軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

パパ嫌い

「いや、お久しぶりですね皆さん。わざわざ娘たちのためにご足労いただいたとか。準備がきちんとできてからご案内するつもりだったのですが……余計な心配をおかけしてしまったようですね」

「いえ、話を聞いて勝手に出てきただけですから。突然お邪魔してしまいかえって申し訳ないことをしました」

「二人ともその挨拶また長くなるんでしょ……、やめてよね」

二人の挨拶を早々に止めたのはコリンだ。

以前の顔合わせの時も散々同じようなことをしているので先は読めていた。

「では、挨拶はこれくらいで。なんでもドレッドにも用事があるとか? 声をかけておいたのでもうくると思いますが。話を進めておきましょう。コリン、用事はなんだい?」

「……なんで急に結婚の話してきたのか、ちゃんと聞いてなかったから」

「おや、イーミンは話さなかったのかい? ああ、イーミンはうちの長男です」

「なんか私に縁談がいっぱい来てめんどくさいって。だから結婚しろって言ってたけど」

「成程、それで?」

「え、だから、勝手にそういう話進められるのは嫌っていうか……」

「アル君と結婚するのは嫌じゃないんだろう?」

「……それは、そうなんだけど!」

「アル君もコリンと結婚するのは嫌じゃないんだろう?」

「嫌じゃない」

「じゃあ何を渋っているんだい?」

しばしの沈黙。

モンタナがちらりと背中にある扉を見た。それからイーストンが、そして二人の動きを見たハルカとサラが振り返り、最後にアルベルトが扉の方を首だけで振り返った。

コリンだけは父親と話すことに意識を割きすぎているせいか、異変に気付かない。

穏やかな表情でコリンの言葉を待つショウは、ハルカたちの動きに気づいているはずだが、少しもそれを顔に出さなかった。

「渋ってるっていうか……、普通に自分たちの好きな時に結婚するから、ほっといてほしいだけだし……」

「ん? なんだって?」

「だから! 好きな時に結婚するからほっといて」

「つまり、アルベルト君がコリンを娶ると約束してくれたってことでいいのかな?」

「俺はコリンが別のやつ好きにならなきゃ、最初からそのつもりだけど」

アルベルトが答えると、ショウは顎を親指でさすって問い返す。

「……あれ? そうだったのかい?」

「は? なんだよその反応」

「ほら、冒険者って言うと女性関係が結構乱れている人も多いだろう。アル君も立派な冒険者になったからね。どうかなと思ったんだよ」

「……それ、俺のこと信用してなかったってことかよ」

「いや、うん……、ドレッドも昔は女性関係がちょっとね、うん。僕のせいじゃなくて、文句ならドレッドに言ってほしいな」

「おやじが?」

「うん」

「ドレッドさんって……奥さんに一途じゃなかったの?」

「うん」

ショウの最後の肯定と同時に、扉が勢いよく開けられて、アルベルトの父親であるドレッドが部屋へ入ってくる。

「おいショウ! 勝手にあることないこと話すんじゃねぇよ!」

「いや、私はコリンとアル君から嫌われたくないからね、これは損切だよ。君と違ってアル君は純粋にうちの子を大事にしてくれてるみたいだ。余計な気遣いだったようだね。ほら、イーミンもルオシも入っておいで」

ショウが促すと扉の前に待機していた男女が二人、そろーっと部屋へ入ってきて、そのままショウの両隣に並んだ。

「……お兄ちゃんもお姉ちゃんも、勝手に話聞いてたの?」

「いや、俺はだな、丁度父に用があって……」

「お姉ちゃんはね、コリンちゃんの手助けをしてあげたかっただけなの。怒らないで、ね?」

二人とも立派な衣服を身にまとった美男美女であるのに、おろおろとコリンの機嫌を取っているのが面白くて、ハルカはこっそりと笑いをこらえる。つり目で、ちょっと強気な顔立ちをしており、コリンとの血のつながりが感じられる。

