軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

しばらく怒っとこう

コリンは黙って手を引かれたまま歩くハルカを連れて家の敷地を出て、そのまま街の大通りまで早足で歩き続けた。

勝手に結婚をすまされていたことに腹を立てて出てきたけれど、結局自分が何にそんなに腹を立てているのかがわからないせいで、まくし立てて気持ちを発散させることもできないでいた。

歩いているうちに冷静になってくると、ますます何をどう怒っているのかがわからない。

兄や姉がやりたかったこと、父がどうしてこんなことをしたか、それを理解できてしまうだけの頭があるせいで、部屋を飛び出したところが怒りのピークで、それ以降はどうも沸騰しきらないのだ。

人が増えてきたところで歩く速度を緩めると、コリンは握った手をプラプラと振りながら呟く。

「はぁ、何やってんだろ私」

「何って……怒っていたんじゃないんですか?」

「うん、そうなんだけどさー……。なんか最後まで話聞かないで飛び出すなんて子供みたいじゃん」

ハルカは耳のカフスを指先でいじりながら少し考える。

子供みたい、というか、親の前にいるのだから子供でいいのではないかと思っていた。

コリンたちは今十八歳。ハルカの感覚から言わせてもらえば、まだまだわがままを言ってもいいし、ぐれたっていいくらいの年頃だ。これだけ素早く自制をする必要があるとも思えない。

十五で成人する厳しい世界だからこその精神的な成長の早さはあるとしても、時には感情のままに怒ったり泣いたりすることくらい許される気がする。

それをどう伝えるか考えているうちに、コリンがさらに続けた。

「ハルカだってそう思うでしょ、結婚ぐらいのことでって」

「コリンさん、それは違います! 結婚って大事です! 私もいつか素敵な方を見つけて結婚したいと思っています。それを父や母に勝手に相手を決められて、結婚の届けまで出されてしまったら、もう、大喧嘩しちゃいます! ひどいです!」

興奮した様子で後ろから言葉をまくしたてたのはサラだった。

どうもサラは恋愛や結婚にかなり理想を持っているようだ。果たして【竜の庭】の拠点で暮らしていてそんな素敵な相手が見つかるのかはともかくとして、女の子らしい意見だ。

【神聖国レジオン】は世界基準として相当安全で安定した国であるから、恋愛結婚というのがより当たり前の世界なのだ。

政略結婚や交渉の延長のような結婚が多い他国とは事情が違う。

甘いと言われればただただ甘い意見ではあった。

「そうだよねー、私もさー、そう思うんだけど、パパのやりたいことがわからないわけでもないしー……」

サラの子供っぽい姿を見て余計に今の自分の行動を自覚してしまったのか、コリンはむしろショウたちをかばうような考えになってしまっている。

ハルカとしては大事な仲間であり友人のコリンに、自分を抑えつけて我慢をしてほしいわけではない。

だから仕方なく考えがまとまらないまでも口を開いた。

「コリン、私も別に結婚ぐらいのこと、なんて思ってません」

「……ハルカって恋愛に興味なさそうだから、そんな感じかなーって思ってたけど、違うの?」

「……一応訂正しておきますが、今はともかくとして、私は恋愛に興味がなかったのではなく、どう恋愛をしていいかわからなかっただけです」

「え、そうなの?」

「私のことは今は置いといてください……」

ちょっとワクワクした顔になってしまったコリンを見て、ハルカは無理やり話を戻す。

「とにかく、結婚ぐらいのこと、なんて言わないでください。コリンの今の怒りは正当なものです。そりゃあ大切な家族が相手ですから、生涯許せないなんてことは言わないでほしいですが……、今無理やり怒りを鎮める必要はないと思います」

「……そうかなー。私が言うのもなんだけどさ、うちって結構商人として力あるよ? 冒険者としてよくないかなーとか」

「コリンは冒険者になる時、家の世話にならないって決めたんでしょう?」

「まぁ、うん。って言っても、色々勝手に気を使われちゃうことはあったけど」

「だったら、私たちもそれを使おうとは思いません。……これまでだってそうしてうまくやってきたつもりですが、物足りませんでしたか? コリンが冒険者としてもっと活躍して、おうちの方々を見返してやりたいというのなら、私ももっと頑張ります。だから、理由はどうあれ、怒ってるならちゃんと怒ってていいですよ」

「……ほんと?」

「はい。私、宿の仲間が一番大切なので。コリンが怒ったっていうなら、一緒にちょっと怒っておくことにします」

「私も怒っておきます!」

ハルカが話し終わると、サラも腰に手を当てて胸を張った。

コリンはハルカの腕にぎゅっと抱き着くと、ぐりぐりと頭を肩にこすりつける。

いつも通りの、コリンが甘える動作だった。

「たまにはコリンもお酒いっぱい飲んだらいいですよ。それでわーってしてすっきりするです」

モンタナがぽてぽてと後ろから歩いてきて提案する。

「そうする! 今日はね、私も酔っぱらうまでお酒飲むから!! ハルカもモン君も付き合ってよね! ……あ、サラちゃんはまだ駄目だからね」

「はい、私がしっかり気を付けてますので、心行くまで飲んでください!」

「よーし、じゃあお店探そう! ハルカ、美味しくお酒飲めるお店!」

「えーっと、そうですねぇ……。ここから近くだと……」

ハルカが頭の中に検索をかけていると、後から追いついてきたアルベルトとイーストンが、騒いでいるコリンを見て小声で会話をする。

「なんか、話が丸く収まったみたいだね」

「いや、どうなんだ? 酒飲むとか言ってるぞ」

「アルだってちょっとは腹立ててるんじゃないの? 一緒に飲んだら?」

「俺、酒飲むと頭痛くなるからいい。コリンが酔ったとこ見たことねぇから心配だし」

「……それ直接言ってあげたら?」

特に恋愛を得意としているわけではないイーストンは、一応思ったことを述べてみる。

「なんでだよ」

「いや、別にいいんだけどね」

しかしどうも見解が一致しないらしいことがわかって、あっさりと身を引いてしまうのであった。