軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

活きのいい冒険者

「殺しやしないが、怪我くらい覚悟しろよ」

そう大口を叩いて戦い始めたタゴスは、思いの外粘った。

最初に投げた三本の手斧は一本が真っ直ぐハルカの許へ、もう二本が何処へやら飛んでいく。

ハルカは即座に距離を詰めてくるタゴスの頭に水を纏わせたが、それだけでタゴスの足は止められなかった。

あらかじめどこかで情報を集めてきたのだろう、そのままハルカを射程圏内に捉えて、戦斧を振りかぶる。

動きが止められなかったことには驚いたハルカだったが、そこで思考を停止したりはしなかった。振りかぶられた斧が勢いよく振り下ろされる前に、間に障壁を生み出して攻撃を阻害する。

タゴスはそれに体のバランスを崩したが、即座に手首の力を抜いて横向きに斧を振り抜こうとした。そしてそれが再び障壁に阻まれる。

相手の斧が届く範囲は、ハルカの杖が届く範囲だ。

ハルカは杖の頭をぴたりとタゴスの額に合わせたところで、左右から弧を描いて戻ってきた手斧を魔法の石礫で叩き落とす。

タゴスは戦斧からぱっと手を離し、水の中でガボガボと何かを言って、そのまま両手をあげた。

「よかったです、降参していただけて」

ハルカが顔の周りにまとわりついている水を消すと、タゴスは苦い顔をして空を仰いだ。

「くそぅ、手加減されたか」

「したつもりはありませんが」

「いーやしたね。魔法ってのは普通魔法使いの手元から出てくるもんだ。どっからでも出せるってんなら、いくらでも俺の不意をついて魔法を放てたはずだ。俺を傷つけまいという気遣いを感じた、屈辱だ、ああ、屈辱だぜ!!!」

地面に座り込んだタゴスは、拳で地面を殴りつけてから腕を組んだ。

「おら、煮るなり焼くなり好きにしろい!」

潔くそんな態度を取られても、ハルカとしては黙ってお帰りいただけるのが一番ありがたい。さてどうしたものかと考えていると、レジーナが金棒を肩に担いで歩いてきた。

「……もう終わったのかよ」

「ええ、まぁ」

「なんだ、また新しいやつが……ぐお、て、【鉄砕聖女】……」

「あ?」

「……ふはは、あの狂犬もとうとう力に屈したか。

【鉄砕聖女】の名も地に落ちたな!」

「は?」

「今や俺の相手にはならんだろうなぁ?」

レジーナがハルカの横で止まらずにそのまま真っ直ぐにタゴスの下へ歩いていく。

「お前がのうのうと生きている間に、俺は一級冒険者になった。もはやお前なんぞ敵じゃないのだ!」

「ぶっ殺す」

通り過ぎたあたりから嫌な予感がして歩み寄っていたハルカは、慌てて障壁を張って繰り出された金棒での攻撃を防いだ。

咄嗟に戦斧で防御姿勢をとっていたタゴスだったが、攻撃が防がれたことを確認すると、若干の距離をとって片手でレジーナを指差した。

「人が話してる途中に不意打ちか! 過去何度も激闘を繰り広げた俺と、まともな状態で向き合うのを恐れたな!」

「うるせぇよ、誰だよテメェは」

「レジーナ、落ち着いてください」

「あいつが悪いだろ、馬鹿にしてきてるぞ。ああいうのはぶっ殺すんだよ」

「はい、彼が悪いですけどちょっと落ち着いて……」

ハルカがどうどうと宥めていると、そんな苦労も知らずにタゴスがさらに続けた。

「はっ、俺の名を忘れたとは言わせんぞ!」

「いや、だから誰なんだっつってんだろ」

「おい、惚けるのもいい加減にしろよ?」

「は? 誰なんだよ、いいから名前言えよ、うぜぇ」

「……あの、タゴスさんだそうです。【魔狩りのタゴス】さん」

ハルカが小声で耳打ちすると、レジーナは眉間に皺を寄せたまま黙り込んで、しばらく視線を上へやって考え込んでいたが、最終的に首を傾げた。

「知らねぇよ」

「お、面白くない冗談だな」

「ハルカ、こいつめんどくせぇよ、殴らせろ」

「待て、タゴスだぞ。三度お前と対峙して、毎度名を名乗ったぞ、俺は」

「……覚えてねぇ」

『人の名前は覚えましょう』

『名前で呼んであげた方がいいですよ』

そう散々ハルカに言われてきたレジーナは、ちょっとだけ、もしかして名前を覚えていない自分の方が悪いのか、と思った。

しかしそれからすぐに、今回散々馬鹿にされたことを思い出して、やっぱ悪くないなと思い直す。

「雑魚の名前なんか覚えてねぇよ」

「おおおおおおお、【鉄砕聖女】レジーナぁあああ! お前に決闘を申し込む!!」

「なんで名前知ってんだよ、きめぇな」

文句を言いながらもレジーナは、ほんのわずか、本当に少しだけの罪悪感に駆られて、タゴスの相手をしてやることにするのであった。

「……一級冒険者になったのに、まだあの小娘にも勝てないのか。俺は、もう冒険者をやめる」

「そうですかぁ、やめるのは自由ですからねぇ」

拠点の端でしゃがみ込んだタゴスは、静かに地面にのの字を書きながらいじけていた。

それを楽しそうに見守っているのはノクトだ。普通に性格が悪い。

「辛い修行を積んできたんだ。これ以上どうしたらいい。差が縮まるどころか、広がっているようだったぞ」

「あなたが辛い修行をしていた以上に、レジーナが頑張っていたということじゃないですかねぇ」

「もう少し優しい言葉がかけられんのか?」

「慰めてほしいんですかぁ?」

「優しそうな顔をしているくせに……」

「大変でしたねぇ、頑張りましたねぇ、でも勝てませんでしたねぇ」

タゴスはきっとノクトを睨みつけるが、ノクトは穏やかに微笑んでいるだけだ。

「で、冒険者辞めちゃうんですか?」

「……こんな状態で辞められるか! くそくそ、いつか吠えづらかかせてやるぞ、あの小娘め……!」

ノクトの近くにいるのが嫌になったタゴスは、斧を手にもって、怒り半分悔しさ半分のまま素振りを始める。

なんでもいうことを聞くなんて約束をしたせいで、タゴスは勝手にこの拠点から抜け出すことができないのだ。

できることは訓練くらいしかない。

「ふへへ、若いっていいですねぇ」

新たな特級冒険者が生まれると、それに触発されて近隣の冒険者が奮起する。

ノクトは活きのいい冒険者を眺めながら、一人ふへふへと笑うのであった。