軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暗闇の獣

モンタナは低い茂みの中にしゃがみ潜んだ。

顔を出さなくても、モンタナには敵の位置がなんとなくわかるのだ。

一番手前に走ってきている男が近づくのを待ち構えて、短剣でその足を刈り取る。

男の悲鳴が上がったときには、モンタナはすでに駆け出していた。

月明かりは出ているが、あちらこちらに低い木が伸びているせいで、遠くまで見渡せるほどに明るくない。だからと言って松明が照らすのは自分の足元ばかりで、先行した仲間の状態までは確認できなかった。

男たちは茂みに潜み駆けるモンタナの姿を見つけることができない。

数少ないヒントである物音も、男たちが慌てて動いて立てる音と重なって役立たない。

幾人かのベテランは、うろたえる仲間たちを忌々しく思いながらも、自分の持っている松明を消して、暗闇にじっと目を凝らす。

モンタナは松明を消した男へは近づかない。

集団戦のコツは、最初に頭をつぶしてしまうか、弱い奴から順に消していくかだ。

少し時間を空けると森からまた悲鳴が上がる。

二つ、三つとうめき声が増えたところで、ついに息をひそめてモンタナの位置を探っていた男が声を上げた。

先ほど縛られたカトルの頬を叩いていた男だ。

「的になりたくなけりゃ松明を消して目を凝らせ! 動かず耳を澄ますんだよ!」

最後に悲鳴が上がった場所から離れるように走りながら指示を出した男は、比較的太い木に背中を預けて再び目を凝らす。

他よりも少し高く、丘のようになっているその場所は、あたりを見渡すのに適していた。

また一つ悲鳴が上がる。

男が音の発生源に目を凝らすと、すぐ近くの茂みが揺れていることに気が付いた。

見失わないように、音を立てないように、男が慎重に動き出したとき、ふいに空から降り注いでいた月の光が遮られる。

嫌なタイミングで雲が出た。

男がそう思った直後、目の前がぼやけ鼻から口から水が体内へと流れ込んできた。

わけのわからない状況に目を見開き、思わず転がりまわった男だったが、結局その状況から逃れることができないまま、意識を暗闇へ落とすこととなった。

ハルカは空の上から状況を確認すると、茂みから出ている頭のすべてを水球で包み込んだ。

どのシルエットにも獣耳がなかったから、モンタナは絶対に巻き込んでいない。

展開した水球をすぐに凍らせてからほかに敵がいないかと目を走らせると、草むらの中からひょこっと獣の耳が頭をのぞかせる。

「事情聴くひと三人確保したです」

「わかりました、その人たちに討ち漏らしがいないか確認してもらいましょう」

「人集めて、その丘の上に集めるですよ」

「あ、じゃあ一応人がいた場所に明かりをつけますね」

ハルカは、電球の光をイメージした小さく丸い明りを、茂みのあちこちに出現させた。それを頼りにして、そこらに倒れているすべての男たちを丘の上へ運び出していく。

ハルカが飛び回って気絶した男を確保している間に、モンタナはその小さい体で、男を三人引きずって丘の上まで連れてきた。

誰もがひざ下にひどい怪我を負ってうめいている。

出血量が多いので、このままだと気を失ってしまう可能性もありそうだ。

ハルカは丘の上に障壁の檻を作り上げると、その中に全員を放り込む。

それから念のため傷口をふさぐ程度に怪我を治し、空から脱出し天井をふさぐ。

「えーと、それじゃあ二人を連れてくるので、モンタナはこちらで見張りをお願いします」

「わかったです。……さっきの黒づくめの闇魔法使いがいないから気を付けるですよ」

「……確かに、いませんね。将軍さんも来ていないようですし」

顎を粉々にされてすぐ復帰して動き出せる人なんてそういない。

戦いに入り込んでいると、痛みに気が付きにくくて大けがをしていても戦い続けられたりするのだが、覚悟をしていない時不意打ちで食らった一撃というのは思いのほか効くものだ。

そっちが来ていないのは当たり前だと思いながらも、モンタナは一応話を合わせて頷いた。

ハルカは空を飛んで、元居た場所へ戻る。

念のためその真上に小さな明かりを一つ浮かせておいたので、場所を見失うことはなかった。

姿が見えてきたのでその明かりを回収して、地面へ降りて声をかける。

「あっ、戻ってきたわよ! ねぇ、大丈夫なの!?」

姿が見えたカトルからの第一声がそれだった。

地面に座り込んでいたのに、ハルカの姿を見るや否や立ち上がり、障壁に両手を付けて険しい表情だ。

「ご心配かけてすみません、ちょっと人の回収に手間取ってしまって」

「回収? モンタナはどうしたの?」

「捕まえた人たちの見張りをしています。あっちに合流したいのですが、いいでしょうか?」

「捕まえたって、勝ったってこと? あと、なんか変な壁があって動けないのよ! これあなたの仕業?」

「ええっと、すみません、そうです。離れたときに敵が寄ってきたら困ると思って、障壁の魔法を残してたんです。えーっと、このまま移動した方がいいですね、ちょっと空を飛びますが大丈夫ですか?」

「ああもう! よくわからないけど任せるわ!」

空ならさっきも飛んだ。

カトルがどうせ抱えられて飛んでいくのだろうと思って気を抜いていたところ、突然妙な浮遊感を覚える。

視点がどんどん上昇していくのがわかり思わずへたり込む。

透明な床に透明な障壁。つかまるところがなくてあまりに心もとない状況だ。

「わ、わっ、ちょっと、なにこれ!」

「あっ、えーっと、すみません!」

カトルが慌てる姿を見て、ハルカは急ぎ障壁の底面にコンクリートのような色を付けた。身内とばかり接しているせいで、どうしても言葉足らずになっているのだ。

この世界に来るまで、ハルカには指示語で会話できるような仲間がいなかった。そのため一から十まで言葉を尽くしていたのだが、近ごろ言葉が足りなくても何を言いたいか通じてしまうことが多い。

人と接するのに慣れてきたと思ったら、今度は人と接するのが下手になってきている。

「……なんなのよ、あんたのお母さんは」

「ママかわいい」

「ああ、はいはい、あんたも変な子なのね」

ユーリの慈愛のこもった微笑を見て、カトルは呆れたようにつぶやきため息をついた。