軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

発掘物

露店を冷やかしながら歩いていると、想像していたよりも変わったものがたくさん並んでいる。

モンタナのように自分で作ったものをおいている者が圧倒的に多いのだが、中には似顔絵を描くだとか、一曲披露するだとか、一芸を披露するような者たちもいる。道理でたまに歓声が上がったり、拍手の音が聞こえてきたりするわけだ。

笛を吹くと蛇が壺から出てきて踊るという芸を見たハルカは、テレビで見たことがあるやつだと感動したものである。

そして今ハルカたちが立ち止まって見ているのは、用途のよくわからないものだらけの露店だった。場所を広くとっており、とにかく雑多にものが並べられている。

古臭くて表紙の読めなくなった本だとか、錆び切った武器だとか、何かの部品のようにしか見えない金属、壊れた模型らしき物に、土くれにしか見えないような何か。

店の主はふてくされたような顔をして胡坐をかき、体を傾けて頬杖をついている。ハルカたちが見ていてもその態度はまったく変わらず、接客する気なんかはまるでなさそうだ。

果たして売れるのだろうか。

そんな疑問を持ちつつも、あまりに統一性のないラインナップにハルカは足を止めていた。

ユーリもしゃがんで首をかしげているし、モンタナも武器や本のあたりに目をさまよわせている。

ハルカとしてはなんとなく金属片らしきものが少し気になった。どこかで見たことがあるような、しかし思い出せない変わった形をしている。しばらく見てから、なんだったかなと空を仰いで考える。

またどこからか歌声が聞こえてくる。

歌といっても、誰かの活躍を語るような吟遊詩人的な歌だ。

その声に耳を傾けているうちに思考が霧散して、結局目の前の部品が何に似ているのかはさっぱり思い出せなかった。

特に予定もなければ、重要なことでもないのでハルカは一向に気にしていなかったけれど。

露店は広く場所を取っているうえ、他の客が足を止めることがないので、ここで立ち止まっている分には誰の迷惑にもならない。

ほんのりと暖かな気温と、たまに抜けるそよ風が肌に心地よかった。

「あんたら見てて楽しいの?」

露店の主は姿勢を崩さないまま、あきれ顔で声をかけてくる。

高い位置で髪をくくったポニーテールが、風でそよそよと揺れている。切れ長の目と、細い眉に見つめられ、ハルカは悪いことをしたわけでもないのに少し緊張してしまった。

「すみません、長居して。それが何の部品かなと考えていまして」

「……部品?」

指さした金属片を見て復唱した女性は、しばしじっとそれを見てから「あぁー」と息を吐くようにつぶやいた。

「成程ね、何かの部品か。結構でかいからこれ一つで意味があるものかと思ってたけど、そうじゃないんだなきっと。ふぅん、なるほどね」

一人でしゃべりながら、その金属片を手に取った女性は、そのままそれを後ろに置いてあった荷車に仕舞いこもうとして、ぴたりと手を止め振り返る。

「ね、あんたこれに見覚えあるの?」

「いえ、その、あるような、ないような」

「なぁんだ、曖昧だね。ダークエルフなら何か知ってるかと思ったのに」

結局割と雑に金属片を放り込んでから、女性は足を伸ばして座った。

「んで、そっちのちっちゃいの達は、なんか面白いものあったのかい?」

ユーリはフルフルと首を横に振ったが、モンタナは並べられたもののうち、二つを指さした。風化しかけている本らしきものと、錆びだらけで、今にも崩れそうな剣だ。

「これ、とこれ、なんです?」

「なんだかわかってたら並べてないね」

「なんだかわからない物並べてるです?」

「調べたってわからない物持ってたってしょうがないだろ」

「……遺物です?」

「何の役にも立たないただの発掘品だ。遺物ってのはね、役に立つから遺物なんだよ」

「欲しいです」

「はいよ、んじゃ適当に金くれ」

モンタナは袖から金色の硬貨を一枚取り出して差し出す。女性は、一瞬驚いたような顔をしたが「これがねぇ……?」と呟いてから硬貨を受け取った。

「あたしにはわからない価値があるってことかね。そんじゃ持ってきな」

手袋をはめた女性は、本の下に慎重に板を差し込んで持ち上げる。確かにそのまま手で持ったら今にも崩れそうだ。ガサツな言葉遣いをしている割に、物の扱いは心得ているらしい。

「ハルカ、運んでほしいです。あまり動かさないように」

「そうですね、わかりました」

板ごと受け取ったハルカは、それを障壁の上におろし、そっと板を抜き取って返した。

「見たことのない魔法だね。持ち運ぶすべがなけりゃ運搬料でも取ってやろうと思ったのに。ま、一日でこんだけ売り上げりゃあいつらも文句言わないだろうよ」

錆びた剣を障壁の上に乗せた女性は、そのまま広げてあった物をどんどん荷車に放り込んでいく。適当にやっているように見えるのだが、どうやら中に仕切りが作られていて、きちんと場所は分けているようだ。

「店じまいするです?」

「退屈だからな。賭けに負けて店番してたが、金貨一枚ももらえりゃ今日の稼ぎは十分だ、ありがとさん」

「お姉さんも冒険者?」

荷車に敷いていた布をかけたところで、ユーリが質問を投げかける。女性は振り返ってにっかりと笑って答えた。

「遺跡探索を主にしてる冒険者さ。興味があるのなら、大きくなってから【自由都市同盟】のクラン【青の書院】を訪ねておいで。さーて、さっさと作業に戻るかね」

言うことは言ったとばかりに、女性は荷車の持ち手を引いて、ゆっくりと去っていった。露店は本当に変わった人物が多い。

「ハルカ、ちょっと場所移すですよ」

「ええ、構いませんが」

モンタナに促されて、ハルカたちは露店から離れ路地裏へ向かう。

路地裏の住人たちは、武器を持ったモンタナを見ると、ほんの少し思案してからさっと奥の方へと引っ込んでいった。力に自信のある者や困窮している者であれば、トラブルも起きたかもしれないが、幸い余裕のある人物だったらしい。

適当な場所まで移動して振り返ったモンタナは口を開く。

「さっきの本と剣、ほんの少し魔素がまとわりついてたですよ。もしかしたら何かあるかと思って、買ってみたです」

「なるほど……。しかしどちらもボロボロで、何かの役に立ちそうには見えませんが……」

「このままだとそうです。……ハルカの魔法なら戻せるかと思ったですが、難しいです?」

「うーん……、試してみましょうか」

ハルカは並んだ二つの発掘品の上に手をかざし、ノクトの使う元に戻す魔法をかけてみる。十秒、二十秒と続けてみるが、それ等の状態が変わっていく様子は見られない。

それは継続して数分かけ続けても同じで、結局状態が完全になることはなかった。

よくよく観察してみれば、最初よりましになっているようにも見えるが、ほんの些細な違いである。

「駄目ですか」

「駄目みたいです」

「そしたら、手で触って魔素通してみてほしいです」

「……えーっと、やってみましょう」

なんとなく、魔素を集め流し込む。これは物の形に変容を与える魔法を使うときと同じようなコツでできる。

漠然と魔素の流れを操作し、中へ入り込ませる、そんなイメージを持った瞬間、本と剣が小さな音を立てて爆ぜた。

障壁で囲うようにしていたので、飛び散った破片はハルカにしかぶつからなかったが、想像していなかった事態に驚いて固まってしまう。

「…………モンタナ、ごめんなさい」

「だいじょぶです。使い方違ったのかもしれないです」

空に舞う紙片を眺めながら、モンタナはこてんと首をかしげるのであった。