ハルカには故郷への未練がない。故郷で大切にしてきたものがない。自分を無二の存在と思ってくれる人もいない。少なくともハルカはそう思っている。

「そですか。家族とかいなかったです?」

「一人っ子で、両親はずいぶん前に他界しました。頻繁に連絡を取るような相手もいなかったですし……、そうですね、あちらで発行されている本の続きが気になるくらいでしょうか」

「……寂しかったですか?」

身じろぎした音がして、声の向きが変わったことにハルカは気が付いた。

モンタナが今ベッドに座って自分の方を見ていることはわかっていたけれど、なんとなく顔を上げずに返答する。

「それが、あまり寂しくなかったんですよ。寂しくなかったことが、今となっては悲しいです。どれだけたくさんの出会いや関係をふいにしてきたのだろうと考えることがあります。どれだけたくさんの人の気持ちを無視してきたのだろうとも思います」

この世界に来てハルカはたくさんのものを得た。地位であったり名誉であったりはもちろんだが、それ以上に人との関係が圧倒的に多くなった。

たったの三年の間で、今までとは比べ物にならないほどの人とかかわってきた。

だからこそ、今までいかにたくさんの人から目を逸らしてきたかに気づいていた。

「苦手な人もいます、腹の立つこともあります。でもそれはきっと、ちゃんと向き合わないと気づけないことでした。なんとなく同じ空間にいるだけ、ではなく、相手を知ろうとした結果です」

好きとか嫌いとか、敵とか味方とか、感情をどちらにも振らないで生きることは楽だった。今は毎日心が揺れて大変だと思うこともあるけれど、その分喜びも大きい。

今の方が、前よりずっと生きているという実感があった。

しばらくモンタナの返事がなくて不安になったハルカは、首を横に向けてみる。

モンタナはベッドに座って足をプラプラしながらほほ笑んでいた。

「なんか変でしたか?」

「変じゃないです、ハルカらしくていいです」

「……情けないことしか言っていないような気もしますが」

再びハルカがうつ伏せになったのを見て、モンタナもまたベッドに寝転がった。

モンタナからしてみればハルカのように他人のことを主軸において考える人の方が貴重だ。

この世界に住むものの多くは、自分のことを最優先に生きている。そしてそれが当たり前だし、恥じるべきことでもない。

モンタナだってそれが普通だと思っている。

一方でハルカは、他人に対しても家族や大切な相手に向けるのと同じくらいに、どうするべきかよくよく考え悩んでいる。それがモンタナには見えるし分かるのだ。

だからこそ一緒にいると心地いいし、行き詰まっている時にはつい助け舟を出してしまう。

ハルカが人に無関心であった時期など想像もつかないけれど、本人が言うからにはそういう傾向はあったのだろうとモンタナは思う。それでも、きっとその言葉は自省からくるものであって、本当に全てそうだったとは考えていなかった。

モンタナはちらりとうつ伏せになっているハルカを見る。

また何か考え込んでいるけれど、深刻に悩んでいるという雰囲気でもない。

大方自分の言ったことが恥ずかしくなったか何かだろうという推測をして、モンタナはまた少しだけ笑って目を閉じた。

ちなみにモンタナの推測はずばりその通りで、ハルカは考えるままにぺらぺらと余計なことを喋ってしまったことを恥じていただけで、大した悩みなんか一つも抱えていなかったようである。