軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

故郷の人

食べ歩きは行儀が悪い。

ハルカは小さな頃、親にそんな躾をされたような覚えがある。

両親と楽しく遠出した記憶はあまりなかったけれど、こうするべきでない、とか、こうなってほしい、というような要望だけは今でもちらほらと思い出せる。

なんとなく外面の悪そうなことが注意されていると悟った後は、自主的にそういうことをしなくなった。

行儀の悪いことはしない。勉強は普通にする。趣味に傾倒しすぎない。とにかくいい子だったとハルカは自覚している。

そして両親が亡くなってからは、逆に漫画を読み漁り、昔できなかったRPGなんかをやり込むようになってしまった。

ほとんど行ったことのなかったお祭りや縁日が近所で開催されると、一人でえっちらおっちらと顔を出すようになったし、たまに美味しい食事を求めて外食するようになったのもその頃からだった。

ハルカはそれらの全てを、亡くなってからきた反抗期だと、楽しみ半分後ろめたさ半分に考えていた。

ただ最近は少し考えが変わってきていた。

自分は自分なりに、放り捨ててきてしまった青春の一端を取り戻そうとしていたのかもしれない。

そんなふうに思うようになったのだ。

そんなわけでハルカは今日もその辺で買ったパンを齧りながら外を歩いていた。

自分のようにならぬようにと、ユーリが物欲しそうに何かを見ていれば、買ってあげるつもりだ。

しかしユーリは、大抵の場合ハルカの買ったものと同じものを買うか、ハルカが食べている姿をゆるっとした表情で見守っている。

「ユーリも食べますか?」

視線に気づいたハルカが、尋ねると、ユーリは首を横にふる。

「ママが全部食べていいよ」

「まぁ、そう遠慮せずに。人が食べているものって美味しそうに見えますよね」

半分に割ったパンが差し出されると、ユーリも断らずに受け取る。

「ありがと」

「どういたしまして」

やっぱり食べたかったんだな、気づいてよかったと、ハルカはほくほくした気持ちでパンをかじる。

モンタナは二人のやりとりを見て、ユーリにこっそり声をかけた。

「ハルカを見てたです?」

「うん、楽しそうだったから」

「買い食いしてるハルカはいつも楽しそうです」

「ね、かわいい」

まさか子供と思っているユーリがそんなことを考えて見ているとはハルカも思っていない。

ハルカだってユーリの精神的な年齢が、仲間たちとそう変わらないことを忘れているわけではない。

しかし赤ん坊の頃から見ているせいか、あるいはその見た目のせいか、どうしても小さな子として扱ってしまうのだ。

いつも世話になって頼りにしているモンタナのことですら、たまに小さな子供のように撫でているのだから、ハルカというのは案外見た目に流されやすい性質なのかもしれない。

コリンやモンタナはむしろそれ目的で、わざとハルカには甘えるようにしている節がある。互いに満足しているので、まぁよしというところだろうか。

目的地が近づいてきて、パンを食べ終わったハルカは、手についた砂糖を舐めるかどうか一瞬迷ったが、流石に行儀が悪いかと手を擦り合わせた。

宿を見ると、入り口には休業中を伝える看板が下げられている。

「出かけてますかね?」

「いるですよ」

モンタナのお墨付きをいただいてから、ハルカはノックをして声をかける。

「すみません、ナディムさん、シャディヤさん、いらっしゃいますか?」

ドアの開く音と、パタパタ歩く音。

「はーい、今行きますー!」

中から元気のいい女性の声が聞こえてきて、玄関が開いた。

「あ、ハルカさん! ユーリ君にモンタナさんも。準備ならできてますよ、父も禁酒したので調子はバッチリです」

「そうですか。別にそんなに急がなくても大丈夫ですよ?」

「いえ、やることは済ませましたし、あとは出る前にフバルさんに鍵を預けるだけです。ハルカさんたちさえすぐ出発できるなら、今日にでも」

シャディヤはすっきりとした顔をしていた。

後ろから遅れて現れたナディムも、最初に出会った時よりも随分と若く見えた。

表情のせいか、あるいは飲んだくれて出ていた腹が少し凹んだせいかもしれない。

「というか、もうすることもないから、出発してしまいたいってのが本音だな。挨拶回りを終えてからいつまでもいると、なんだか近所の人の目が気になってなぁ」

ぽりぽりと頬をかきながら、ナディムは通りを見回す。するとたまたま知り合いが通り過ぎたようで、軽く手を上げて挨拶して苦笑した。

「こんな具合でな」

「わかりました。では忘れ物がないか確認したら行きましょう。戸締りをしてフバルさんに鍵を渡し、それからリヴさんの屋敷ですね。全員揃ったら出発してしまいましょう」

「荷物の確認は散々したさ。ちょっとばかり待っててくれ、すぐに出れるようにして戻るから」

「あ、上がって待っててくれてもいいですからね!」

ドアを開けたまま中へ引っ込んでいった二人は、バタバタと動き回って、すぐにまた姿を現した。

「これでよしだ」

外へ出て、数歩進んで振り返ったナディムは、宿を見上げて立ち止まったが、すぐに笑って歩き出した。

「フバルの坊主ん家はあっちだ」

「はい、じゃあ先導をお願いしますね」

「いやぁ……、この街で一生を終えるんだと思ってたけど、人生ってのはわかんねぇものだな、ああ、どうも」

「なんだ、もう出発かい?」

「ええ、おかげさんで」

「寂しくなるなぁ……。けどまぁ、この間までの飲んだくれのあんたを見るよりゃよっぽどいいか」

「その節はご迷惑を……」

「ああ、いいっていいって、元気でやりなよ」

二人は少し歩くたびに捕まって挨拶を交わしていく。

なかなか進まない道中だったが、二人が街の人々から愛されていることがわかる光景は、見ていて飽きるものではなかった。

むしろ本当に連れていっていいのだろうかと、ハルカは内心不安になるくらいだったが、ようやくフバルへ鍵を預けてからは、声をかけてくる人も減って、スムーズに道を進むことができるようになっていた。