軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

これいくら?

朝早く、というほどの時間ではないけれど人の出入りはまばらだ。

露店の商人たちも、まだ準備をしている者がほとんどで、布を広げたり商品を並べたりしている。

時折開店前の暇つぶしなのか、通路部分をうろついて並べられていく商品を見ている者もいるが、冷やかしであって価格交渉はまだ始まっていない。

モンタナは空いている場所を見つけると、布を大きく広げて袖から取り出した商品を並べていく。

ハルカたちはすることもないので、後ろで静かに待機だ。二人してモンタナの尻尾や耳が動くのをぼんやりと眺めている。元の世界ではいない獣人のパーツは、二人にとってはいつだって興味深いものだった。

慣れてきたとはいえ、特にすることがないと、それが動くたび目で追いかけてしまう。

「準備できたです」

すぐに並べ終わると、モンタナは腰を下ろしてぼんやりと人通りを眺め始める。

ちらりと目を落としてすぐに立ち去る人々を見ると、ハルカなんかはいちいち緊張してしまうのだが、モンタナはちっとも気にしていないようだった。

もうすぐ季節は春になる。

今はまだ少し寒いが、もうしばらく日が照れば、気持ちの良い昼寝日和になりそうだ。

ユーリがモンタナの横へにじり寄っていき、並べられたアクセサリーを見て呟く。

「モン君、もの作るの上手」

「結構練習したです」

「ママの耳のもモン君が作ったんだよね」

「そですね。ユーリも大きくなったら何か作ってあげるですよ」

「ありがと」

二人が並んで喋っているのがほほえましいのか、通り行く人は商品よりも二人の方に注目している。

のんびりと続く二人の会話は、やがてモンタナの実家の話になったころ、ふとハルカはモンタナに尋ねてみる。

「モンタナは、そろそろ一度実家に顔を出してもいいんじゃないでしょうか?」

「……ちょっと思ってたです」

「帰りに寄っていってもいいんですよ?」

モンタナは無言で目を伏せて、尻尾をぱたん、ぱたんとゆっくり動かしている。何かを考えているようだと悟ったハルカは答えを待っていたが、しばらくしても返事はない。

「心配事がありますか?」

「……父と母は喜んでくれると思うです、けど」

ハルカたちにとってモンタナは冷静で頼りになる存在だ。悩みを表に出すタイプでもないので、ついつい大丈夫なのだろうと思い込んでしまいがちだが、モンタナだってまだ十代の悩み多き青年なのだ。即断即決できないことくらいある。

ハルカは場所をモンタナの横に移して座る。ユーリと二人で挟み込むような形だ。

「せかしているわけじゃありません。お邪魔でなければ一緒に行きますし」

頭をそっと撫でると、モンタナは少し背中を丸めてされるがままになる。

アルベルトなんかはずいぶん前に撫でられるのを嫌がるようになったが、モンタナは出会った頃とあまり変わらない。むしろハルカが落ち込んでいるときなどは、自主的に頭を差し出してくることもあるくらいだ。

「帰り道はやめとくです。場合によってはアルとかが怒りそうですから」

「それはどういう意味です?」

「多分、僕を嫌がる人も工房にはまだいるですよ。そしたらアルはきっと怒ると思うです」

ハルカは、何かしらの確執があるのはわかっていたが、嫌がると表現するほどのものとは思っていなかった。

ハルカからすればモンタナをそこまで嫌うような人が理解できない。

勤勉で頼りになる、それでいてとてもかわいらしいのがモンタナだ。

「多分今なら向きあえるですけど……、なんかあったら嫌ですから。行くのなら、アルとレジーナは連れて行かないです」

簡単に手が出る二人は同行者として失格らしい。

最近ではちゃんと考えてからお話ししたうえで手が出るようになっているはずなのだが、モンタナからはそこまでの信頼を勝ち得ていないようだ。

あるいはそれほどまでに歓迎されないとモンタナが思っているか。

少しふざけたように言ってみせたモンタナに、ハルカはそれ以上の深掘りはせずに、ただ同意した。

「そうですね、二人はすぐに喧嘩をしますからね」

「そです。工房の人は冒険者じゃないから、喧嘩されたら困るです」

軽く笑って話を切り上げ、またぼんやりと人が歩いていくのを眺める。

通りには来た時よりも少し人が増えてきていた。

立ち止まる人もたまに出てきて、そして声をかけられるのは決まってハルカだ。

真ん中にモンタナがいるにもかかわらずハルカに話が振られるのは、やはり見た目の問題なのだろう。

モンタナはどうしても子供のように見られてしまう。

今のところ丁寧な客が多いが、冒険者や傭兵風なものも増えてきているから、そのうちきっと、舐めてかかってくるものも現れるだろう。

暴力をちらつかせることもまぁ、交渉材料の一つではあるのだ。

予測さえしていれば驚くことはない。

そういう人たちの傾向というのを、ハルカはいい加減先読みできるようになってきていた。

平和な交渉が続き、昼前。

へそを出した褐色肌の少女が、モンタナの前でぴたりと足を止めた。

ジャラジャラとネックレスやら髪飾りやらを付けていて、後ろには屈強な護衛を従えている。いかにも金持ちそうな少女だ。

少女は猫のように吊り上がった目で、顎を上げたまま視線だけ落とし、モンタナの商品を見つめている。しゃがんで近くで見たほうがいいんじゃないだろうかと思いながらも、ハルカはその様子を黙って見守っていた。

「あんた獣人よね、これ全部あんたがつくったの?」

「そです」

「ふーん、じゃ、あんたいくら?」

モンタナがゆっくり瞬きをして顔を上げると、少女はすっと目をそらす。

「何言ってるです?」

「だから! あんたの腕ごと買ってやるって言ってるのよ。連れてくためにいくら払えばいいの!?」

「……何言ってるですか?」

「なんでわかんないのよ!」

二度目の返答は、ハルカの方を向いて確認するようなものだったが、少女の方はかんしゃくを起こしたのか、地面をダンッと踏みしめる。

「えーっと、あの、モンタナは非売品です……」

「は? 露店なんかやってるんだから金が要るんでしょ。私が、直々に、後ろ盾になってあげようって言ってるの」

「いらないです」

「は?」

「だからいらないです、後ろ盾」

「はーん、そうやって価値を引き上げようっていうのね、受けて立つわ」

なんだなんだと人の目が少しずつ集まってくる。

今日はのんびりするはずだったのに。

ハルカとモンタナは、そう思いながら困った表情で顔を見合わせた。