イーミンと呼ばれた青年は、コリンのじとっとした目から逃げるように、アルベルトの肩に手を置いた。

「でも流石はアルだな、体つきだけじゃなくて心も立派になっている」

「……イーミン兄ちゃん、俺のこと信用してなかったんだろ」

「……いや? 父上が念のためというから協力しただけだ。僕は最初から二人に全部任せておけばいいと思っていたよ」

「アル君、私もそう思っていたわ。でも父様が……」

「イーミン、ルオシ、全部私のせいにするのは違うよね? そもそもはドレッドの素行が悪いのが良くないと思うんだけどな」

家族間での罪の押し付け合いが始まったところで、最後にお鉢が回ってきてしまったのはドレッドのところだった。

「全部俺のせいかよ……。そもそも俺はあいつと付き合い始めてからは浮気したことねぇぞ」

「でもさぁ! それまでは遊んでたよねぇ?」

「いいじゃねぇか、付き合ってたわけじゃねぇんだから」

「次会ったとき、二人をくっつけるって話をしたとき君も同意してくれたよね?」

「好きにしろよって言っただけで同意はしてねぇだろ」

「あー、言い逃れだねそれは。発端は君であることを……」

「……パパ」

「はい……」

ショウの耳はコリンの小さな声を拾った。そして諦めて返事だけすると口を閉じて背筋を伸ばした。

「勝手なことしないで。心配してくれたのはわかったけど、迷惑」

「あ、うん。ごめん、パパが悪かったよ。許してほしい、もうしない」

冒険者の娘に頭を下げる大商人の父親。

めったに見られない光景だろう。

娘の将来を案じて手を打ったのだろうけれど、身内の話ということもあって、自然と甘い計画になってしまったのかもしれない。

いつまでも許しの言葉が出てこない空間に、最初に耐えられなくなったのはハルカだった。

「まぁ、その、部外者が口をはさむのもなんですが……、今回のことでお互いの気持ちもはっきりわかりましたし、良かった部分もあるんじゃないでしょうか、ね、コリン?」

「……まぁね。でももうちょっと私のことも信じてほしいかな。私だっていつまでも子供じゃないんだから」

「ああ、本当に悪かったよ。コリンとアル君が立派な冒険者になっているのはよく理解してたつもりだったんだ。でも、つもりだったんだろうね……。私の中では二人は昔と変わらず可愛い末っ子たちだったんだよ……」

「アルは俺の息子だけどな」

「一緒に育ったんだから似たようなもんでしょ、まぜっかえさないでよ」

気安い仲の二人が軽口をたたき、空気が弛緩する。

そこでようやくコリンの表情が緩んだ。

「まー、今回は許す!」

「良かった良かった。……これで全部許してもらえたね。二人の婚姻届けはもう役所に出しちゃってるから、それも許してね」

「は?」

アルベルトは反応できたが、コリンは声すら出なかった。

「二人も結婚は大丈夫な流れだったからさ。……実際のところ、こうでもしないと二人の仲はしばらく進展しないと思っていたんだ。とはいえコリンもアル君もお互いに好き合ってただろう? 嫌な思いをさせてしまったかもしれないけれど、結果的にやったことは間違いじゃなかったってことだ。あー、よかったよかった」

「……父上……? コリン、アル君、僕はその話は知らないからな、これは本当だ」

「わ、私もそれは知らないわ……」

コリンの兄と姉が父親の言葉にドン引きして表情をひきつらせている間、ドレッドだけは怖い顔をして腕を組んでいる。

「ああ、ちなみにこの街だと婚姻届けは、両方の親が許可してれば勝手に出せるんだよね。だからドレッドも知ってるよ」

「いちいち俺まで巻き込むんじゃねぇよ」

文句を言っても否定はしない。

ろくでもない父親コンビだった。

コリンはショウを睨むついでにドレッドのことまで睨むと、そのまま振り返ってハルカの手を掴んで部屋から出ていく。いくらでも抵抗はできるのだが、ハルカはされるがままにコリンについて歩いた。

部屋から出ていくときに、コリンはもう一度振り返ってショウに向けて言葉を投げた。

「パパ、さいってー!」

二人の後にサラとモンタナが続き、イーストンとアルベルトも顔を見合わせてからため息をついて部屋から出ていく。そんなアルの背中に、ドレッドが一言投げかけた。

「おい、ちゃんと守ってやれよ」

「言われなくても分かってる」

アルベルトの声色は怒っていない。

同性の親子だから通じるものがあるのか、二人とも苦笑いだ。

コリンの仲間たちが全員部屋から消えてから、ショウは椅子に腰を掛けて肩をすくめた。

「ま、そのうち許してくれるでしょ。まだパパって呼んでくれてたし」

「父上はともかく、ドレッドさんまでなぜ……?」

イーミンが尋ねると、ドレッドは頭をがりがりとかいて答える。

「……好き合ってんなら結婚なんてさっさとした方がいいんだよ。その方が夫婦として長く一緒にいられんだからな」

言葉を継いでショウが口を開く。

「私たちはそう思ったからやった。本当に嫌なら今からでも撤回でもなんでも勝手にやるさ。なんたってコリンたちは一流の冒険者なんだからね」

多分これは、子供たちには理解できない、勝手な親の勝手なエゴなのであった。