軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

間借りのタゴス

体の大きなタゴスは少しだけ体を丸めて、コリンの前で沙汰を待っている。

コリンは話を聞いた当初、なんか畑仕事でも適当にやらせとけばいいんじゃない?と思っていたけれど、実際見て見ればなかなかに強そうだ。それだけさせておくにはもったいないような気もする。

「なんでもするのよね?」

「約束だからな」

「期限とか条件は?」

「なんでもすると言った。俺様は約束を違えねぇ」

「ふーん」

コリンはやや呆れ顔で思案する。

真っ正直な男だが、コリンからするとちょっと間抜けとしか言いようがない。

ただ一点同情の余地があるとすれば、コリンの大好きな仲間であるハルカもまた、程度の差はあれど似たようなことをしそうだという点である。

もちろん、強い人のところにカチコミに行くということではなく、条件も付けずに適当に人と約束をして損をしそうだという意味だが。

「じゃ、〈黄昏の森〉の出口に小屋でも作ってさ、そこに住んでここで門番でもしててよ。どーせタゴスさんみたいな人これからもいっぱい来るんでしょ。強くなりたいならいい訓練になるんじゃない? あ、でもちゃんとした身分の人っぽかったら、こっちまで通してね」

「……そんなことでいいのか?」

数日放置されている間のタゴスは、どんな無茶な要求をされるのかと覚悟を決めていたから、思ったよりもぬるい裁定に拍子抜けした。

もっと悪辣そうな人間だったら、コリンも無茶な要求をしたかもしれないが、待てと言われて黙って三日も静かにしているような男にはこれくらいで丁度良い。コリンたちだって遠出することが結構あるから、腕の立つ門番が増えることは実は歓迎なのだ。

前回の遠征では長期間ヴィーチェたちを雇ったので、結構な額を動かすことになった。しばらくタゴスの人となりを観察して、悪い人物でないと判断できれば、その分丸々懐にしまっておける。

長期的に見ればお得である。

ついでによさそうな挑戦者がもっとたくさん来てくれてもいいくらいだと、内心コリンは楽しみにしていた。

「木とか適当に切って、小屋建てていいから。お金払うなら小屋建ててくれる人も街から探してくるけど?」

「長いこと山にこもってきたんだ、問題ねぇ」

「あそ。じゃ、食事とかは?」

「森の中の獣とっていいんだろ? なら構わねぇよ」

「ふーん、じゃ、必要なものがあれば街で調達してあげるから、こっちに来て言って。あと持ち場から出かけるときとかも許可出てからね」

「出かけていいのか!?」

放置されていた間色々と考えてしまっていたタゴスは、なんでもと言った以上、もう一生奴隷扱いまで覚悟をしてしまったせいで、寛容な提案に驚く。

「別に、いいんじゃない……? お給金とかも必要だったらだすけど……、あ、沢山は出さないから」

「いや、金はある。あんま使う機会がねぇから」

腐っても一級冒険者だ。

しかも山にこもって修行するような変人だから、普通にお金を消費する機会がほとんどない。

実は金持ちらしいタゴスに、コリンの目が一瞬怪しく光ったが、損得を考えた結果そこに切り込むのはやめた。

「んじゃ必要だったら相談くらいしてくれれば渡すから。一応適当にお給金計上しとく。勝手にいなくなったら渡せないから、どうしてもやめたくなったら言いなさいよね」

「やめていいのか!?」

「いや、だからやめる前に相談してねって話」

コリンはよくわかっている。ハルカやレジーナに敗れたとはいえ、一級冒険者を安く常態的に雇える機会なんてまずない。いい感じに放置期間が効いているようだから、ここではっきり条件を決めて逃げられないようにしておくつもりだった。

最初からないお金だったら逃げるのにあと腐れないが、実は自分のものになっているお金を捨てていくのには、人間結構未練が残る。

お給金を貯めこんでおくと伝えるのも、急に姿をくらまされないために刺す釘の一つだ。

素直な人間は扱いやすいと、外面は厳しく腹の中でニコニコ笑顔だ。

ただ一級冒険者なんて大概変人なので、どこまで効果があるかは微妙なところだとはコリンも分かってはいながらの交渉だったが。

「わかった、そんじゃあ俺は場所定めてそっちで暮らすことにするぜ」

離れていこうとするタゴスの背中にコリンは声をかける。

「待ちなさいよ。折角こっちにいるんだから、今日くらいみんなと顔合わせて食事一緒に食べていったら? それとももう挨拶くらい済ませたの?」

「挨拶だぁ?」

冒険者を始めた当時の仲間と別れてから早十年。

それからずっとたった一人で生きてきたタゴスには、どうしたらよいかわからない提案だった。

大男が戸惑ってるのを見て、黙って待っていたアルベルトが口を開く。

「話し終わったか? 俺、アルベルト=カレッジな。おっさんと同じ一級冒険者、よろしく」

「お、おう」

「モンタナです、よろしくです」

「あ、私エリね。ここの住人じゃないけど」

「拙者カオル=カジと申す。エリ殿と同じくでござる」

「イーストン。イースでいいから、それじゃまたあとで」

「サラです! よろしくお願いします」

アルベルトに続いて、次々と名乗りだけして気安い雰囲気で去っていくのに、タゴスは目を白黒させながら曖昧に返事をする。

「あたしは最初に名乗ったけど、コリンね。荷物置いたりしてくるから、適当に寛いでて」

「わ、わかった」

コリンが去っていくと、最後に残されたのは、ナギとユーリ、それからハルカだ。

ちなみにユーリはハルカが帰ってくるとすぐに走ってきて、それからずっと隣でおとなしくしていた。

「えーっと……。ハルカ=ヤマギシです、よろしくお願いします。この子がユーリで、この子はナギです」

「ユーリです、よろしくお願いします」

ユーリが頭を下げたのに続いて、ナギがぐるると低い唸り声をあげて挨拶する。タゴスは思わず身構えたが、ハルカが目を細めてナギを眺めているのを見て、その場から動き出すのは控えた。

「ナギもよろしくと言っているようです。優しい良い子なので、仲良くしてあげてください。【魔狩り】というくらいですから、魔物を狩るのは得意なんですよね? 一緒に狩りにいってあげたりしたら喜ぶと思います」

「あ、お、おう……。……お前ら、変な奴らだな」

「そうですか? でもみんな良い子たちですよ。仲良くしてください」

乗り込んで勝負を仕掛けてきたタゴスに言われてもなぁとハルカは思ったが、その言葉は飲み込んだ。

ハルカは軽く微笑んでもう一度軽く頭を下げると、ユーリの手を取ってみんなの後を追うことにした。