軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

北方へ戻りまして

ナディムは悲鳴は辛うじて飲み込んだが、ひきつる表情を抑えることはできなかった。

ナギのことに関してはシャディヤからも街の暇人からも散々聞かされていたが、聞くのと見るのではだいぶ違う。

悪かったのは、ナディムが見た目上は動揺していないように見せたことだ。

大丈夫なのだと判断したハルカが、ナギへ声をかける。

「ナギ、今日から一緒に行く人たちですよ、挨拶してくださいねぇ」

グルだかガァだかわからない低い音が響いて、ナギが首を伸ばしてナディムとシャディヤに顔を寄せる。この場にいる、見た目上での最年長の意地で、足の震えを抑えたナディムは、実に立派であったと言えるだろう。

幼馴染組の帰りを待っている間に、地図を開いて道中の説明などをしていると、すっかり日が暮れてしまった。夜中のうちに出発してもいいことなどないので、今日は庭でお泊りだ。

安全な庭での野宿は、街の外で過ごしたことのない親子の予行練習にはちょうど良かった。

ハルカたちのことをすっかり信用してくれているので、きちんとアドバイスに従ってくれるので大助かりだ。昔自称友人である貴族の坊ちゃまを護衛したときのような煩わしさもない。

夕食を適当に買ってきて、もう食べ終わるという頃にようやく二人が帰ってきた。

「ずいぶん遅かったね」

「迷っただろ」

「迷ったですね」

「まぁ、この街はまだ慣れていませんから。ちゃんと帰ってこれて良かったです」

「ハルカぁ、ただいまぁ……」

荷物を放り捨てながらよろよろと近寄ってきたコリンをハルカが受け止める。ハルカもすっかりコリンが抱き着いてくるのに慣れてしまって、照れもなにもない。

「はいはい、お疲れさまでした。今度また地図を見る勉強しましょうね」

肉体的な疲れではなく、精神的な疲れなのだろう。

ハルカは額をこすりつけてくるコリンの背中を軽くたたいてやる。

その後ろでは、アルベルトが胸を張って腕を組んで反論だ。

「俺は迷ってねぇよ。コリンについてっただけだし」

「一緒です」

ずばっとモンタナに切り捨てられたアルベルトだったが、自分でもわかっているのか、それ以上文句は言わなかった。

しばらくすると満足したのか、コリンはハルカから離れて今日合流の二人に挨拶をする。

「あ、ナディムさん、シャディヤさん! 準備できてたんだ。もしかして待たせちゃった?」

「いえ、張り切ってきちゃっただけなので。今後の予定とか、野宿のやり方とか聞けて丁度良かったです」

「わぁ……、結構待たせたってことか、ごめんね」

「や、気にしないでくれ。これから世話になるわけだからな」

「そうだよね、よろしくお願いします。うちの拠点まだまだ人が少ないからねー。あ、ご飯食べよ」

切り替えの早いコリンがさっと焚火のわきに座ると、そこではすでにアルベルトが普通に食事を始めていた。

まとめて置いてある屋台の食事を手に取ったコリンは、焚火周りに戻ってくる仲間たちに向けて話しかける。

「拠点っていえばさ、カーミラ大丈夫かな?」

「あー……馴染んでましたし、大丈夫じゃないでしょうか。寂しがっているかもしれませんが」

お姉様と懐いているカーミラのことはハルカも気にしていたが、出てくるころにはすっかり拠点になじんでいたので、心配するというほどでもない。

「いや、そうじゃなくってさ、ほら、拠点にヴィーチェさんが行ったでしょ」

「……はい、そうですね?」

「カーミラって美人だしさー、ヴィーチェさんってあんな感じだからどうなのかなーって」

「…………大丈夫、ですよね?」

「知らないよー、私に聞かれたって」

「今頃泣いてるかもね」

ふっと鼻で笑ったのは、カーミラにはちょっと厳しいイーストンだ。

「嫌なこと言わないでくださいよ」

「自分でなんとかするよ、きっとね」

「自分でなんとかしてる姿想像つかないけどねー」

コリンも自分から話題に出した割には、そんなに興味がなさそうだ。

「ヴィーチェさんの良識に期待しましょう」

なんにしても今何かできるわけではない。

ハルカはそう言ってカーミラのことを考えるのを一時切り上げた。

家へ帰ったとき元気がなかったり拗ねてたりしたらフォローしてあげないとなと思いながら。

翌朝、ナギの背に乗り込んだハルカたちは、そのままカロキアの街を飛び立った。

ナギが空を飛び北へと向かえば、拠点へ帰っていくのだろうとソラウも察するはずだ。わざわざ城に乗り込んでまで挨拶をする必要はない。

きっとこれからも変わらず、南方大陸では戦いが続くはずだ。

いずれまた訪れるかもしれないけれど、その時はまた情勢が変わっている可能性もありそうだ。

何事もないまま数日が過ぎ、やがて関所の上を通り抜け、北方大陸へと入る。

旅の過酷さを想像し、覚悟していた親子からすると拍子抜けするような順調な旅だ。

カロキアを出て半月。

かなりゆったりとして進んできたが、その日の夕方一行はようやく一つの廃村へとたどり着いた。

「あそこが……、シャナの亡くなった村。人が住んでいるんですね」

驚いたことに、丘の上から臨めるその村には、小さな明かりがいくつかともっている。

あの村が血に染まり、誰一人として生存者がいなかったことを知っているハルカたちは、どうしたことかと顔を突き合わせた。