作品タイトル不明
休暇
ハルカの意識が浮上する。
パタパタと人が歩く音が二つ聞こえてきた。比較的軽い音だけなので、きっとコリンとユーリだ。
規則正しい寝息が聞こえてくる。瞼越しに太陽の光を感じて、すでに朝が訪れたのだと分かった。
ゆっくりと目を開けると、腕を組んでいるリヴの姿が見えた。規則正しい寝息はそこから発せられている。
小さな丸テーブルには空になった瓶とグラスが二つ、ハルカの前のグラスにだけ、わずかに水が入っていた。
先に眠ってしまったので、残っていた氷が溶けて水になったのだろう。
隣ではイーストンが目を細めて外を見ている。視線の先には訓練をしている仲間たちの姿があった。近くで伏せているナギが、じっとそれを見ている。
ハルカが眠っていたからか、互いに打ち合うようなことはしていないようだ。
視線を戻すとリヴがさっきと同じ姿勢のまま、ぱっちり目を開けていた。
「寝てたか。……邪魔したな、部屋に戻る」
「すみません、先に眠ってしまったみたいで」
「いや、気にするな。楽しかった」
グラスを三つ重ね、片手に瓶を持ち、リヴは扉へ向かう。両手が塞がっていることに気がついたユーリが小走りで先回りし扉を開けた。
「どうぞ」
「ありがとう」
ハルカが微笑ましく思い見守っていると、コリンが近づいてきて、リヴの座っていた椅子に腰掛ける。
「おはようございます」
「おはよーハルカ、お酒飲んだの?」
「ええ、リヴさんが出してくれたので。外でないならいいかと思いまして」
お酒禁止を言いわたされていたので、少し緊張しながら答えたハルカだったが、意外なことにコリンは心配そうな顔で首を傾げる。
「大丈夫? ぐにゃぐにゃにならなかった?」
「あ、いえ、途中で眠ってしまったんですが、覚えている限りは……」
「ふーん、ならいっか。頭痛くない?」
「ええ、いつもと変わりません。ありがとうございます」
前に飲酒した時の失態は自分でも覚えているので、これからも変わらず外での飲酒は控えるつもりだ。
でも拠点だったり、こうしてのんびりしてもいい場所であればたまにはと思わないでもない。
「そ、イースさんは? 寝てないの?」
「そうだね、今から眠るつもりだよ」
「昨日は一緒に出かけたし、今日はいっかー」
「予定でもあった?」
「ううん、今日は別に……ないよね?」
寄ってきたユーリを膝に乗せていたハルカは、少し考えてみたが、特に用事は思いつかない。
おそらくボンドたちがやってくるので、彼らを見るのに誰か屋敷に残っていればそれでいいだろう。
「そうですね、今日は自由で。あと数日はこちらにいますけど、やっておくことありましたっけ?」
「うーん、私はもっと市場をうろうろしようかなーって思ってるけど、ハルカは?」
「うろついてみようとは思ってますが、用事と言われると特には」
「だよねー。拠点にいると意外と忙しいんだけどなー。物運んだり作ったり、地面耕したり」
「そうですね」
拠点の様子を思い出して、ハルカは少し心配になった。なんだかんだとヴィーチェに留守を任せてきたが、カーミラはうまくやっているだろうかと思う。
うまくノクトがフォローしてくれることを祈るばかりだ。
カーミラの犬、もといお友達が訪ねてくる可能性も伝えておいたが、帰ったときに拠点がどうなっているか段々と気になってきた。
「……みんなも心配しているでしょうし、できるだけ早く帰りたいですね」
「そうだよねー……、ちょっと早めに戻ってナディムさんたちの準備を待ってもいいのかもね」
「僕もそれでいいと思うよ。どうしても街中にいると僕も気を張っちゃうしね」
イーストンが伸びをしながら立ち上がり、空いているベッドに倒れ込む。
夜型とはいえ、昼間からずっと起きていたので結構眠たかったのだろう。
「朝ごはん準備してくれるみたいだけどどうするー?」
「アルにでもあげて、僕は休むから」
うつ伏せで眠り始めたイーストンを見て、そっとしておいてあげようと、ハルカも立ち上がる。
結構大きくなってきたユーリだが、子供一人くらいなら、誰でも軽々と抱いて歩くことができる。
部屋から出て正面玄関から仲間たちに声をかけてから、リヴ邸での朝食を食べたハルカたちは、各々自由行動することに決めた。
ユーリのことを過剰に心配する必要がなくなったので、久々にそれぞれ好きなことをしようというわけだ。
コリンは一人でお出かけ。
いつの間にかちゃんと街の地図を手に入れていたようで、随分と張り切って出かけていった。
アルベルトとレジーナは残って訓練。
イーストンは昼寝で、残ったのはハルカとユーリ、それからモンタナだ。
特に用事のない二人は、ゴソゴソと荷物を整理しているモンタナを後ろからじっと見ている。
邪魔をするつもりはないが、何をしているのかは気になるのだ。
「……一緒に行くです?」
モンタナが引っ張り出した布を見て、ハルカはハッと思い出す。モンタナは作ったものを露店に出すつもりだ。
「なんだか久しぶりですね」
「この街は結構盛んみたいです」
「ご一緒させていただきます」
「ですか」
のんびりと歩き始めたモンタナの後を、ハルカはユーリと手を繋いでついていく。今まで隠れて過ごすことが多かったユーリにとっても、きっといい経験になるはずだ。
きっとのんびりとした一日がはじまるだろう、多分、おそらく。