作品タイトル不明
しつけ
「ヘルカここ住んデないのか!? ミアーたちもヘルカのトこに住む!」
「すみません、それは難しいんです。たまに様子を見に来ますから、リザードマン達と仲良く暮らしてください。あと私はハルカです」
「やダやダ! ハルカのトこ住む!」
ミアーが地面をゴロゴロと転がりまわると、近くにいたハーピーの数人もはっとした顔をして、一緒にごろごろと転がり始める。よくわからない連帯感だ。そんなことをしているから、リザードマンたちに一斉に捕まるのである。
ハルカがどうしたものかと困っていると、ちょうどころりと転がったミアーの顔すれすれに、太い鉄の棒がドンと突き立てられた。
「ぴゃあ! レジーナ、何するんダ!」
慌てて立ち上がったミアーだったが、レジーナがその額を握り固定する。ぎりぎりと音がするような締め付けをされて、ミアーは「いタいいタい!」と暴れた。
「ここに住めって言ってんだろ。勝手に来たら食うからな」
「ミアーいかない! ここ住む! 食べないデ! ミアーいい子!」
「すみません、許しテあげテください!」
足元では丸いウペロペがわたわたと揺れてとりなしているが、レジーナはそんなこと知ったことじゃない。
「レジーナ、その辺で」
「来る気だぞ、こいつ」
「行かない! ミアー嘘つきじゃない!」
「本人もこう言ってますし」
レジーナがしばしの沈黙ののち、パッと手を離すとミアーはしゃがみこんでウペロペに引っ付いた。
「ハニー、頭割れテないか? ミアーの頭割れテないか?」
「大丈夫みタい、いい子いい子」
涙目のミアーを見ていると、夫婦というよりまるで小さな子供である。
落ち着くのを待ってから、ハルカはミアーに語り掛ける。
「ミアーさん、いいですか、私が住んでいるところには人が来るんです。人は、あなたたちのことを怖がっています。だから、見かけると攻撃してくることもあるんです」
「そうなのか?」
「はい。多くの人はあなたたちより弱いですから。しかし、たまにすごく強い人もいます。怖がらせていると、その強い人に倒されてしまうかもしれません。レジーナはそれを心配して注意してくれてるんですよ」
「……レジーナはミアーを心配しテくれテるのか?」
「違ぇよ」
「なんダ、レジーナミアーのこト好きなのか。でもミアーにはハニーがいるから駄目ダぞ」
「ぶっ殺す」
さっきので学習したのか、レジーナが手を伸ばす前にミアーは空へと逃げていった。
「照れなくテもいい。ミアーもレジーナ強くテ好きダぞ」
「……降りてこねぇと、この毛玉潰す」
「駄目、駄目! ハニーいじめないデ!」
レジーナがウペロペの羽をわしづかみにすると、ミアーは慌てて降りてきてレジーナの前に正座した。レジーナは深く深く眉間に皺を寄せて、その頭を平手で軽くたたいて、ふんっと鼻息を漏らす。
ハルカは出会った当初のレジーナのことを思い出しながら、その光景に感動していた。やっぱり悪い子ではなかったんだなと思っていたが、半分くらいはハルカがレジーナの暴力的な対応に慣れてきただけという説もある。あるいは親の欲目のようなものかもしれない。
出会った頃のハルカだったら、アイアンクローをしたり、頭をしばいたりするような人は苦手かもしれないと思っていただろう。
それにしたって、正直で少しお馬鹿なハーピーは、どうやらレジーナとは相性がいいようであった。
一晩リザードマンの里に泊まって、今後の話し合いをして翌朝。
ハルカたちは全員に見送られて里を後にした。
今日もレジーナの定位置はハルカの背中である。
話し合いの場には、ハーピーの代表としてミアーとウペロペが同席することとなった。ウペロペはミアーとは違って建設的な考えをすることができるので、話は実にスムーズだった。
最初からウペロペにすべて任せていれば、リザードマンたちも食料ぐらい分けていたのではないかと思うほどだ。
その交渉に一安心したハルカは、憂いなくリザードマンの里を後にすることができたというわけである。
「レジーナ、ハーピーたちかわいかったですね」
「は?」
「懐いていたじゃないですか」
「うるせぇだけだろ」
レジーナが里の中を歩くと、数名ハーピーが歩きにくそうなかぎづめの足でちょこちょこと後についていく。彼女らは特に用事があるというわけではなく、なんとなく強者の後をついて回っているだけのようで、レジーナは鬱陶しがりながらも放置していた。
何度か「ついてくんな」と言っても、どうせまた別のがレジーナを見かけたときについてくるからだ。
しばらくすると飽きて離れていくのだけれど、そうするとまた別のハーピーが後ろについてくる。
リザードマンと手合わせをしているときも、周りでぴゃーぴゃー騒ぐものだから、レジーナとしては本当に言葉の通りうるせぇとしか思っていなかったのかもしれない。
ただ、そこで暴力的な手段に出なかったことを見て、ハルカはレジーナがハーピーたちのことを気に入っているのだと判断していた。
「静かになってちょっと寂しいんじゃないですか?」
「どうせ帰ってもうるせぇだろ」
「……まぁ、拠点もにぎやかになってきましたものね」
拠点が本当に騒がしくなっているとは夢にも思わず、ハルカは軽く笑いながらまっすぐに空を飛ぶのであった。