作品タイトル不明
こんな奴もいる
「はぁ、成程、大型飛竜ですか。私は構わないんですけどね、一応ここは伯爵が治めている土地なので、そっちに話をもっていきましょう。あの人も馬鹿じゃあありませんから、特級冒険者に頼まれて嫌だともいわんでしょうし」
「ありがとうございます。直接お話しした方がいいでしょうか?」
「いやいや、こっちで話しときますよ。どうせ今晩も飲む約束がありますし」
パッソアはぐいっとコップを傾けるようなしぐさをして笑う。どうやら上層部同士仲良くやっているようである。
「明日の朝にはお返事できますよ。もしよければ今日の酒の席にもどうです?」
「いえ、あまり酒に強くないものですから。お邪魔になっては申し訳ないので」
「それは残念。この街に赴任してくるようなものは大体酒好きが多いんですよ。かくいう私も、伯爵様もその口でして」
「そ、そうですか……」
ハルカは酒の席が嫌いなわけではなかったが、人となりも知れない相手と飲むことを楽しいとは思えない。立場としても冒険者としても、酔っぱらって醜態など晒さないほうがいい。
酒を飲むのは身内か信用できる相手とだけで十分だと考えていた。
「いやしかし、明日また訪ねてきてくださればお返事をできるようにしておきます。一晩お待たせするのは申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、突然の申し出を快く了承していただきありがとうございます。また明日の朝に顔を出すことにします」
さっと話が付いたおかげでまだ宿をとる時間はある。
パッソア支部長の部屋を後にして、ついでとばかりに冒険者ギルドの依頼ボードを眺めに行く。
上級冒険者向けの依頼は元からあまり貼り出されていないのだが、それにしたって討伐の依頼などがあまりない。街の冒険者が少ないわりに、人手が足りないわけではないのだろう。
受付で横柄な態度をとっている、熟練の冒険者らしき一行をちらりと横目で見てから、二人はその場から立ち去る。ああいった輩をじろじろ見ていると必ずと言っていいほど絡まれることを、ハルカは経験上分かっていた。
目立つ外見特徴をしている二人としては、さっさと退散するのが吉である。
「お、おいおい、ちょっと待てよ」
そうして逃げ出したというのに、ギルドから出た途端に後ろから声をかけられて立ち止まる。モンタナはそのまますたすたと歩いていこうとしたのだけれど、ハルカが立ち止まってしまったので、仕方なく足を留める。
「相変わらずつれねぇな、てめぇは。アルベルトとあの財布番の嬢ちゃんはいねぇのか?」
「あぁ……、オクタイさん、お久しぶりです。二人は今街の外ですね」
武闘祭の時に出会った冒険者だ。
出会い頭にアルベルトと喧嘩をするような、典型的な乱暴者でもある。ただ、殴り合ったおかげか、アルベルトとだけはそれなりに仲が良かった。
ちなみにモンタナとも因縁があって、マルトー工房を出禁になっているはずである。
片手にはひもでぶら下げた曲刀。どうにも刃こぼれがひどく、少し曲がっている。
なかなかの業ものであるはずなのに、相変わらず武器の扱いがぞんざいなのだろう。その辺はアルベルトとは違うところだ。
モンタナはそれを見て眉をひそめる。
「……武器、また悪くしたですか」
「そうなんだよ! だからよう、マルトー工房で直してもらいてぇんだが……、口利きしてもらえねぇか?」
「嫌です」
「謝っただろうがよ! まーだ根に持ってんのかお前!」
モンタナはふいっと顔を逸らす。
「怒ってないです。でも父さんが怒ってるなら話は別です」
「いや、だから! それをとりなしてくれって言ってんだよ!」
相変わらず自分の都合で話を進めようとする男である。
モンタナからしたら怒ってないにしても手を貸してやる理由もないのだ。
それに今は自分の方が大事な用事を抱えているのだから、そんな余計な用事に気を回している余裕はない。
「あの……」
「あ? なんだよ、ハルカもなんとか言ってやってくれ!」
「今はモンタナも大事な用があります。そちらの都合ばかりを押し付けるのはやめていただけませんか?」
「お、おう……?」
実力の割に押しの弱い性格を覚えていたからこその協力要請だったのだが、思っていたのと違う返答が戻ってきてオクタイはたじろぐ。
実力は十分に理解しているからこそ、警告されるとそれ以上強く前に出ることが難しい。張り手一発で体全てをもっていかれそうになった恐怖を忘れてしまったわけではなかった。
「ああ……いや、そうだ思い出したぜ。あれだろ、最近噂になってる特級冒険者になったのってハルカだろ。とんでもねぇ奴だと思ってたが、あっという間だったな」
「噂ですか?」
「おう。ダークエルフの魔女が特級冒険者になったって公国でも知られてるぜ。流れてくる噂が適当なもんばっかりだから、違う奴かと思うくらいだったがな。男を手玉に取ってるとか、王国の貴族ぶっ殺したとか」
変にねじ曲がっているが、一部否定できない部分があるせいでハルカは変な顔をした。噂というのは制御できない分面倒なものである。
「にしても用事か。そんじゃその用事終わった後でいい。な、ちび! それならいいだろ?」
人にものを頼む態度ではない。
気安い言葉にモンタナも白けた顔でオクタイを見上げる。
「……なんか嫌です」
「なんかってなんだおい! はっきりしろ!」
「なんかはなんかです。宿行くからさよならですよ。ハルカもこんな人放っといていいです」
「あ、はい」
「はいじゃねぇって、マジで困ってんだって!」
ついてくるオクタイにモンタナは面倒そうに告げる。
「……コリンが合流したらコリンに頼むですよ」
「……はぁ、あの嬢ちゃんとかよ」
勢いで冒険者への依頼ということを誤魔化そうとしていたのだろう。
お金の話をしている時のいきいきとしたコリンの表情を思い出し、オクタイは大きくため息をついた。