軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

チャレンジャー

「おい、いつになったら【耽溺の魔女】が戻ってくるんだ?」

「いつでしょうねぇ……」

「ちっ、ふざけた女だ。この俺様を入り口で丸一日も待たせやがるとは……」

「勝手に訪ねてきたんじゃない」

「ひょろっこいのは黙ってろ!」

「元気ですねぇ」

「ちっこいのもだ!」

森からでて拠点が見えるようになったあたりで大声で騒いでいるのは、背の高い一人の男性だった。ボロ布のような服をまとい、背中に戦斧を、腰にいくつかの小さな斧を引っ提げている。

髪も髭も伸ばし放題のその男は、よく言えば野性的、悪く言えば汚らしい。

「ねぇ、僕戻って寝てもいいかな」

「えぇ、イースさん、こんないたいけな僕をおいて戻っちゃうんですかぁ?」

「よく言うよね、ほんとに」

ノクトのふざけたセリフに、イーストンはため息をついて地面に座り込んだ。一応部外者なので拠点の中に入らないよう交代で見張っているというのが現状だ。アルベルト・コリン・モンタナ、その上その足としてナギも一緒にお出かけしているものだから、拠点が少々手薄なのである。

そうは言ってもノクトとイーストンがいれば、戦力としては十分すぎるくらいだ。客分だからこちらに出していないが、エリとカオルもいるし、なんならカーミラだっているっちゃいる。

「ええとぉ、何さんでしたっけぇ、あなた」

「何度名乗らせるんだ! 【魔狩りのタゴス】様だ!」

「はいはいタゴスさんですねぇ。それでぇ、何しに来たんですっけぇ」

「だから、この、何度言わせるんだこのガキは! 次に特級冒険者になるのは、実力を考えりゃ俺のはずだったんだ! 【耽溺の魔女】とやらに勝利して、冒険者ギルドにそれを認めさせてやるんだよ」

「いやぁ、野望があっていいですねぇ」

「……おい、ひょろっこいの、こいつ何度同じ説明させるんだ?」

「僕に聞かないでよ……」

絶対にわざと相手をからかっているノクトに、イーストンから注意する言葉はない。できればハルカが来るまで黙って待っていてほしいというのがイーストンの希望だった。

【魔狩りのタゴス】と名乗った男は、話が終わると筋肉をぴくぴくとさせながら、自慢の戦斧を手に取ってぶんぶんと振り回す。

いつ戻ってきても戦えるようにと、常に体を温め続けているのは、まぁ、そんなに悪い印象ではなかった。冒険者がよーいドンで戦うことばかりでないから、何か違うような気もするが、強い相手に挑むという認識ならば、まぁ、間違った行動ではない。

しばらくしてタゴスが顔を赤くして一息ついたところで、拠点の方から中型飛竜が低空飛行でやってくる。

すでに何度も説明を受けているタゴスは、攻撃的な姿勢をとることはなかったが、きちんと斧を両手で握って警戒心だけはしっかり持っているようだった。

「ママ帰ってきた!」

ユーリの声が先に聞こえてきた。

そしてユーリを抱っこしているハルカが、飛竜の背中から降りてくる。

ユーリを地面に下ろしたハルカは、中型飛竜の鼻先を撫でて、三人の 下(もと) へ歩み寄った。

「あの、どなたか私にご用事の方がいらっしゃっていると伺いました」

「……お前が【耽溺の魔女】だな」

「あー……、ええ、はい、そうですね……。なんだかお待たせしてしまったようで申し訳ありません」

一度空を仰ぐようにしてため息のようなボヤキから、ハルカはタゴスの言葉を肯定した。もはや二つ名は変えられないのかと、諦めきれないため息である。

「……本当にお前が【耽溺の魔女】か? 妙に腰が低いな」

「ハルカ=ヤマギシと申します。呼ぶのでしたらできれば名前の方を。ところでご用件はなんでしょうか?」

「……決闘。俺が勝ったら特級冒険者に推薦をしろ」

「決闘……? あの、推薦というの、私はよくわかっていないんですが……」

「特級冒険者になるには、今の特級冒険者からの推薦がいるんだよ! その一人になれって言ってんだ」

「はぁ……、そうなんですか……。その、えーっと、師匠、どうなんでしょうこの条件?」

「ハルカさんが負けたら推薦してあげたらいいじゃないですかぁ?」

「それでいいんですか?」

「いいですよぉ?」

負けるわけないと思っているノクトは、色々と条件があるのを知っていながら適当なことしか答えない。それが伝わってくるせいで、ハルカも渋い顔だ。

「師匠だぁ?」

「はい、師匠です。……あの、私より師匠の方が冒険者ギルドに顔が利くと思いますよ?」

「あ、ひどいですねぇ、ハルカさん。師匠を売らないでくださいよぉ」

「お前、名前なんだ?」

「ノクトですぅ」

「…………【 桃色悪夢(ロージィナイトメア) 】だな。知ってるぞ! 気味の悪い治癒魔法の使い手らしいな」

「ひどいですねぇ、気味の悪いなんて。ハルカさん、やっちゃってください」

「やっちゃってくださいじゃないですよ、まったく……」

自分で相手をしなかったのは、絶対にハルカが相手をした方が面白いと思ったからだ。それをわかっているハルカもイーストンもあきれ顔である。

「とにかく、相手をしてもらうぞ」

「しなきゃダメなんでしょうか、これは」

「してあげたらいいじゃないですかぁ。……ところで【魔狩りのタゴス】さん」

「な、なんだ?」

急にしゃっきりとした話し方になったノクトに、妙な威圧感を覚えたタゴスがたじろぐ。

「あなたが勝った時、ハルカさんが推薦をする、それはわかりました。ところで、あなたが負けたらどうするんですか?」

「はっ、負けるわきゃねぇよ」

「ええ、それで、負けたらどうするんですか?」

「……な、なんでもやってやらぁ」

「言いましたね?」

「おう、言ってやったぞ」

「……師匠、私特にしてもらいたいこととかないのですが」

「その辺はコリンさんが帰ってきたときに考えましょうねぇ」

「ああ、いいかもね」

イーストンが同意すると、タゴスは動いて赤くなっていた顔をさらに赤くして、斧をブンと振り回した。

「俺様が負ける前提で話をしてるんじゃねぇぞ。話は決まった、相手してもらうぜ」

「……わかりました。ええと、じゃあ、やりましょうか」

このパターンは何を言っても諦めてもらえない。

この世界に来てからの経験からそれを察したハルカは、いつもは手に持たない杖を一応右手に持って、魔法使いらしく相手をしてやることにした。

「相手が参ったというまでですからねぇ。それじゃあこの石を放り投げますから、これが地面に着いたら決闘開始ですぅ。行きますよぅ」

ノクトがぽいっと上に向けて放り投げた石は、思いのほか高く上がらず、ひょろひょろと弧を描きすぐに地面に向かって落ちていくのであった。