軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オランズと【竜の庭】

ハルカはイーストンの部屋をノックして声をかける。

〈オランズ〉の街に向かうならば、冷静なイーストンも連れて行きたかった。

ちなみに今回の件を一応レジーナに話してみたのだが、特に興味がなさそうに「ふーん」と言われて終わっていた。

「イースさん、急ぎの用事なんですが、ちょっといいでしょうか」

ハルカが声をかけて、モンタナが耳を澄ませる。

こくりとうなずいたモンタナを見て、ハルカは出てくるのを黙って待つことにした。

「なに、どうしたの」

髪を括りながら現れたイーストンだったが、急いで出てきたのか、上着がはだけて肩が半分見えている。ドキッとするような格好に、エリとカオル、それにサラはさっと目を逸らしたが、ハルカたちは気にも留めず答える。

「アルとコリンが結婚するとかしないとかで、状況を確認するために街へ行こうと思いまして」

「ええ……? ああ、そう……、一緒に行けばいいってことね」

一度部屋の中に戻ったイーストンは、隅に放り投げてあった袋をひょいっと指に引っ掛けて、ボタンを留めながら廊下へ出てきた。

眠っているところを起こされたのに、物分かりのいいことである。

建物を出てナギのそばへ向かう途中、武器を片手にプラプラと歩いているレジーナとすれ違う。食事まで暇だから訓練でもしようとしていたようだ。

「レジーナは行きませんか?」

「行く意味ねぇだろ」

「いや、うーん……。結婚ですよ?」

「結婚したら何が変わんだよ」

「それは……、えー……それは、ですね……」

そんなことが結婚はおろかまともな恋愛経験すら薄いハルカに答えられるわけがない。

「ねぇじゃん」

「……多分あります、私がわからないだけで」

「あたしは行かない」

「あ、はい、それでいいです」

なんだかすごく大事なような気もしていたが、そう言われると何が大変なのかは今ひとつピンとこないハルカである。

根拠もないのに連れまわすわけにもいかないかと、あっさりレジーナを連れていくことを断念した。価値観は色々あるし、今回はピンチでもなんでもない。ただ距離感の近い自分たちが動転しているだけだと、ハルカは冷静に判断した。

とはいえよくわからない状況に気持ちが落ち着かないのは事実である。

エリやカオル、それにサラもなんだかそわそわしている雰囲気は感じる。

なんだかんだと女性陣は、知人の結婚話が気になって仕方がないようだ。

ハルカたちは、またも一人手持ち無沙汰にしているタゴスの前を素通りすると、そのままナギの背に乗って〈オランズ〉へ向かうのであった。

オランズの前には、ナギがよく止まっている広場のようなものができている。

何かで囲ってあるわけではなく、街に用事があるたびにナギがその場所にいるので、地面が均されていて居心地のいい空間になっているというだけだが。

いつも通りそこでお留守番を決め込むナギの鼻先を撫でると、ハルカたちは街の入り口へ向かう。ナギはハルカたちを見送ると、ペタンと地面に体を伏せてから丸まって目を閉じる。

どうせやることがないからお昼寝の時間だ。

門番をしている冒険者たちも慣れたもので、ナギが来ると街の壁の上を歩いてやってきて、間違ってナギが攻撃されたりしないように見張ってくれている。ただ単に物珍しさもあったりするが、ハルカたちとしては協力的で大変助かっている。

街の中に場所を整備するという考えもあったが、ナギがすっかり大きくなってしまったので、かえって窮屈な思いをさせるのではないかと〈オランズ〉においてはこんな対応がなされていた。

門をほぼ素通りで抜けて街へ入りハン邸へ向かう。

コリンたちも今はそこに滞在しているらしい。

モンタナによれば、困ったような雰囲気はあったものの、切羽詰まっている様子はなかったとのことなので急ぐ必要はないのだが、気になっているせいで自然と早足になってしまう。

広い庭に立派な屋敷。

華美ではないが、オランズの木材をふんだんに使った比較的新しいお屋敷がそこに立っていた。

コリンが近寄ろうとしなかったから、ハルカたちもここには縁がなかったのだが、いざこうしてやってきてみると、コリンが本当にちゃんとお嬢様なんだなということがよくわかる。

入り口には門番が立っていたけれど、彼らもまたハルカたちのことを知っているから、誰何されるようなことはない。

ただ礼儀正しい言葉で少し待つよう言われ、すぐに庭へと通された。

そこには屋根のついた小さな建物があって、中でコリンとアルベルトがダルそうにベンチに座って背もたれに体を預けていた。

「なんでしたっけ、あれ、東屋、ではなかったですよね、確か……」

「あずまやって何よ、ガゼボでしょ」

「がぜぼ……」

木で作られているせいで、ハルカからすると東屋にしか見えないが、その間違いを黙っていればお嬢様っぽく見えるエリが訂正してくれる。名前を聞いてもしっくりこないハルカは、教えられた言葉をただオウムのように繰り返した。

「ハルカぁ、来てくれたんだぁ」

「ええ、はい、まぁ。なんかご結婚されるとか、なんとか……?」

「らしいんだよね。別に結婚はいいんだけどさ、なーんか家族があれこれうるさくてさー」

「そうなんですか……? とるものも取りあえず来たので、良かったら話を聞かせてもらえないかなと思うんですが」

「そうだよねー」

だるっとしていたコリンは、深いため息をついてから、体を起こして口を尖らせた。

「よし、全部話すからとりあえず座ってー。それにしてもいいときに来てくれたよ、モン君ありがとね」

「どういたしましてです」

ぱたぱたと両足を動かしながら考えをまとめていたコリンは、ぴたりとその動きを止めると、今回の件の頭から、ハルカたちに説明をし始めるのであった。