軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お出かけの予定

ハルカたちは買い物を終えるとそのまま拠点へ戻ることにした。

拠点の増築をするための職人は確保できていないけれど、結婚の話があちこちに伝わってしまっているせいで、いちいち呼び止められてしまって話が進まないのだとか。

「ほとぼりが冷めてからでいいや」

まったくもーとか、困っちゃうとか言いながらも、コリンがなんとなく嬉しそうにしてるのが、ハルカも嬉しい。浮かれているのか、皆にそれを悟られていることも気づいていないようだ。

この様子だとおだてられて交渉もうまくいかないかもしれないから、判断としては正しいのかもしれない。

大あくびをしているナギを、壁の上から数人の新人らしき冒険者が見ていたが、ハルカたちが来ると慌てて頭をひっこめた。街の警備をしている冒険者が笑って何かを言うと、そっと壁から顔をのぞかせる。

「人気者ね」

「ナギもかっこよく育ちましたから」

「ナギもそうだけど、あなたたちも」

「そうなんですか?」

ハルカがちらりと壁の上を見ると、まだ少年少女と言えるくらいの冒険者たちが歓声を上げた。

特級冒険者なんてめったに出会えるものじゃない。まして街に所属しているとなれば、新人たちからすればヒーローみたいなものだ。

ちなみに一番誇らしげにしているのは後ろにくっついているサラだ。

気恥ずかしさに目を泳がせたハルカは、そこからは視線を上げることなくナギの背中に乗り込んで〈オランズ〉の街を後にした。ここで手を振ってアピールできるような性格だったら、きっともう少し充実した人生を送ってきている。

「そういえばモンタナは良かったんですか?」

鍛冶場を作れる人を探すと言っていたけれど、こちらも結婚騒動でバタバタしていたからきっと収穫はないはずだ。

「鍛冶場作れる人は……、少しのんびりしてから〈グリヴォイ〉の街で探そうと思うです」

「グリヴォイというのは……?」

「マルトー工房がある街です」

「そうですか。私の用事も終わってますし、一緒に行っても?」

「暇な人連れてくですよ。家族に紹介したいです」

「じゃ、皆で旅行ですね」

今の季節は春。

ハルカがこの世界に来たのが五月だから、あと二月弱で丸々三年になる。つまり、モンタナが冒険者を志して家を飛び出してからも、もう三年近くたつということだ。

その間モンタナが手紙を書くこともなかったから、両親は間違いなく心配しているだろう。

自分たちのチームを主体とした 宿(クラン) を持ち、自身の階級も一級になっている。世界のあちこちを旅してきたモンタナは、もはや誰に出会っても恥じることのない立派な冒険者であると言えるだろう。

初期のチームメンバーである三人と比べても、一人でも一番立派にやっていけそうなのがモンタナである。

アルベルトやコリンは目的地に無事たどり着くかがまず心配だし、ハルカの場合は周りに振り回されてトラブルを起こし続ける予感がする。

背丈こそ変わっていないが、その実力も当時とは比べ物にならないほどに成長していた。

皆が成長している。

アルベルトとコリンは結婚して、モンタナは過去と向き合おうとしている。

それに対して自分はどう変わったのかと、ハルカは少し考えてしまった。

戦えるようになった。

とっさの判断もできるようになってきた。

前よりも決断はできるようになっている。

でも本質的な部分はあまり変わっていないように思えた。

むしろ、前よりも子供っぽくなっているような気がして、あまり成長は感じていない。

それから、ハルカの意識していない部分の不安が、妙な質問をさせる。

「……工房の方々とお話しできても、モンタナは冒険者を続けますよね?」

「続けるです。あちこち行くの楽しいですから」

何気ない質問に、モンタナは間をおかずに返事をする。

ハルカの中では結婚というのが人と人の関係を変えるイメージがある。当時勤めていた会社では寿退社というものもあったし、結婚をしてから外で遊ばなくなった同僚もいた。

アルベルトやコリンがそうなるとは思えないが、次々と起こる変化に、なんと無しの不安を覚えたのだろう。

モンタナは横目でハルカの顔を一瞬だけ窺い、すぐにそれを察した。

感情がなんとなく見えるのもあるが、ハルカの癖もなんとなくわかっている。しきりに耳元のカフスをいじっているのを見て、モンタナはハルカの手を取って自分の頭にのせた。

やたらと尻尾や耳を気にしているから、モンタナはハルカに何かあったとき気を紛らわせるためにこうして触らせている。

子供や酔っ払いとは違って、いつだって優しくしか触ってこないので、モンタナもハルカに撫でられることは嫌いじゃなかった。

「冒険者続けるですよ。アルも僕も、まだまだ強くなるです。約束したですよ」

「……十分強いですけど」

「まだです。……大竜峰の時、悔しかったですから」

「……そうですか。じゃあ一緒に頑張らないといけませんね」

声の柔らかさから、ハルカがゆるりと笑った気配を感じて、モンタナもわずかに微笑み答えた。

「ハルカは、もうちょっとのんびりでもいいです。追いつくの大変ですから」

「えぇ……」

モンタナは思う。

ハルカは少し気の抜けたくらいの声を出しているくらいで丁度いいと。