軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

意外と話が分かるお嬢様

少女がしゃがみこむと、こっそりと呆れたような顔をした護衛が距離を縮める。

じっくりとモンタナの商品を眺める少女の腰にも、最低限の護身用になりそうな短い曲刀が刺さっている。鞘には見事な装飾がなされているところを見ると、どちらかと言えば飾りに近いのかもしれない。

「……丁寧ね、それにこのあたりでは見ない加工の仕方だわ。このあたりの子ではないの?」

少女はモンタナのことを子と表現したが、おそらくモンタナの方が年上だ。見た目からすると少女の年齢は十代半ばだ。

「北方大陸から来たですよ」

「北方大陸! そっちの二人は……南方の人よね。あら、よく見たら……ダークエルフ?」

そこで初めて警戒したようだが、護衛はまたも呆れた顔だ。どうもこの少女は少し護衛たちから見くびられているらしい。あまりよろしくない雰囲気を感じながら、ハルカは口を開く。

「私たちも北方大陸から一緒に来たんですよ」

「あ、そ、そうなの。ふぅん、ダークエルフって北にもいるんだ」

独り言のようにつぶやかれた言葉への回答は控える。

そもそも南方のダークエルフについて詳しくないので、余計なことを言って突っ込まれても困ってしまう。

「でもこれだけの腕があって露店で販売するのはもったいないわよ、ね、私に雇われなさい」

「……いいです、これはやりたいからやってるだけです。本業は冒険者ですから」

「冒険者? ふぅん、冒険者ってこんなに小さな子もなれるのね?」

少女が振り返ると、口をへの字に曲げた護衛が答える。

「ま、冒険者なんてそんなもんですよ」

鼻で笑う仕草は、明らかに馬鹿にしたものだ。

嫌な気分だと思いながらも、トラブルを避けるためにハルカは黙った。モンタナも一度護衛の二人を見てから、興味を失ったかのように手元に視線を落とす。

「……そういうの、良くないわよ」

眉間にしわを寄せた少女は、それだけ言うとモンタナの方に向き直った。後ろの護衛が不機嫌さを露わにして少女の後頭部を睨みつける。なんとも態度の悪い護衛である。

ハルカたちがそれを告げ口するとは、露とも思っていないようだ。

「……仕方ないから、あるものは全部もらうわ、気に入ったし」

腰に吊り下げた袋を丸ごとモンタナに差し出した少女は、本当に残念そうにそう言った。売り物の値段を決めるのはモンタナだ。

パタンパタンとゆっくり尻尾を動かしながら、モンタナは袋の中身を検める。

ハルカもユーリも、そして少女もその動きに注目している。

「かわい……」

言葉にならないくらいの小さな声で目じりの下がった少女が呟く。

「ありがとです、持ってっていいですよ」

モンタナが気前よくそんなことを言うのは珍しい。そこから、この少女が本気でモンタナの作ったものを気に入っていることはよくわかった。しかし、少しだらしのない表情と、動く尻尾に向けられる視線から、少女が接触した目的がそれだけではないこともなんとなくわかってしまう。

モンタナがそれに気づいていないはずはないのだが、強い拒絶を見せないところを見ると、そこまで邪な感情ではないのかもしれない。

布で包んで小さなポシェットにそれらをしまい込んだ少女は、今までとは違った満足げな表情を見せてから、しっかりとそのかぶせを閉じた。「よし」と呟いてから、腰に手を当てた少女は再び口を開く。

「で、冒険者としてなら雇うことができるの!?」

「……何の用事でです?」

一応話に付き合ってあげるようで、モンタナは少女を見上げる。

「私の国に帰るまでの護衛よ!」

「お嬢、護衛なら俺たちがいるでしょ。冒険者なんか雇う必要ないですよ」

「ちょっと黙ってて。で、どうなのかしら!」

後ろの男の言葉をぴしゃりと遮って、催促をするが、モンタナはゆっくりと首を振る。

「予定があるですよ。期間が長いと受けられないです」

「……じゃ、じゃあ、街にいる間だけでも」

「お嬢! いい加減にしてください、あんまりしつこいと流石にマハド王に言わなきゃなりませんぜ」

「黙ってなさいって言ったでしょ!」

「いいえ黙りません。うちの大将からその辺はしっかりするよう言われてるんでさぁ」

力関係がよくわからないが、少女が一方的に命令できるわけではないようだ。

少女は表情でできる限りの機嫌の悪さを表現して護衛を睨む。しかし護衛は彼女の顔をしっかりと見て、目をそらそうとはしなかった。

先に折れたのは少女の方で、舌打ちをしてため息をつくと、モンタナの前にしゃがみこむ。

「ここから南にある【マハド王国】、マハド王が娘のカトルよ、名前を教えなさい」

高圧的なようにも聞こえるが、身分を考えれば十分に譲歩しているようにも思える。

「モンタナです」

「そ、せっかく気に入った子を見つけたのに、雇えないの残念だわ」

それからカトルは黙ってハルカとユーリを見つめる。

「なん……でしょうか?」

「名前を聞いてるのだけど?」

「あ、私たちもですか」

「北方大陸からわざわざ来るような冒険者なんでしょ。名前くらい憶えておきたいじゃない」

てっきりモンタナにしか興味を持っていないと思っていたので、この申し出は意外だった。

「はい、ハルカです」

「ユーリです」

「そう、覚えておくわ、何かの役に立つかもしれないし!」

さっと踵を返し、胸を張って歩きだしたカトルだったが、しばらく進んでから一度だけ名残惜し気に振り返った。

「全部売れちゃいましたね」

「そですね、することなくなっちゃったです」

「お店見て回る?」

「そうしましょうか。……それにしても、なんだか護衛の人と仲が悪そうでしたね」

「変な感じだった」

ハルカとユーリが、「ね」と言って顔を見合わせていると、モンタナはカトルたちが去っていった方を見つめて呟いた。

「ほんとに、変な感じで仲が悪そうです」