軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

箱詰めの人

日本円にしておよそ十万円以上支払った商品を、粉々に砕いてしまったわけだが、これだけ散り散りになると元に戻せるかどうか微妙なところだ。

ものを元の形に戻すためには、できる限り元あったものを集めなければいけない。空へ舞い散ったそれらを探し出すのは少々難しいかもしれない。

ちょっとした破裂音に、なんだなんだと野次馬も集まり始めているので、この場は諦めて退散ということになった。

「本当にすみません」

「専門家が調べてもわからなかったものです、仕方ないです」

気にした様子もなく。またぶらぶらと街中を歩く。食べ物を買ってうろうろ、飲み物を買ってうろうろ。誰かが足を止めれば一緒にぼんやりと店を眺める。

人通りが多いので変に絡まれることもなく、平和な一日だった。

街の外をひたすら歩くことに比べれば大した運動ではないはずなのだが、日が落ちてくる頃にはなんとなく、心地よい充実感を覚えていた。

ユーリは途中で眠たくなってしまったので、今はハルカの腕の中だ。

岳竜様(グルドブルディン) を眺められる広場で、ぼんやりと休憩していたハルカは、ふと視界の端に映った男たちを目で追いかける。

箱を抱えた男たちの中に見覚えがあった。

今朝、モンタナの商品を買っていったカトルという少女の護衛だ。

【マハド王国】とやらに帰るのだろうかとハルカが考えていると、モンタナが急に立ち上がった。

「ハルカ、あの人たち追うです」

「あ、はいはい」

さっと動き出してしまったモンタナを追いかけるため、ハルカは慌てて障壁でベッドを作り、そこにうとうとしていたユーリを乗せる。

「ユーリ、人の後を追います。こっそりいきますので、静かにお願いしますね」

こくりとうなずいたユーリを見て、ハルカはモンタナを追って走り出す。久しぶりの障壁のベッドは、その後ろをピッタリとついてきていた。

危うく見失うところだったが、路地に隠れていたモンタナに呼び止められてなんとか合流することができた。

モンタナの視線の先には、先ほどの護衛たちの姿がある。

「……箱の一つに、人。多分カトルが入ってるです」

驚いたハルカだったが、声を出すことは抑える。確かに小柄な女性なら一人入っていてもおかしくない大きさの箱だ。

「護衛、のはずですよね」

「何か事情が変わったのかもしれないです」

「すぐに捕まえて話を聞きますか?」

「……街中で騒ぎになったら、どうなるかわからないです。外に出るみたいですから、それから仕掛けたほうがいいと思うです」

「わかりました。それにしてもよく分かりましたね」

「カトルの身につけてたもの、魔素がこもってるものがたくさんあったです。色とりどりだったから、なんとなくそれが漏れ出しててわかったですよ」

モンタナの目には魔素が映っている。

ぼんやりと見ているだけのことが多いが、集中すれば薄い壁越しに人がいるかどうかくらいのことはわかるのだ。

特にハルカのような膨大な魔素を消費して常に身体強化をしている相手は、夜闇で遠く離れていてもすぐにわかるらしい。

ちなみに魔法を使うと魔素の奔流が空へ登っていくので、遠くにいてもわかるそうだ。

モンタナに言わせれば、ハルカの魔法は、魔素をめちゃくちゃに消費しているのだとか。

兎にも角にも、穏やかな一日の終わりに、ハルカたちはどうやらまたトラブルに遭遇してしまったようだ。

「護衛の人、ずっとカトルのこと馬鹿にしてたですよ。なんか変だと思ってたです」

モンタナの目から見た時、人が生きているだけで纏う魔素は、その人の感情によって色が変化する。そのおおよその色によって、モンタナは人の気持ちや嘘を見分けていた。

「……カトルは、僕の作ったもの見た時、すごく喜んでたですよ。ちゃんと気に入ってくれてたです」

「正直そうな子でしたもんね。せっかく買ってもらったんですから、元気でいてほしいですもんね」

「そです。ハルカも手伝ってくれるですか?」

「もちろんです」

「ありがとです」

護衛たちが預けていたのだろう馬車を引き取り、その荷台へ次々箱を積み込んでいくのを見守る。

カトルが入っていると思われる箱だけを、人が乗る場所へ積んだ男たちは、雑談をしながら街の外へと向かう。

夜は馬車を走らせられない上、野生動物に襲われるリスクも高まる。夕暮れに出ていくなんて妙な話だが、おそらく門番による荷の確認が疎かになる、終業間際の時間を狙ってのことなのだろう。

男たちが列に並んだことを確認したハルカたちは、街の塀沿いに歩いていき、人の姿が見えなくなったのを確認して、塀の上を飛び越えた。

ハルカがモンタナを抱えて空を飛び、ユーリを乗せた障壁のベッドがその後ろに続く。

誰にも声をかけられることなく街の外へ出ることに成功したハルカたちは、何食わぬ顔で男たちが外へ出てくるのを待った。

しばらくすると、男たちと馬車が現れ、ガラガラと道を進み始める。

全員が武器を携帯しており、ハルカたちから見えるだけでも十人以上の大所帯だ。

ただ、その誰もが国の兵士というよりは、どこかのごろつきのようにも見える。しかしハルカは男たちの服装に一つ共通点を見つけた。

それは左肩につけられた、マークの入ったワッペンだ。全員の服にそれが刺繍されている。

「もしかするとあの護衛、傭兵だったのでしょうか」

彼らの服を見て思い出したものがあった。

昨日騒ぎになった【雷鳥の気まぐれ】の胸の辺りには翼と稲妻のワッペン。

【旋風団】の左肩には、両刃の斧が描かれたワッペンがつけられていた。あれはきっと、傭兵団の決まりのようなものなのだ。

「……どっちにしても、休んだところで襲撃するですよ」

「全員が集まったタイミングがいいですよね」

それなりに距離を取れたことを確認したハルカたちは、遠くに小さく見える馬車の背を追いかけ始めるのであった。