軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

寝耳に水

タゴスが来た翌日の昼になって、ナギが戻ってくるのが見えた。

建物が並ぶ場所からは少し離れた場所に着陸したナギの背から、小さな影だけがぴょんと飛び降りてくる。

三人と一匹で出かけたはずなのに、アルベルトとコリンの姿がない。

早足で歩いてくるモンタナに、ユーリが声をかける。

「モン君お帰り」

「ただいまです、ちょっと皆に話があるですよ」

マイペースなモンタナにしては到着直後から忙しないことだ。拠点の端で様子を窺っているタゴスに気が付きながらも、それをスルーして仲間たちが集まる広場へ向かおうとしている。

「知らない人いるですね」

「決闘を挑まれまして、負けたからなんでも言うことを聞くとおっしゃってます」

「コリン待ってたですか」

「よくわかりましたね。それで、皆に話というのは? 問題でも?」

「問題、じゃないですけど……」

言葉を選んでいるのか、モンタナが珍しく言いよどむ。悪い知らせなのかとハルカの胸中に不安が湧き上がってきたところでモンタナが補足を入れる。

「……アルとコリンが結婚するらしいです」

いい言葉が見つからなかったのか、モンタナは結局素直に自分の持っている情報を吐き出した。

「……え?」

「結婚……!」

「なんか、だから、お祝いした方がいいみたいです。それで一人で戻ってきたですよ」

「お祝い、お祝いですよねぇ」

いつかはそうなるんじゃないかと思っていたのだが、そのいつかがそんなに早く来るとは思っていなかったハルカは、ただモンタナの言ったことを頭の中で反芻させて繰り返す。

この世界の人間は成人年齢が十五歳だから、結婚してもおかしくない年齢ではある。一般的な結婚年齢を考えても、めちゃくちゃ早いというわけでもない。

それでも、アルベルトなんてついこの間までハルカより背が小さい少年だったのだ。二人の間にはそれらしい雰囲気もなかった、とハルカは思っている。

それについてはハルカが気づいていなかっただけの可能性もあるが。

今ここにいるハルカとモンタナとユーリは、三人そろって恋愛とは縁の薄い生涯を送ってきている。

結婚生活がどんなものか以前に、恋人との生活ですら想像がつかない。

人付き合いの豊富な大人でもないので、親しい友人の結婚で何をしてあげたらいいのかなんて当然わからない。

「これは……だれか相談するしかありませんね」

「誰に相談するの?」

「ええと……師匠、でしょうか?」

社会経験は豊富そうだが、恋愛経験はあまりなさそうだ。

というか、エリザヴェータからのアプローチから逃げ回っていることを考えれば、相談相手としては的確でないだろう。

モンタナはノクトがすぐに悪乗りするのを知っているから、別人物を思い浮かべてみる。

「イースさんとかです?」

大人な男性として言ってはみたものの、よく考えてみると、イーストンはもてるけど恋愛まではいかないタイプだ。おそらくその辺の機微はわからない。当然結婚したこともないはずだ。

「サラのパパとママ、とか」

「あ、それですね」

いい案を出したユーリを撫でると、ハルカたちはコート一家を探して拠点の中をうろつき始めた。

コート夫妻は大体拠点のメインの建物の中にいることが多い。

そこへ到着するまでに面白そうな気配をかぎつけたノクトと、訓練をしていたエリとカオル、それからサラが合流することになった。あっという間に大所帯である。

農業組は仕事しているし、夜型二人は夢の中のようだ。

キッチンへ向かうと、予想通りサラの母であるダリアが食事の準備をしていた。

「あら、大勢でどうしたの」

ダリアはこの拠点に来てからずいぶんと表情が穏やかになった。〈ヴィスタ〉にいる頃はきっと相当に気を張っていたのだろう。今ではすっかり優しそうなお母さんだ。

「あ、お料理しながらでいいんですけど……。その、アルとコリンが結婚するらしくて……何をどうしたらいいかわからず相談に来たんですが……」

「あら、おめでたいわね。でもそういうのは本人たちに聞いたらいいんじゃないかしら。話ができない仲ではないのだから」

「確かにそうですね……。そもそも、なんで急に結婚の話になったんでしょう」

「わかんないです。僕、職人探してたですから。二人と合流したら、そんな話になってたです。親と話すからこのこととりあえずハルカに伝えといてってコリンに言われて出てきたです」

「……もしかしてそれって、結婚確定ではないんじゃないでしょうか?」

「……まだ確定ではなかったかもです。街に戻ってちゃんと話聞いてみるですか?」

どうもモンタナも急な話に少し動揺していたようだ。

一度呼吸を落ち着けて尋ねてみると、経過が今一つよくわからない。

「まーコリンってあんなだけどハン家のお嬢様だし、そろそろ結婚しないと周りがうるさいんじゃない?」

やや間が空いたところで、壁に寄りかかっていたエリが口をはさむ。

「そういうものなんですか?」

「新興って言ってもこの国で指折り数えられるような商人の家よ? あちこちから声がかかってるんじゃないかしら?」

「コリンのご実家ってそんなにお金持ちだったんですね」

「ええ、特にコリンのお兄さんがかなり手広くやっているわ。……知らなかったのかしら?」

呆れたような視線を向けられて、ハルカとモンタナが二人してさっと目を逸らす。

「……はぁ。強いから情報集めないのかしら? そういうのも冒険者の仕事の一つだと思うのだけど。カオル、あなたもだからね」

「はー」と口を開けた間抜け面で感嘆の声を漏らしていたカオルは、とばっちりを食らってこれまたさっと目を逸らした。